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いつからだろうか。自分の存在価値が無いと思うようになってきたのは。
いつからだろうか。人と関わりを持ちたくないと思うようになってきたのは。
いつからだろうか。このまま、消えてしまいたいなんて思うようになったのは。
出来てもない笑顔を、人に見せるようになって。
トラウマをずっと抱え込んで。
怖くて怖くて、縮こまって。
、、、幸せな人生って、なんなんだろうか。
「んん、、、」
スマホから流れる機械音で、目が覚める。
朝の六時半。まだまだ寝てたいけど、体を起こす。外は生き生きとしている緑と、華やかな桜色で彩られている。可愛らしいライオンみたいな 部屋着でリビングに向かう。母親がせっせと忙しそうにキッチンで家事をしている。
「あ、颯斗《はやと》おはよう。」
「おはよ、お母さん。」
うちの母親は面倒事をよく引き受けている。町内会でも会長をしていたり、近所の揉め事も仲介役として入っていたりと、自分には到底出来ないようなことを平然とやってのける。仕事も忙しいだろうに、ちゃんと家族との時間を取ってくれる。他の人が見たら羨むような母親だ。これは自信を持って言える。
テレビを付けるとどこかの芸能人が都内のケーキ屋の食リポをしている。
「ん〜、、、はよ。あ!おにい!リモコン貸して!」
「やだ。」
「はー!ひどっ!何さぁ、ケーキ食べたいの?」
「別にそうでは無いけど、、、」
「んじゃあ変えちゃお〜っと!」
「ちょっと、日向《ひなた》!」
日向にリモコンを奪い取られ、チャンネルを変えられる。くっそ。何だこの妹。
、、、こいつ、俺の同級生からも告白されてたらしいし、学校では人気者、、、らしいし。更には運動もできる。勉強は中の上、、、とか。
なんか認めたくない。
「ほら、二人とも朝ごはんできたから。」
「はーい。」
日向の後に続いて席に座る。味噌汁の良い香りが嗅覚を刺激する。
朝ごはんを済ませ、学校へ行く準備をする。
制服に腕を通す。もうこの時点で憂鬱だ。布団にダイブしたい。そこをぐっと堪えて、リュックサック型のカバンを背負う。
「いってきます。」
日向はもう家を出たらしく、俺も家を出た。
外は暖かく、長袖では少し暑いぐらいだった。
歩いてバス停にまで行き、バスに乗って駅まで行く。
(うわ、値上がり今日からだったな、、、)
バスの運賃も二十円程、上がっていた。辛い。
ワイヤレスイヤホンを耳に入れ、お気に入りの曲を流す。一人だけにしか言ってないが、ボカロ曲が好きだったりする。うちのクラスにもそんな人は何人かいるが、ちょっと話しかけづらい。曲に浸っているとバスが終点まで着き、値上がりしやがったバスにおさらばした。ちょっと歩き、地下鉄に乗り込む。さっきまで聞いていた曲をもう一度流し、電車の窓から見える景色を眺める。正直、あまり面白いとも言えない景色だが、ぼうっと景色を眺めてると勝手に目当ての駅に着くからよくこうしている。、、、ただ、最近飽きてきた。そりゃそうか。
(帰りてぇ、、、)
校門まで来ておいて、一気に頭に浮かんできた言葉がこれである。やっぱり月曜日は消えた方がいいのではないのだろうか。うん、消そう。
ただそんな決意もどこかに飛んでいき、教室へと入る。席は窓際の端。教卓から一番離れた席。
「柳ぃ、、、聞いてくれ、、、頼む、、、」
俺が席に行くと勝手に座っている。こいつは近藤拓也《たくや》。中学の時にボカロで仲良くなって意気投合している。性格も良いし、勉強もそこそこできる。あとイケメン。イラつくぐらい、イケメン。なんで俺の周りこんな美男美女しかいねぇんだよ。しかし、そんな奴がここまでへこんでいるのは友人として見過ごせない。というか、見過ごしたらしつこい。
「彼女へのプレゼントが分かんないだぁ?」
「そうです、、、柳せんせぇ、、、」
「聞く相手を間違えてるとか思わんの?」
「だってぇ!人見知りなの分かるだろぉ?」
性格も顔も良い。それなのに人見知り。どれくらい人見知りかと言うと、担任と話すまでに二週間掛かったらしい。だからあまり人とは話さない。そのせいで、クールだのなんだの言われて、また好感度が上がる。こいつ、、、
「、、、無責任なことは言えないけど、ブレスレットとかじゃない?あとはミサンガとか?」
「柳。」「ん?」「愛してるぞ。」「ぶっ飛ばすぞ。」
友人からの愛の告白を一蹴しといて、朝のホームルームが始まる。まぁ、適当に聞き流しておこう。
「、、、部活か。」
前から回ってきたのは入部届けだった。全く話を聞いてなかったせいで、何があるだのなんだの聞き忘れた。やらかした。後で近藤にでも聞こう。そうして、授業が開始された。
「柳はさ、なんの部活に入る?」
「帰宅部だろ。」
「えぇ、、、」
「んだよその顔。悪いかよっ。」
「悪くはねぇんだけど、、、楽しいかもだぞ?部活!」
手を広げる近藤を横目に見とく。
「はいはいたのしいかもね」
「棒読みじゃんか〜」
今は放課後。だから心置きなく話せる。近藤の話によるとここから一週間体験入部ができて、入る部活を決めるらしい。部活の一覧は流石に覚えてなかった。でも、それぐらい多いのだろう。
「あ、ごめん柳。彼女から連絡来た。」
「ん、わかった。いってきなー。」
夕日に照らされた教室は琥珀のように綺麗な色をしていて、ちょっと非日常感があった。まぁずっとここにいるのも先生に申し訳ないし教室の鍵を閉めて職員室に返しに行った。
「わぁぁぁぁぁぁ!!!」
鍵を返して職員室から出た直後、廊下に悲鳴が響く。突然の出来事で、なんか逆に冷静になっていた。
(声の距離的に真後ろ。紙が飛ぶ音。声質は女子。鈍い打撃音。)
よし、ろくな事にならない。無視無視。帰ろ帰ろ。
「うっ、ひぐっ、、、」
(、、、)
俺は振り返ってそこら中に散らばっている髪を拾い上げる。楽譜。ということは、吹奏楽部だろう。全部拾い終わり、結構雑に女子に渡す。
「あ、ありがとうございます。」
特に目も合わさず、そのまま立ち去ろうとする。
(ちょっと酷すぎたかな、、、)
なんて考える。外は教室ほど明るくなく、少し暗闇が空を覆いそうだった。
「ね、ねぇ!!君!!」
後ろから声が聞こえる。さっき聞いた声。彼女の手には元々俺のバッグに付いていたキーホルダー。
「あ、足速い、、、流石男子、、、はい。これ。君のだよね?」
「え、あ、はい。」
彼女の目を見る。そして、頭を抑える。この人、先輩だ。うちの学年にはいない。先輩だ。なんで楽譜落とした時に気づかなかったんだ。、、、まって凄い失礼なことしたよね?
「す、すいません!ありがとうございます!」
「ううん。大丈夫だよ。可愛いキーホルダーだよね。」
「あ、妹がプレゼントでくれて。」
「じゃあ尚更届けられて良かった!、、、もしかして、一年生?」
「は、はい。」
嫌な予感。
「それじゃあさ──────。」
「一年生捕獲〜!」
最悪だ。いや、楽譜拾ったのとキーホルダー拾ってくれたので貸し借り無しとか思ったけど。そういや俺、雑に楽譜扱ってたという罪悪感で言いなりになったとかじゃなくて。決してそういう訳じゃ
「体験の子は、、、まぁそんなとこかな。」
見たことある顔の人は十数人程いた。全校生徒の人数がわかんないけど、多分結構多いと思う。その後顧問の先生が来て、挨拶をしたあと、楽器の振り分けをされた。俺が行くのは、、、クラリネットパート。
「お!可愛いキーホルダーの子!」
「、、、よろしくお願いします。」
なんでよりにもよってこの人なんだよ、、、
「ん?何?知り合い?」
「んーん。今日はじめましての人。私が楽譜落とした時に拾ってくれたんだよ!、、、雑かったけど。」
「うっ」
やめてくれ。結構気にしてて刺さるんだから。
「まぁそれは置いといて。他にも三人来てるのかぁ。どう分けよかな。」
「その、、、雑い子と顔見知りなんだったらそこペアでいいんじゃない?他はこっちで引き受けとくから。」
酷い言われようなんですけど。いやまぁ、俺が大体は悪いけど、、、他の体験の人からの目が冷たい。怖い。
「ほんじゃまぁ。自己紹介からしよっか!私の名前は安倍桃子。《あべももこ》楽器はバスクラリネットで、二年生。、、、あと何話したらいいんだろ。わかんないから以上!よろしくね!」
「柳颯斗です。」
「、、、あかん。話題がない。ねー!なっちゃん!なんかない!?」
さっき雑い子とか言ってた人に話しかけてる。
「もう彼女いるの?とかでいいんじゃない?」
凄いこと言い出してくるなこの人。
「恋愛系かぁ、、、柳君。彼女は?」
「、、、いませんけど。」
「好きな子は?」「いませんけど。」
「、、、なっちゃん!!話題尽きた!」
自己紹介(?)をしてる間に体験の時間に移る。
「はい!というわけで。こちらをバスクラリネットと言います。、、、まぁ、想像してたクラリネットではないよね、、、」
まぁ、安倍先輩の言う通り。俺が予想してたクラリネットとは違くて。ぐにゃぐにゃしてる?みたいな感じ。
「一回吹いてみるね。」
楽器の先端に付いている黒い部分を口にくわえた。安倍先輩の息を吸う音が小さく聞こえる。直後として、音が鳴る。正直に言うと、上手いのか下手なのかも分かんないし、何が凄くて何が良いのかも分からない。でも、一つだけ。
「、、、あったかい。」
「ふぇ?」「え、あ、すみません。声出ちゃってました、、、?」「う、うん。」
「あ、いやその、バスクラリネットの音が暖かくて、包み込んでくれるような、こう、優しい感じがして。え、えぇと、、、」
彼女の顔を覗く。ほんのり赤みを帯びていて、耳はもう、真っ赤だった。
「いや、その、真っ直ぐに褒めてくれるから、、、照れるじゃん、、、」
「ご、ごめんなさい、、、?」
「へんっ。まぁ、いいとして。ありがと。そんな嬉しいこと言ってくれて。」
くしゃっと彼女が笑う。彼女の優しそうな笑顔が、楽器にも出ているのかと思ってしまう。
「じゃあ吹いてみよ!」「は、はい!」
「ねー。柳君さ。吹奏楽部入らない?」
「え、嫌です。急にどうしたんですか?」
「即答っ!、、、いやまぁ。こんなこと言うと悪いけど、バスクラって結構初心者向けでは無いんだよね。サックスとかユーフォとかが初心者は音出やすい、って言われてたりするの。まぁ、その辺の楽器は音出してからがしんどいんだけど、、、でも、柳君この数十分で音出したじゃん?なら、入って欲しいなーって。」
「嫌ですよ。俺。」
「むぅ。なんでさ。」
彼女はぷくっと頬を膨らます。
「音符も読めない。音楽性皆無ですし。どちらかというと、聞く専門なので。」
「え〜、、、まぁ、そっか。仕方ないね。」
彼女は少しションボリしていた。ちょっと申し訳なかったけど、ここはあまり譲りたくない。、、、誰かと一緒にするのって、嫌いだから。