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ち び
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「 ねぇ勇斗、聞いてる? 」
グラウンドの脇、部活が終わってヘトヘトになった俺目の前で、チームメイトの仁人がペットボトルの水を飲み干しながら言った。
タオルで乱暴に汗を拭いながら、あいつはニヤニヤと悪巧みでもしていそうな笑みを浮かべている。
「 ん? 聞いてる聞いてる。仁人の足が遅くなったって話だろ 」
「 絶対聞いてねぇだろ! そうじゃなくてさ、同クラの写真部の話だよ 」
「 写真部? 」
ゴクゴクとスポーツドリンクを喉に流し込みながら、俺は首を傾げた。
写真部といえば、文化祭のときに校舎のあちこちをパシャパシャ撮っている集団、くらいの認識しかない。
部室の場所だって、確か校舎の隅っこにある古臭い特別棟のほうだったはずだ。
「 そう、写真部の『 山中 』お前、知らねぇの? 」
「 山中……? ああ、前髪長くてあんまり喋らないアイツか。名前なんだっけ、柔太朗? 」
「 そうそう、その山中柔太朗。あいつさ、校内ですげぇ噂になってるんだよ。『 写真部ならぬ、隠し撮りハンター 』ってな 」
「 は? なんだそれ、物騒だな 」
思わず吹き出すと、仁人は真面目な顔で首を振った。
「 マジだって。なんでも、あいつがこっそり隠し持ってるアルバムがあってさ、そこに写ってる生徒たちの写真のクオリティがエグいらしいんだよ 」
「 しかも、被写体がめちゃくちゃ自然な瞬間を切り取られてて、本人すら気づいてない表情ばっかなんだとさ 」
「 女子の間じゃ『 あれは一種のストーカー技術だ 』とか『 いや、芸術的すぎて盗撮ってレベルじゃない 』とか大騒ぎよ 」
「 へぇ…… 」
クラスにいるときの山中は、基本的に静かだ。
一人で文庫本を読んでるか、イヤホンを耳につけて窓の外をぼんやり眺めているか。
話しかければ普通に返してはくれるけれど、自分から輪の中心に入ってくるタイプじゃない。
どちらかといえば、目立たないように息を潜めているようにすら見える。
そんな奴が、裏でそんな「 隠し技 」を持っているなんて、正直微塵も想像がつかなかった。
「 でさ、お前も気をつけろよ勇斗。あいつ、よくグラウンドのほう見てっから。お前のシュート練習とかも、ひょっとしたらあの高倍率のレンズでズームされてるかもぜ? 」
「 俺を? はは、まさか。あんな泥臭いサッカーの練習なんて、写真の被写体にならねぇよ 」
「 もっとこう、おしゃれな女子とか夕焼けの風景とか撮るもんんだろ、写真部ってさ 」
そう言って笑い飛ばしたけれど、なぜかその言葉の裏で、妙に引っかかるものが胸に残った。
山中が、何かを本気で捉えている目。
思い返してみれば、校内でたまにあいつとすれ違うとき、あいつはいつも首から年季の入ったフィルムカメラを下げていた。
あの細い指で、レンズのピントリングをカチカチと回す姿。
あの静かな瞳の奥で、あいつはいったい、どんな世界を覗いているんだろう。
「 ……なんだよ、気になるのか? 」
俺のぼんやりした様子に気づいたのか、仁人がニヤニヤしながら小突いてきた。
「 バカ、気にならねぇよ。ただ、ちょっとイメージ湧かなかったからさ 」
「そうか? ま、今度部活の帰りにでも、写真部の部室の前でも通ってみろよ。もしかしたら、お前のカッコいいシュートシーンが盗み撮りされてるかもな!」
からかうように笑いながら、仁人はグラウンドの道具置き場へと駆けていった。
「 ……盗み撮り、ねぇ 」
一人残された俺は、なんとなく夕暮れの空を見上げた。
校舎の上のほう、ちょうど写真部があるあたりを見ると、閉ざされた窓ガラスに夕日が反射して、中の様子はまったく見えない。
いつもクラスの隅っこで静かにしているあいつが、レンズの向こう側ではまったく違う顔をしているかもしれない。
そう考えたら、妙にざわざわと胸の底が波立った。
翌日。
いつものように昼休みに購買でメロンパンを買って教室に戻ろうとしたとき、階段の踊り場で、ふとあの男の姿を見かけた。
窓際に立ち、首から下げたカメラを片手で軽く持ち上げ、中庭の植え込みのあたりにピントを合わせている山中だ。
風で少し揺れた前髪の隙間から覗く横顔は、教室で見せる気だるげなものとは似ても似つかない。
驚くほど真剣で、どこか冷たく澄んだ、射抜くような目をしてシャッターを切っていた。
カシャ、と乾いた小さな音が、廊下の静けさに溶けるように響く。
心臓が、妙にうるさく跳ねた。
声をかけようとして、なぜか足が止まる。
邪魔をしてはいけないような、そんな空気があいつの周りには漂っていた。
「 ……なんだよ、アイツ 」
呟いた声は、誰にも聞こえないほど小さかった。
だけどその日から、俺の目で山.中.柔.太.朗という存在を追ってしまうようになったのは、きっと仁人の言ったくだらない噂のせいだけではなかったはずだ。
コメント
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ちびさん、こんにちは、みぅです🤍 読みました……「少しの興味」。 めっちゃわかる、あの「なんであいつが気になるんだ?」って自分でも説明できない感じ。勇斗の心臓が跳ねるシーンがリアルで、もうこの先どうなるかドキドキしてます。 仁人の「隠し撮りハンター」って噂話も、ただのゴシップじゃなくて、ちゃんと伏線っぽくて好き。あの静かなやつが実は一番ヤバい……って展開、めっちゃ好みです。 続き、気になるなあ。