自分が同性愛者だと気づいたのは、20歳をすぎてからのことだった。
「川村くんってさ、可愛い顔立ちしてるよね」
「おい、松島に角ハイ呑ましたやつ誰だよ」
「川村、悪いけど松島連れて帰ってくんね?」
「あ、わかりました」
同じ職場で、家も案外近い松島大翔さんはただの優しさ溢れる上司という印象だった。「さっきの、どういう意味ですか」とは聞けるはずもなく、お酒の弱い松島さんを家まで手を繋いで連れていくことしか出来なかった。
家に着いたらすぐに崩れ落ちてしまった松島さんをベッドまで運び、「ゆっくり休んでください」という置き手紙をさっき自分用に買った水をおもりにしてベッド横のテーブルに置き、家を出る。
「川村くん、おはよう」
「あ、おはようございます」
「酔いは覚めました…?」
「うん、お陰様で。昨日はありがとう」
翌日。松島さんは朝職場に入って真っ先に僕に話しかけて微笑んだ。その微笑みに心が揺らぐ。昔した初恋の時と同じ胸のざわめき、ここで初めて同性愛者だと気づいた。
「あと、こないだ言ってた資料、出来るだけ早めにお願いできる?」
「あ、それなら昨日完成させました」
資料を手渡しして、自分の胸のざわめきが松島さんに聞こえないように仕事に戻る。
次の日も、その次の日も、松島さんへの好きが増していく日々を過ごした。それが幸せだった。
だから、ずっとずっとこの時間を過ごしていたかった。人は幸せを見つけるとその幸せを増やそうとする。
「松島さん、」
「どうしたの?」
「すみません急に呼び出して、」
「僕、松島さんのことが好きです…、」
「…、ごめん」
「俺、婚約者いるんだ」
その時の僕の頭の中は暗闇だった。薄暗いなんてレベルじゃないくらいの暗さ、濃さ。
告白をした次の日、松島さんの結婚は職場内に広まった。
「おめでとうございます、」
僕が松島さんにそう言っても、松島さんは何も返してくれなかった。完全に嫌われたと言っても過言ではなかった。
僕は告白をしたあと松島さんの婚約者と思われる人を見かけた、松島さんにべったりな甘い人ですごく優しい笑顔を見せる可愛らしい人だった。
僕は振られた。それは悲しかったし悔しかった。でも、松島さんを好きでいたこと、好きだと気づけたこと。それは嬉しかった。そして、幸せだった。
コメント
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え、泣くんですが??? 健気すぎんか川村!!!!