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「ラターっ! ラーターっ! いるなら返事をして!」
白フクロウのルーヴァは、垂直にそそり立つ世界樹の太い幹に沿って、ひたすら上に飛んでいた。彼女の目は鋭く、昼も夜も目が利く。ムツキが【レヴィテーション】を使って、自分で見に行かないのは、彼女の目の良さも理由にある。
しかし、そんな彼女の目を持ってしても枝葉の1つ1つを見ることまではできない。まずは普段ラタが住んでいる辺りまで飛んでいく。
世界樹に特段の異変は見つからない。雄々しく太い幹、今も世界の全てを覆わんとする太い枝にさらに伸びる細い枝と葉たち。細いと言っても普通の木の幹よりも遥かに大きく、葉も人など覆ってしまえるほどに大きいものもある。スケールがあまりにも違い過ぎて、どれもこれも比較対象になりえない。
それこそが世界樹が世界樹と呼ばれる所以である。
「あ! あーたら、ラタを見てない?」
世界樹には様々な妖精たちがウロの中などに住み着いている。それは世界樹とユウが許した妖精族だけの特権である。ただし、世界樹自身が身を守るために、多くの虫が嫌う臭いを出すので、あまり高いところだと食物の確保が難しくなる。
このことから、肉食の妖精族が住み着くのは比較的下層に近く、世界樹が生み出す果実を食物とする草食や雑食の妖精たちが住み着くのは中層くらいまでいる。上層には鳥類の妖精たちが止まり木に利用していることが多い。
ルーヴァはムササビの妖精にそう問いかけると、今日は見ていないと答えた。つまり、まださらに上で何かが起こっている可能性があった。
「ありがと。あーさ、申し訳ないんだけど、一番下にムツキ様がいるから、この場所まで呼んできてもらえる?」
ルーヴァは戻る時間を短縮するためにムササビにムツキへの言付けを頼み、さらに上へと飛んでいく。
「しっかし、やーねー、こんだけ飛ぶなんて。単純に昇るだけなら、サルの方が早いわ、これ」
ルーヴァは段々と昇るのが辛くなってくる。しかし、一度任せられたものを放棄するわけにもいかずに、彼女なりにできる限りで遂行していく。
「ラタっ! どこかにいるの?! うえぇっ?!」
ルーヴァは木の幹を伝って降りてくる一群を目にした。サルやらトリやらが一斉に降りてくるので、さすがのルーヴァもびっくりして、思わず声が出た。
ルーヴァがトリたちに話を聞くと、ラタが上で大声や奇声を上げながら、住み着く妖精たちに逃げろと叫んでいるようだ。しかし、なぜそうしているかの詳細は誰も知らなかった。
「世話が焼けるわね。とりあえず、上ね? 悪いけど、ムツキ様を見かけたら、とりあえず上に来るように言っておいて!」
ルーヴァはサルに言付けをして、さらに昇っていく。
「あー、偉い者の義務ってのも面倒ね。って、別に普段から何か得もないんだけど。あー、1か月くらい楽な生活をさせてくれないと割に合わないわ、ほんと、しんど。でも、ムツキ様が魔力補給してくれなかったら、とっくにバテてたわね、あーし。変な声出ちゃったけど」
愚痴を零しつつ、ルーヴァが翔け上がっていくと、ついに異常なものが姿を現した。
「爬虫類? これは蛇ね」
ルーヴァが目にしたのは世界樹の細い枝よりも太い身体だった。その体にはびっしりと爬虫類のような鱗が生えており、独特の動きで蠢いている。尾の先も頭も見えないその身体は世界樹に巻き付いている。
「ラタっ! いるなら返事して!」
「おおおおおおおおおおおおおおぉ! ルーヴァァァァァァァァァァ! キャッチよろしくぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
ルーヴァがそう言うと、上の方から小さな身体をした何かが自由落下に身を任せながら叫んでいる。
「げげっ!」
ルーヴァは慌てつつも小さな何かをしっかりと両足で優しく掴む。それは深緑色のシマリスだった。艶やかな毛並みは世界樹の葉のように瑞々しさと艶やかさを兼ね備えている。そして、彼がラタと呼ばれる世界樹に住み着くリスである。
「サンキュー、ルーヴァ! ところで、なんでそんなに疲れてんだ?」
「はぁ……あーしはね、あーたみたいに四六時中世界樹を上から下まで走り続けられるほど、体力お化けじゃないわけよ。ったく、あーたの肝でも食べれば、スタミナでもつくかしら?」
ルーヴァが少しばかり脅してやろうと足に力を込めるが、ラタは意に介していない。
「あぁ、そりゃグッドなアイディアだ。ま、不可能ってことを除けばな」
「ほんとに食べたろか、このリスが」
「さて、お喋りはおしまいだ。来るぞ」
上から大きな口を開けて迫ってきたのは、紛れもなく大きな蛇だった。