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ねぇ、知ってる? 毒林檎はね、一人で食べるより、みんなで毒に蝕まれる方が、ずっと甘いんだよ。
───その言葉は、誰の唇から漏れたものでもなかった。
3人を包む、重く甘い空気そのものが囁いた、呪いのような真実。
キャンパスを吹き抜ける風が止まり、ふわりと、場違いなほど芳醇な林檎の香りが漂い始める。
「……める、また眠い……」
膝に広げていた分厚い論文の束が、パラパラと芝生に滑り落ちた。
華奢な肩がガクンと揺れ、めるの意識が深い闇へと沈み始める。
「お疲れ様、めるちゃん。今日のは一段と甘い香りがするね」
倒れかかる彼女の体を、しなやかな腕が素早く受け止めた。陽太だ。
彼の肩に預けられためるの頭は、ちょうど彼の胸のあたり。白衣越しに響く鼓動を耳元に感じながら、陽太は痛みを知らない指先で、彼女の白い頬を愛おしそうになぞる。
「……っ、クソ、またかよ! める、お前、俺を掴んでろ!」
陽太の背後から、太陽を遮るような大きな影が差した。
駆け寄ってきた駆が、めるの小さな手を大きな掌で包み込む。
駆が隣に立つと、陽太ですら少し見上げるほどの圧倒的な体格差。めるを間に挟めば、彼の胸板は彼女の頭よりもずっと高い位置にあり、すっぽりとその影に飲み込んでしまう。
「駆くん、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。僕がちゃんと『管理』してるんだから」
「……うるせぇ。……おい、める、寝るんじゃねぇよ……!」
「駆お兄ちゃん……」
夢の淵で、めるが縋るようにその名を呼ぶ。
その瞬間、駆の大きな体がびくりと強張り、彼女を支える腕に力がこもった。
彼女の毒を愛でる男。
彼女の命に怯える男。
そして、自らの毒で世界を染め上げる、眠り姫。
誰がために、毒林檎は赤く熟すのか。
3人の時間が、ゆっくりと狂い始める。