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第9話:「心の中の答え」
その日、私は涼に会う約束をしていた。心臓がバクバクと音を立て、足元がふらふらと不安定に感じる。これが告白の瞬間かと思うと、どうしても胸が高鳴りすぎて、呼吸が浅くなってしまう。涼と一緒に過ごす時間はいつも楽しくて、何も考えずにいられたけれど、今日は違う。今までのように無邪気に笑うだけじゃいられない。
放課後、学校が終わると涼が約束通り校門の前に待っていた。彼も少し緊張しているようで、いつもと少し違う表情をしている。お互い、気まずさを感じることなく、無言で並んで歩き出した。
「どうしたの?」と涼が聞いてきた。いつもの涼の声だけれど、今日はその言葉にさえドキッとしてしまう。
「ううん、ちょっと考え事してた。」
「考え事?」
涼は心配そうに顔を覗き込んでくる。その姿に、私はどこか安心してしまうけれど、心の中の不安は消えない。涼が他の誰かを好きだという事実が、どうしても頭から離れない。でも、もう逃げたくはなかった。私は今、自分の気持ちを伝えなければいけない。
「ねぇ、涼。」突然、私が口を開いた。
涼は歩みを止め、私を見つめる。私も目を逸らさずに、涼を見つめ返した。
「私、涼のことが好き。」その言葉が、やっと口から出た瞬間、全身が震えたような気がした。言葉にするのが怖かったけれど、言わなければ一生後悔するような気がして、必死に伝えた。
涼の顔は驚きでいっぱいだったけれど、しばらく黙って私を見つめていた。その沈黙が長くて、私の心はますます不安になった。すると、涼はゆっくりと笑った。
「俺も、奈子のことが好き。」
その一言が、私の胸に温かさを広げた。涼も私の気持ちを同じように感じていたんだ。信じられないくらい、嬉しさが込み上げてきたけれど、同時に安堵の気持ちも感じた。
「でも、なんでそんなに早く言わなかったんだろうね。」涼は照れくさそうに笑いながら続けた。「俺も、ずっと奈子のことが気になってた。でも、気づくのが遅すぎて…」
私は涼の言葉を聞きながら、心の中でふっと笑った。二人とも、お互いの気持ちに気づくのが遅かっただけで、結局は同じ場所にたどり着いていたんだ。その事実だけでも嬉しかった。
その時、遠くから小夏の声が聞こえた。
「奈子!涼!」
振り返ると、小夏が嬉しそうに駆け寄ってきた。私たちの様子を見て、すぐにその理由を理解したらしい。小夏はにっこりと笑って言った。
「おめでとう、奈子!涼!」
「ありがとう、小夏!」私は、心から嬉しそうに答えた。小夏がこうして応援してくれることが、すごく心強かった。
私は小夏を見て、心の中で感謝の気持ちを抱いた。彼女がいてくれるおかげで、私たちの関係も素直に進むことができた。小夏はどこまでも明るくて、時には私たちに厳しくもあるけれど、実はすごく心の中で私を支えてくれていたんだ。
そして、少し落ち着いた頃、小夏がしばらく黙っていると、やがて口を開いた。
「ねぇ、私、転校するんだ。」
その言葉に、私は一瞬息を呑んだ。
「え?小夏、転校?」涼も驚いているようだった。
「うん。実は、引っ越しが決まったんだ。お父さんの仕事の都合で。」小夏は笑って言ったが、その目はどこか寂しげだった。「だから、最後に言いたかったんだ。二人が幸せになってくれて本当に嬉しい。私は、今度こそ自分のことを大事にしようと思ってる。」
私はその言葉を聞いて、胸が締め付けられる思いがした。小夏はずっと明るくて、誰とでも仲良くなれるけれど、本当はずっと寂しさを抱えていたのかもしれない。転校することを決めたのも、きっと新しい場所で自分を変えたかったからだろう。
「小夏…」私は言葉が詰まった。
「大丈夫だよ!転校しても、きっと新しい友達ができるし。」小夏は笑顔を作りながら、肩をすくめた。「だって、私はずっと二人のことを応援してるから!幼馴染なんて私には存在しないけど、そんな人生も、いいなって思った。」
涼も小夏の言葉を受けて、少ししんみりとした顔になりながらも、「応援してるよ、俺も。」と言った。
その日、小夏は最後の挨拶をして、私たちを後にした。彼女が遠ざかる背中を見送ると、心の中で「ありがとう」と呟いた。
それから私と涼は、ゆっくりと歩き出した。これから先、どんな道が待っているのかはわからないけれど、一緒に歩むことができると思うと、心が温かくなった。
そして、私は決意を新たにした。涼と、これからもっと大切に過ごしていこう。二人の歩む未来を、少しずつ作り上げていこうと思った。今までの『幼馴染』としてじゃなくて、『カレカノ』として。