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1995年 秋 カリフォルニア州ロサンゼルス
部屋には月明かりと街灯の入り混じった光が、床の英和辞書を映し出していた。ルームメイトの寝息がスースーいう頭上を慎重に通り過ぎて、俺はベッドの端に辿り着いた。隣の部屋からはテレビの音が聴こえ、ときおり笑い声が混じる。
裾のほころんだレースのカーテンを閉めると、街灯の光がぼやけた。靴を脱いでベッドに倒れ込むと、天井のペンキが一箇所剥がれかけているのに気がついた。閉まりきらないサッシの隙間から入り込む風が揺らすたび、レースの目に染み付いた外の光が床に放りだしたままの宿題ファイルに反射して、天井を波打っている。
赤い帽子のあの娘のテーブルに、他に誰かいたのだったら話は別だった。割り込んで入っていくわけにはいくまい。でもあのときカフェテリアにいたのは、レジのおばさんを除けばジゼル達だけだった。つまり、笑われても彼らだけで済んだのだ。午後三時過ぎの店内がいくら授業の時間帯だからといって、エバンスは移民を主な対象にした学校だ。仕事やバイトを終えて早めにやって来て、カフェテリアで一息つく人もいるわけで、いつもあそこまでガラガラとは限らない。
結局は、もしタイムマシンがあって今日の昼下がりに戻れたらというところにまた戻る。 ペンキの剥げたあたりに染みが目立ちだした。天井に反射する風は、いつの間にか朝焼け色に変わっていた。肌寒くなってきたので、今更ながらブランケットをかけた。