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「リーアンさん、まだここでしたか」
黒服の痩せた若い男が倉庫に入ってきた。
リーアンは、立ったまま火を見つめて応えた。
「ああ。いろいろ、燃やしておかないとな」
「やはり、”ここから”だったんですね」
「王宮は?」
「破壊されました」
「そうか」
ゼンは、無反応なリーアンに、強いいらつきを憶えた。
「あんた、自分がやったこと、わかってるんですか?」
「ああもちろんだ。責任追及とかヤボなことはやめてくれ。自責の念なんて、とっくに捨てた」
「それでも、あんたは、みんなに支持された国会議員なんでしょ?」
「だますと割り切れば、こんな私でも議員になれたよ」
「最低の自虐、っすね」
「ほかになにがある? 今、火を見ながら、回想していたんだ。そう、これは葬式だ。参加してくれて、礼を言うよ。正直、一人では少し寂しかった」
「誰の葬式ですか?」
「妻と、タカコ妃。そして……そう、東の塔に残ったメリル」
ゼンの身体の内側から、いきなり強い想いが突き上げてきた。
なんで世の中ってこんなことになっちまうんだ、ふざけんなよ、みんな普通に幸せに生きたいだけなのに、全員ダメダメだろ。
あふれてきた涙を腕でぬぐい、鼻をすすり、そして黙し、手を握りしめたまま、頭を垂れた。
「なあ、ゼン、私はこのあと、車で国境を越えようと思う。しばらく旅をするつもりだ。うまくすれば、龍人たちの元にたどり着けるかもしれない」
「国境なんて、いまさら出られるんですか」
「さあな。春にはそれでなんとかなった」
「あのときは、オレが探しても、もういなかったでしょ」
「だな。でも、さすがに今回は、やることはやった。いつ死んでもいい」
ゼンは、いきなり彼の胸ぐらをつかみ、顔をなぐった。
抵抗しないリーアンの頭を後ろから左手で支えて、右手のヒジを顔に打ちつけた。
「お、おい、ゼン……や、やりすぎだろ……」
リーアンがうめくと、ゼンは手を離し、吐き捨てるように言った。
「その顔なら、言い訳も通るだろ。じきに、もっと腫れてくる。あ、そうだ、音楽学校のこと、タクヤは楽しそうに話してるよ。あいつ、記憶とかいろいろなくなってるけど、音楽のことを話すと幸せそうにするんだ。それだけは、あんたのおかげさ」
「礼なんていい。私は、国家反逆のテロリストだ」
「たしかに、その顔ならテロリストっぽい」
「むしろ目立つな。よけいなことをしてくれた」
「うるさい。オレは、あんたの選択が間違っているのかどうかなんて、わかりゃしない。ただな、このくらいで殴りたりたとは思うなよ」
「大声で怒鳴るな。おまえたちの罪は、私が引き受けてやる」
「くそ。かっこつけてんじゃねえよ。後始末をするのはこっちだ。王宮に戻る。罪のない怪我人が山ほどいる」
立ち去ろうとした若者に、座り込んだリーアンが言った。
「ゼン」
「なんだ、まだなんかあるのか?」
「こまったら、ベルヘルムの衛生局第13課に行け」
「はあ?」
「ラスカート共和国だ。東自治区ベルヘルムの衛生局第13課。この爆弾は、そこから手配した」
「くそ。そんなこと知りたくねぇつうの」
「私たちは、道化だ。道化なりに、誠意をつくす」
力のぬけたリーアンに、ゼンは、関係を断ち切るように吐き捨てた。
「リーアンさん、わるいが、こっちはなにも終わってないんだよ」