テラーノベル
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ベッドの中で、シャワーの音が遠くで響くようだった。
横たわった己の身体の熱は変わらず抜けない。
沢山愛されたあとの倦怠感とじんじんとした僅かな痺れと重さに痛み。
何回味わってもなかなか慣れない。
シャワーの音はやがてやんだ。
5つ数えた後にバタン、と風呂場のドアが開ける音がした。
勇斗を待つ、この待ちわびる時間は嫌いじゃない。
ぺた、ぺたという音が近づくと、自然と扉の方へ視線を向けて息を止める。
がちゃ、という音を立てて現れた勇斗はタオルで頭を乱しながら現れた。
止めた息は、感嘆の息に変わった。
勇斗が俺の方へ視線を向けると、その眼差しは急に和らいだ。
「仁人大丈夫?」
「大丈夫⋯色々任せたわ、ありがと」
「いいよ、好きでやってんだから。無理さしてごめんね」
そう言ってベッドに乗り掛かって髪の毛をかき混ぜた。
この時間が好きだ。
とびきり甘い勇斗の声が、身も心も溶かしていく。
最初は慣れなくてお互い笑っていたが、今となってはそれを甘んじて受け入れている。
慣れというものは怖い。
勇斗は俺の正面からベッドに潜り込むとため息をついて仰向けになった。
その頭がぐるり、とこちらを向いた。
「俺らって多いのかな」
「他所は他所じゃね?」
「それはそうだけどさ、知りたくない?みんなどんくらいのペースでやってるのか」
「⋯多分やめたほうがいいと思う。俺らが悲しくなるだけだよそれ」
「そうか、それもそうか」
否定するように手を振って苦笑いすると勇斗も苦笑いを浮かべた。
「仁人はどう?」
「へ?」
「今じゃ多い?もうちょっと減らす?」
勇斗の気遣う声に「あー」と考えるように天井を向いた。
「減らしたくはないな。別に嫌いじゃないし」
「そうなの?」
勇斗が目を見開いた。
「うん。初めてしたときからなんでそんなことするのかなーって考えてたからさ。俺多分人類の永遠の疑問の答えにたどり着いたかも知んない」
「壮大すぎ⋯」
「いや⋯でもむしろ好きよ、俺は 」
勇斗が目をむいた。
「俺なんもしなくていいから。セレブみたいな気分でさ。風呂もベットメイキングも」
「お前さあ⋯」
「んははっ」
勇斗がそんなことだろうと呆れ笑いした。
「でも好きっちゃ好きだよ。勇斗が我を忘れてんのも珍しいし、身体もほら、有名俳優の演技じゃないなこれって思えるから」
「恥ずいってもう…茶化しやがってお前」
「あーダメダメダメダメ、お触り禁止でーす」
反撃に出ようとする勇斗を押し返した。
「明日何時から?」
「午後から。仁人は?」
「俺も午後から」
「じゃ帰り連絡して。飯行こ」
「いいよ」
そう言って俺の後ろにあるリモコンを取ろうと手を伸ばす。
取りにくそうだがここで勇斗の身体が重なるのが肝だから、取ってはあげない。
そのままピッピッと電気を消す勇斗に覆いかぶさられながら体温を味わった。
すっかり暗くなると、体温がなくなって少し体が寒くなる。
「寒い?」
「少し」
そう答えると布団を肩まで引き上げた。
「どうする?人間カイロもいますが」
「つまんねえな」
「最悪。さっきあれだけ⋯いててて!」
嫌な予感に腹をつねってやると勇斗が悶えた。
もはや筋肉ゴチゴチで皮しかないから面白みもない。
少しぐらい柔らかければ茶化せるというのに。
⋯それより、俺らの間に空いた半人分の間隔がもどかしい。
「ねえなんでそんな距離つくんの⋯寂しいじゃん」
甘えからかうようにそう言うと勇斗は苦笑いして手を押しのけた。
「俺人と距離近いの苦手だっつったじゃん」
「なんでさっきのはOKでこれはだめなんだよ」
「だめとはいってないよべつに。⋯ほら、おいで」
片手が伸びて迎え入れるポーズに遠慮なくさっさと距離を詰めて胸に潜り込んだ。
歓迎していた腕はあっという間に体に巻き付き、閉じ込められる。
足は朝顔のツルのように絡み合う。
「⋯あっつ⋯あっついわこの野郎⋯」
「文句いわないの仁ちゃん」
「はいはい…好きだよ勇斗」
「⋯⋯⋯えっ」
「お休み」
「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って」
この日だけは敢えて下着だけになって互いの肌を感じる。
俺がこの時間が好きな理由⋯の、一つ。
「⋯⋯最悪、聞き逃した」
「うははっ、そんな簡単に聞かせねえに決まってんだろ。聞かせるわけない」
「もーやらかした、動画取ればよかった」
「もう寝よ、寝て忘れなさい」
「冷たい⋯」
よよよ、と泣く真似をしながらも勇斗は少し布団へ潜り、こちらの額に唇を押し付けた。
甘い音のあと、愛おしげな瞳と合う。
思わずその顔に手を伸ばし、親指で頬を撫でた。
お休み、という共通の言語を言ったあともすぐには眠らない。
寝息を立てるふりをして聞き耳を立てれば、それまで優しく髪を梳いていた勇斗の優しい声の音色を聞く。
「⋯⋯仁人、大好き。⋯マジで俺幸せだわ」
わざとかどうかなんてどうでも良かった。
そう思ってくれる勇斗のほうが何倍も愛おしく感じた。
コメント
2件
幸せな2人が本当に尊くて心臓鷲掴みにされました… お互いが大好きって気持ちを隠さずにイチャイチャイチャしてるの最高です やっぱり、さかなさまの💛さん男前で好きです そして、その可愛い男前を可愛がる🩷さんも好きです 寝る前に良いもの見させていただきました😊ありがとうございます 本当、さかなさまの書かれるお話、大好きです