コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
数秒間が空いた後、呆気にとられた顔をしていた涼ちゃんが勢いよく机から立ち上がり、それを否定する言葉を店内にも響いてしまう声量で発する。
「してない!!」
「ちょ、涼ちゃん声大きい。」
涼ちゃんを窘めようと立ち上がった瞬間に、足がぶつかりガシャン、と食器と机がぶつかり合う音が鳴る。お陰で店内の注目は完璧に集まっていた。
「あ、す、すみません…。でもほんとにしてないから……!」
周りのお客さんに申し訳なさそうにペコペコと頭を下げ、大人しく席についた涼ちゃんはさっきよりも静かな声で言葉を反復した。
「あんなに必死に言われたら流石に信じるよ。あ、すみません。いちごパフェ1つお願いします。すぐで大丈夫です。」
店員を呼び止め、本来の目的であるパフェを注文する。さっきの出来事のせいだろうか、ちらりと涼ちゃんを見た視線に気付いたが当の本人は食事に夢中で気付いてなさそうなのでそっと見なかったフリをする。
「思ってたよりでかい…。」
運ばれてきたパフェに絶句する。もう少し可愛らしいサイズを想像していたのに、500mLの飲み物くらいのサイズはあった。いや、それよりも大きいかもしれない。
「若井〜1口!」
机上のパフェの後ろからひょこりと顔を出しておねだりする涼ちゃんにスプーンを手渡そうとすると、既に持っていると同じものを見せられる。デザートを頼んだのは1つのはず、恐らく店員が気を利かせたのだろう。もし1つだったらまたあの姿を見られたのかもしれない、なんて雑念を振り払うようにスプーンを握り直してパフェをすくう。
「んま!」
「おいしいね〜、めっちゃいちごって感じ!」
下に敷かれているザクザクとしたフレークと生クリームを纏った苺の相性がとても良い。夢中になって食べ進めていると、突然カメラのシャッター音が聞こえた。向けられていたのは涼ちゃんのスマホで、悪戯気に微笑んでいた。
「若井といちご。」
何それ、そう言おうとした瞬間、ポケットの中のスマホが1度震えた。スマホの画面をタップした涼ちゃんの指先を見逃さなかった。
「絶対インスタあげたじゃん。」
正解!と楽しそうに笑い声を上げる姿に、ふと幸せを感じる。この前の事は全て夢だったのかもしれない。そう思えるほど今が幸せだから。
「ねえ涼ちゃん。」
君のゆったりとした相槌が返ってくる。「もし、」そう言いかけた所で、丁度窓から席に光が差す。光の筋が示した先は君で、左手の人差し指でキラリと反射するものに気が付いてしまった。指輪だと。