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夜の十時になると、ナオトはトワイライトさんと共にアパートの屋根に登った。
「さてと……それじゃあ、これからのことについて話そうか」
「そ、そうですね。ですが、これだけは言わせてください。助けていただき、本当にありがとうございました。お礼と言ってはなんですが、この体を好きにしてもらって構いません」
水色のショートヘアとテニスウェアのような服と水色の瞳が特徴的な『トワイライト・アクセル』さん(『ケンカ戦国チャンピオンシップ』の実況をしていた人)は頭を下げた。
「……はぁ……あんたは男が全員、体目当てで女性に接《せっ》してくると思ってるのか?」
「え? 今のナオトさんの体はパッと見、十歳くらいでも心は大人ですよね? 異性に興味はないのですか?」
「異性か……。まあ、興味がないと言ったら嘘《うそ》になるけど、俺はそこまで興味はないな……」
黒いパーカーと水色のジーンズを身に纏《まと》った少年は夜空に輝《かがや》く星々を眺《なが》めながら、そう言った。
「それはいったいどういう意味ですか? 私の体を見ても興奮しないのですか?」
「……あんたって、意外とグイグイ来るんだな……。まあ、興奮してるって言うより、ドキドキしてるって言う方が妥当《だとう》だな」
「ドキドキ……ですか?」
「ああ、そうだ。あんたの頭のてっぺんから、つま先に至《いた》るまで全てにドキドキしてるよ」
「そ、そうなんですか?」
「……っていうのは、冗談だ」
「そ、そうですか……」
「けど、近くに女の子がいるとドキドキするのは本当だ。フワフワしている髪、希望に満ち溢《あふ》れている瞳《ひとみ》、小さな口、細い手足、想像以上に柔《やわ》らかい肌《はだ》、膨《ふく》らみかけの胸……。どれか一つでも当てはまるものがあれば、俺はドキドキするし、どれにも当てはまらなくても自分と異《こと》なる性が近くにいるだけで、いつもより心拍数が上がっちまう。まったく、どうしてだろうな」
彼女は彼の手をそっと握ると、微笑《ほほえ》みを浮かべた。
「それじゃあ、私と手を繋《つな》ぐだけでもドキドキしちゃうんですね?」
「……ま、まあ、そうだな……」
彼はポリポリと頬《ほほ》を人差し指で掻《か》きながら、彼女から目を逸《そ》らした。
「か……可愛い……。もう死んでもいい……」
彼女は満足そうな顔をしながら、彼を抱きしめた。
「お、おい、そういうのはやめてくれよ。というか、あんたはこれからどうするんだ?」
「えー、そんなの決まってるじゃないですかー」
「えーっと、一応、訊《き》いておくが、次の目的地まで俺たちの旅に同行させろ……だなんて言わないよな?」
「もうー、私がその程度で満足するわけないじゃないですかー」
「へ?」
「私は残りの人生をあなたと過ごしたいと思っています! 例《たと》え、火の中、水の中! どんなところにだって、ついていく覚悟です! なので、私を旅に同行させてください! お願いします!!」
その直後、彼は彼女を守るために、こう言った。
「……ダメだ。それはできない」
「……それはどういう意味ですか? 私では力不足ですか?」
「そうじゃない……。けど、あんたにはあんたの人生がある。俺はモンスターチルドレンを元《もと》の人間の姿に戻せる薬の材料を探しているだけだから、それが終わり次第、俺は元《もと》の世界に帰る。だから、これ以上、俺に関わるな。不幸になるぞ」
彼は心にもないことを彼女に向けて発《はっ》した。その時の彼の顔はとても辛《つら》そうだった。
「……そうですか……。分かりました……。では、今ここで死んでもいいですか?」
「……!!」
彼は『死』という言葉に反応した。
彼は真顔の彼女を押し倒すと、彼女を睨《にら》みつけた。
「俺の前で死ぬなんて言うな! 嫌いなんだよ! その言葉は!!」
「……ナオトさんって、意外と単純ですよね……」
「わ、悪かったな。単純で……」
「いえ、私は好きですよ。ナオトさんのそういうところ」
「まったく……あんたは無知というかなんというか。とにかくもっと自分を大事にしろよ」
「いえ、それはできません。私はあなたと生き、あなたと死にたいと心から願っていますから、自分を大事になんてできません」
「まあまあ、そう言うなよ。お前の帰りを待ってくれている人くらいいるだろう?」
「……いません……」
「え?」
「私には……そんな人いません」
彼は彼女の心に大きな傷《きず》を付けてしまった気がした。
「そ……その……なんというか……。すまない……。今のは俺が悪かった……」
「いえ、そんなことないですよ。あなただからこそ、私の秘密を打ち明けることができました。むしろ感謝です」
「そ、そうなのか?」
「はい、そうです。あっ、でもそろそろ退《ど》いてくれませんか? こんなところ誰かに見られたら、厄介なことになりますよ?」
彼女はニコニコ笑いながら、そう言った。
「あ、ああ、そうだな。それじゃあ、少し動くぞ」
「あっ、ごめんなさい。前言撤回します」
「え? それはいったいどういう……」
彼が最後まで言い終わる前に、彼女は彼をギュッと抱きしめた。
彼は彼女から離れようとしたが、彼女の目尻《めじり》に透明な液体が溜《た》まっているのに気づくと抵抗するのをやめた。
「ナオトさん……。私をあなたの近くに居《い》させてください。必ずお役に立ちますから……」
彼は彼女の心臓の鼓動《こどう》を聞きながら、こう言った。
「あんたは、本当にそれでいいのか? 無理に俺たちの旅についてくる必要はないんだぞ?」
彼女は彼の頭を優しく撫《な》でながら、こう言った。
「……今の私には、生きる目的も理由もありません。けれど、あなたはそんな私に温《ぬく》もりをくれました。ここで別れてしまったら、私はまた一人ぼっちになってしまいます。そうなると、私はきっと長くは生きられません。ですから、私を見捨てないでください。お願いします」
彼は彼女の涙を拭《ぬぐ》うと彼女の目を見ながら、微笑《ほほえ》みを浮かべた。
「……分かった。俺は……いや、俺たちはあんたを歓迎する。だよな? みんな?」
彼がそう言うと、たくさんの影が屋根に登ってきた。ナオトの部屋の中にいたはずのメンバーが揃《そろ》っていることに気づいたトワイライトさんは、目をパチクリさせた。
「みなさん……どうして……」
その時、彼女の目の前に歩み寄った吸血鬼が彼女にこう言った。
「そんなの決まってるでしょ……。あんたを歓迎するためよ」
「……ミノリさん」
「……さあてと……今日はもう遅いから、明日のことは明日決めましょう。それじゃあ、解散!!」
ミノリ(吸血鬼)がそう言うと、ミノリとナオト以外のメンバーがトワイライトさんを連れて、部屋の中へと戻っていった。