テラーノベル
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「おう、おかえり…ちょ、勇斗さん?」
「え、無理、待って待って…何か言えよ!…っとにやだ!お前そういうの良くないって…!」
家に帰って5秒の話。
後悔するのは終わってからのことであった。
目覚ましもなく鳥の声が先に耳へ入り、瞼を開いた。
もう十分に陽の光が己の仕事を始めている。
察するにもう午前だろう。
…頭痛すぎる。
何だろう、太智がSNSの撮影で肩揺さぶってくる力の500倍ぐらい脳味噌揺れてる。
あと、そう。
…腰痛ーーー!!!
すごいなんかこう、腰の上にタイヤ乗せて動くたびに紐で引かれる昔ながらのトレーニングみたいな。
立ち上がることどころか身体を起こすことも諦めてしまった。
黙って枕の上に突っ伏す。
その時コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「仁人、入るよ」
入ってきたのは勇斗であった。
…なんかやたら神妙な顔してるけど。
「おはよう。昨日ある程度拭いといたけど汗かいたと思うから風呂入れんね。はい水」
捲し立てられてグラスを渡されるがままに受け取ると、グッと流し込んだ。
…少々喉がピリピリするが、咳き込むほどではない。
「運ぶから腕首に回して、はい」
わざわざ頭を俺の胸付近まで下げられる。
…いつものことなのに、違和感を感じる。
首に手を回すと背中と膝裏に手をやった。
「いてててて…」
「痛い?やめとく?」
「いや…這ってでも行く…」
風呂場に行けば勇斗がシャワーを取り、手で温度を確認する。
「膝から当ててくから」
勇斗の前に背中向けて座らされているとはいえ
鏡を見ればわかることを、わざわざ伝えてくれる。
…だから、やたらめったら神妙な顔で何か言いたげにしてるのもわかる。
ごっつわかりやすくて助かる。
わかりやすすぎてもう笑い止まらなくてニヤニヤしてるから。
「…ごめん。無理やりして」
温かい湯が肩まで上がった後で、勇斗がぽつんと言った。
…はい、よく言えました。
まあ別に気にしてないからいいけど。
「いやいいって。別に怒ってないし」
「いや、怒ってるとか関係ないから。仁人が嫌がってるのにトぶまでするとか…最低なことした」
「ぶはっ」
あーーーーーー口に出さないでください。
忘れかけてたのに…。
思わず声上げて笑ったよ。
勇斗は本当に反省しているのかにこりともしない。シャワーを止めてシャンプーのポンプを押す手もどことなく力が入っていない。
…腰入れろ、腰。
「うんまあその件に関しては俺も最後の方ガチってたというか…まずなんでああなっちゃったの?」
勇斗はシャンプーで頭をワシワシする手を止めて斜め上を見た。
「お前シンプルに溜まってたんじゃない?」
「いや、うん、それもそうなんだけどそれだけじゃない気がするというか…」
「なんか嫌なことでもあった?」
「ううん、昨日は…ちょっと下がってたけどそういうことはなかった」
「じゃあ寂しかった?」
「…」
合点がいったのか勇斗が鏡越しに目を見開いてこちらを見た。
それを見て思わず笑った。
人の感情や思考は複雑怪奇とは言え、 お前の考えてることなんておおかたわかる。
「先週も俺の汗と勘違いして泣かせちゃったとか思い詰めて勝手に1週間自分でお触り禁止にしてたの俺知ってるからね?」
「えっ…え?」
「俺の涙腺耐久値知ってるでしょ?確かに生理的には出るかも知んないけどあんなに丁寧にもてなされて感動でもしない限り泣かねえから、あの程度」
「…マジ?」
「ぶっちゃけ俺は、昨日サバンナのチーター並みに目をぎらつかせて押し倒してきた勇斗見て確かに焦ったけど、あーあ我慢するから…って思ったよ?あんな切羽詰まってた顔してたのに急にしっかり前戯もするわローションちゃんと温めてるわ、念入りに解すわ、挙げ句の果てにゴムまで用意するわ、『本当はこいつ計画的犯行じゃね?』って怪しんでたからね?」
笑いを堪えきれないままそう言って見せると、勇斗は「違う違う違う」と慌てて首を振った。
「本当にあれは余裕なかったの!そういうの良くないって言われてても止めらんなくて…仁人が急に動かなくなってそこで初めてやばって思ったから…。せめて最後の後片付けぐらいはちゃんとやらないと…」
「余裕なくてあれ?やばいねお前。余裕なし選考の一次落ちだからな?後片付けだっていつも勇斗がやってるの知ってるよ」
お湯でシャンプーを流しているせいか熱っている勇斗をいじるのが面白くなってきた。
少し元気も出てきたようだし、安心した。
「いいよ、いつも勇斗が大事にしたい、傷つけたくないって思いは伝わってるから。まあでも急にはびっくりするから一言言ってよ。な?」
「うん」
子どもみたいに頷く勇斗に、思わず顔を背けて吹き出した。
「まあでも次は仁人がやだって言ったら絶対やめる」
湯船に2人浸かりながら、頭上から声が降ってきた。
発声の振動すら心地よい。
「ほんとお前ビビリだよね。まあそれはありがとうだけど」
「そりゃあビビリにもなるよ」
軽やかな水音を立てて勇斗の右手が俺の左側に触れた。
湯冷め仕掛けていた肩からじんわり熱が伝わる。
「告白を受け入れてくれた時から絶対幸せにするって決めてるから」
ああ、急に白い湯船が結婚式会場に見えてきた。
ほんとにこいつは…。
「耳赤い…」
「あーーーー気のせい気のせい」
慌てて取り消すように言った。
「勇斗、手貸して」
「ん?」
まだフリーだった勇斗の右手を左手で持って、唇に近づけると軽い音を立てた。
「まだ言ってなかったわ。…おはよう。今日もお世話ありがと」
「いーえ。…姫様の仰せのままに」
姫扱いすんな、と勇斗の右手を水面に放り投げ、勇斗の右肩目掛けてお湯を掛けてやった。
コメント
8件
これの続きが見たすぎます😿😿😿

→ (2/2)大変図々しいお願いですが、リクエスト可能であれば、🩷くんが💛くんに誕生日に贈った指輪にまつわるお話を読んでみたいです…!(花瓶でも…!) これからもさかなさんのご活動を応援しております!これからも沢山ハートを送らせていただきます♡

(1/2)初めまして、コメント失礼いたします。 さかなさんの🩷💛小説、どの作品もとても愛おしくときめきながら拝読しています。2人の掛け合いや心情、描写などとても細かくて、さかなさんを通して🩷💛がますます好きになりました…!→