フェリックスは劇場の中心に立ち、冷静な声で言った
「同じ状況で再現しました。ボウガンから放たれたナイフはあそこです」
みんなの視線が一斉にフェリックスの指差す方向に向けられた。
ナイフは2階の客席に深々と刺さっていた。
フェリックスは続けた「暗い劇場の中、誰にも見つからず、
不規則に動いているロープを狙って落とすのはどれくらいの確率があるでしょうか。
ましてや、ゲンさんはサーカスの団員でもありませんので、
このトリックが実現できるとは思えません」
フェリックスはゆっくりとゲンに近づき、目を細めて問うた
「実際には、ロープを切断していないのではないですか?」
ゲンは口を閉ざしたまま、視線を逸らした。
フェリックスはそのまま音響室へと向かいながら言った
「では、みなさん、音響室に参りましょうか」
音響室に入ると、フェリックスは滑車を操作するスイッチに視線を移した。
マリーナが不思議そうに尋ねる「どういうことなの?音響室でどうやってロープを切るの?」
フェリックスは微笑みながら答えた「その秘密はこれです」そう言って滑車のスイッチを押すと、
滑車が勢いよく滑り落ち、途中で止まった!
ロイズが驚いた声を上げる「ロープが切れたんじゃないのか?!」
フェリックスは頷きながら説明した「そうです。犯猫はボウガンで狙ったように見せかけて、
実は滑車に細工し落としていたのです。そして、その滑車を落とすスイッチはこの音響室にしかありません」
ジョセフが疑念を含んだ声で言った
「では、この音響室にいたゲンがそのスイッチを押したんだな」
マリーナは悲しげな表情でつぶやいた「やっぱりゲンが犯猫なのね」
ワトリーが急に声を上げる
「ちょっと待つのだ!ゲンさんが犯猫なら、どうして最初からこのことを言わないのだ?」
フェリックスは静かに頷き、言葉を続けた
「犯猫はこの部屋にいた猫です。それはゲンさん以外のもう1匹の猫」
朝の劇場は静寂に包まれていたが、その静けさの中で、音響室だけは異様な緊張感に包まれていた。
ジョセフが険しい顔で口を開いた
「しかし、現場にあったロープはナイフで切られていたぞ」
フェリックスが考え込むように手を顎に当てながら答えた
「落ちた時に、みんながセリアさんに注目していました。
その隙に切ったのでしょう。セリアさんのロープを外した猫が犯猫の可能性があります」
ロイズが眉をひそめながら思い出すように言った「あの時外していたのは...」
「エマよ...」マリーナが静かに口を開いた
その瞬間、ゲンが声を荒げた「違う!俺がやったんだ!俺が滑車に細工した!
ここには俺しかいなかったんだ」
一同が驚く中で、フェリックスが冷静に反論した
「いいえ、この音響室には2匹いました。私がここに来た時、
コーヒーカップが2つあり、触るとまだ暖かかった
あなたはコーヒーを2つ買いに一旦部屋から出た。戻ってくると、
セリアさんが転落し、1階では大騒ぎになっていました。
部屋にはコーヒーを渡すはずだった猫もいない。
そして滑車のスイッチはONになっていた..
あなたは誰がこのスイッチを押したのか、わかっていたんです」
その言葉にゲンの顔は一瞬蒼白になった
フェリックス「そしてその猫をかばおうとして自分がやったと嘘をついたのですね」
エマは静かに口を開いた。
「もういいわ……ゲン。私をかばうなんてバカなオスね」
ゲンはエマを見つめた。「エマ……」
エマは続けた。「私が滑車のスイッチを押したわ。
フェリックスさんの言う通り、ボウガンはダミーだったのよ。
上手くいけばロイズに疑いの目が向くと思ったけど、だめだったわエマ」
ロイズは驚いて問い詰める。「エマ……僕を陥れようとしたのか?!」
エマは冷たい視線をロイズに送った。
エマ「いつから私を疑っていたの?」
フェリックスは冷静な表情を崩さずに答えた。
「はい。あなたは2階に来たロイズを見ていますね。」
エマは一瞬ためらったが、やがてうなずいた。「ええ、見たわ。」
フェリックスはさらに詰め寄った。
「慌ててトイレから出てくる姿も見ていますね。その後、ロイズが1階へ戻っていったのも。」
エマは少し苛立ちを見せながら答えた。「それが?」
フェリックス「ですがロイズはもう一度2階のトイレに行きました。
あなたはロイズが1階の階段を降りたのを確認したあと、再び2階に戻ってきたのを見ていなかった。
なぜなら、その時あなたはその場にいなかったからです。
音響室でゲンさんと一緒にいたのではないですか?
ゲンさんにコーヒーを頼んで、その間に滑車のスイッチを押したんでしょう」
エマは疑問の色を浮かべたままフェリックスを見つめた。「なぜ戻ってきたの?」
フェリックスは冷静に答えた。「ロイズが慌てて出ていった。
そしてすぐに戻ってきたのには理由があります。」
エマは眉をひそめた。「それは何?」
フェリックスは一息ついて説明を続けた。「トイレの個室に紙がなかったんです。
ロイズは慌てて1階のトイレに行き、紙を持って再び2階に戻ってきたというわけです。」
エマは思わず鼻でふっと笑った。「そうだったのね。ちゃんと紙を用意しとくべきだったわ。」
フェリックスの真剣な表情に対し、エマの微笑は少しだけ和らいだが、その場の緊張はまだ解けていなかった。
マリーナ「エマ、なぜセリアを殺したの?」
エマ「ゲンが言うように、セリアの存在が邪魔だったわ。ロイズは私のことを愛していたはずなのに」
マリーナが驚きの声を上げた。「ロイズ!あなたエマにまで手を出したの!」
ロイズは動揺しながら答えた。「そ、それは……その……」
エマは冷たく笑った。
「どうせ私のことなんて遊び相手ぐらいにしか思っていないんでしょ。
わかってるわ、でもセリアは許せなかった……」
エマはセリアとのことを思い出していた。それはエマがいる調教室での出来事だった。
セリアがエマを平手打ちする。
「どういうつもり!?昨日の夜、ロイズの部屋からあなたが出てきたわ」
エマはフっと笑い「ロイズが誘ってきたのよ。私と一緒にいたいって」
セリアは怒り、さらにエマの頬を平手打ちした。「よくも、汚い奴隷猫の分際で、
上級猫にたてつこうなんて生意気だわ!」
エマは冷静に返す。「あなたのその意地汚い性格が嫌いよ。どうせ誰にも愛されないわ」
セリアの顔は怒りと憤怒で真っ赤になり、瞬きの間もなくエマの髪を乱暴に引っ張り、
壁に追いやった。「許さない……お仕置きが必要ね」と低い声で言い放つと
彼女は震える手で調教用のムチを持ち出し、その冷たい金属音が部屋に響いた。
エマの叫び声が冷たい壁に反響していた。その恐怖が彼女の胸に深く刻まれた。
エマの話が終わると、部屋は静寂に包まれ、一同は息を呑んだ。
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