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☃️side
☃️「っは、……はぁ、」
曇った景色と焦点が合わない。
ただ懸命に、動かすのは脚だけ。
とうとう雨が降り出した。
落ちてきた雨粒が、自分の頬を濡らして、冷やして。
それでも頬の熱は冷めきらなかった。
心臓が体の隅々までどくん、と脈打って。
自分がきちんと息をしているのかすら分からない。
狂っていた。
ぼんさんの声が、脳で繰り返される。
「…、行ってきなよ」
「おんりーちゃんは多分おらふくんを待ってるよ」
☃️「くっ……ぁ、はぁっ、」
その言葉が紛れもない真実なら。
でも明らかにそうじゃない、それだけが確かで。
おんりーが求めてるのは、僕の助けなんかじゃない。
ぼんさんはなんで気づいてくれないんだ。
なんで伝わらないんだ。
悔しい、苦しい。
沸騰する頭とは裏腹に、指先から体は冷えていく。
手のひらから離れない爪痕がじくじくと痛んで、心を蝕んだ。
でも、確実に前には進んでいた。
目の前には雨粒が伝うドア。
何も考えずにインターホンを押した。
出てくれない覚悟はしているし、玉砕する覚悟もできている。
心臓が早鐘を打つ。
先輩にあんなにも偉そうな口を聞いて飛び出してきたくせに、手は震えていた。
情けない。
一番つらいのは、俺じゃないのに。
ぎゅ、と強く力を込めても、爪痕が痛むだけだった。
そのとき
🍌「……入って……あいてるから」
インターホン越しに、声が聞こえた。
無事だった、という事実に安堵したのも束の間。
生気を纏っていない冷たい声に、脈が早まった。
☃️「っは、おじゃま、しま、す……」
服の裾から雫が滴る。
迷惑かもしれないなんて考えてる心の余裕がなかった。
天気のせいもあってか暗い部屋。
不安は募るばかり。
けどもう逃げないとだけは決めている。
小さくあかりが灯る部屋のドアを、そっと開けた。
☃️「ぇ、……」
🍌「……ごめんね、わざわざ」
こちらを向いて笑みを浮かべる彼。
明らか本心では無い冷たい微笑み。
心臓が強く締め付けられる。
瞼が腫れていて、目の下にはくま。
目には光が宿っていない。
部屋だって、少し荒れている。
☃️「お、んり……」
🍌「……」
なんで気づけなかったのか。
やっぱり俺は、いつもいつも自分のことばっかり。
そうして何か大切なことに気づけず、失う。
彼はここまで追い込まれていた。
それに気づけなかった。
好きになるどころか、こんなの仲間としてすら失格だ。
☃️「おん、りー…おんりー…っ…」
彼を抱きしめていた。
この一瞬だけは恋愛的感情じゃなくて、彼を想う1人の仲間として。
濡れた俺の身体より、彼の身体の方が余程冷たかった。
☃️「おんりー、ごめん、ごめんな……」
🍌「ふふ、どうしておらふくんが謝るの、?」
☃️「違う、俺が、俺がもっと早く……」
泣きたいのは俺じゃない、のに。
無意識に感情は溢れてゆく。
伝えたいことはあまりにも多すぎて、口から出るのは謝罪だけ。
そんな俺すら、また笑顔で受け止めてくれる。
こうやって彼に背負わせてきたのは、間違いなく俺だった。
☃️「……つらかったよな、苦しかったよな。っなのに、なのに俺っ……ず、っと……」
🍌「気にしないで、ありがとう。」
強がる素振りもなく、おんりーはただそう告げた。
今ならわかる、これは本心では無い。
☃️「こないだ、の撮影の時だって…さ、おんりー、僕のこと心配してくれたでしょっ、」
🍌「……」
☃️「あの時だって、俺よりぜったい、おんりーのほう、がつらかったのに…っ」
🍌「……それは、あの時のおらふくんが、いつもと違くて怖くなったから、」
☃️「俺もっ、ずっとおんりーに対して、同じこと思ってた、」
🍌「……!そうだったん、だ…」
彼の心は、どれだけ話しても溶けてくれない。
やっぱりあの人じゃないと……
分かってはいるのに。
今おんりーを離して、ぼんさんの名を口に出してしまったら。
俺の、この気持ちは…
考えると胸が締め付けられた。
おんりーをこんな状況にさせるほど、愛されていたぼんさんが羨ましい。
その好意を独り占めできたら良かったのに。
叶わないなんてことは分かってる。
☃️「っおんりー、」
もうこれで終わりにする。
おんりーに幸せになって欲しい、という気持ちは嘘じゃないから。
だからもう、これが最後。
どうしようもなく切なくて、涙は止まらない。
『仲間として』なんて言い訳をする心の裏側は、両想いを望む気持ちでいっぱいだった。
ぼんさん、今抱きしめてあげるべきは貴方です。
おんりーを救えるのは貴方だけ。
思考とは逆の僅かな独占欲に支配され、一方的に彼を強く抱き締めた。