第8話 日常への復帰
世界が戻った。ピンクの空は消え、夕焼けは夕焼けの色をしていた。校舎の時計はゆっくり正しい方向に回り、放課後の音が自然に流れている。だけど校庭の端っこで、私は言った。
「変わったか?」って。外側は戻っても、内側は変わってる。仲間も変わってる。私たちは互いに傷と学びを抱えてる。だけどそれは悪いことじゃない。理解より行動を選んだ結果が今だ。
リクは相変わらず無骨で、その無骨さで人の面倒を見始めた。アヤネは素直に笑うことを恐れなくなった。ミナトはあいかわらず静かだが、時々学校の片隅で子供みたいにノートに何かを書いている。私?私は指にまだチョークの粉が少し残ってるのを見て、笑った。アンカーを置く役目は終わったが、その痕跡は消えない。
未来の私から最後のメッセージが届いた。短かった。
『よくやった。けど、これからが本当の始まりだ。終わらない物語を、しっかり生きろ。』
その文面に、私は変な安堵を感じた。未来が褒めるのは珍しいが、褒めるべきは私たちだ。だって、誰かのために選び、誰かのために忘れるってのは、単純な英雄譚じゃない。泥も血も交じった現実で、生きていくって決めたってこと。格好つけるのは嫌いだけど、今は誇ってもいい。
数日後、私たちはまた同じ教室で飯を食った。焼きそばパンの話で笑い、数学Ⅱの小さな問題で突っ込み合った。世界の終わりがどうとか嘘か真実か、そんな話題はもう出ないと思ってたが、アヤネがふと呟いた。
「でもさ、あれって…本当に実験だったのかな?」と。言い方は無邪気だけど、問いは深い。
「どっちでもいい」私は肩をすくめる。「結局大事なのは、今ここでお前らと飯食えてるってこと」
リクが変な顔をして、「お前は腹黒いくせに、いいこと言うな」と言った。ミナトが無表情でノートを閉じた。アヤネは前髪を弄りながら、「まあ、私もあんたらといるの嫌いじゃないわ」と言った。日常は不完全で、そこが美しい。
最後に、私はスマホを開いてグループLINEにメッセージを送った。短文だけだ。
「今日も平和。焼きそばパン残ってる奴いる?」
返事は秒で来た。絵文字多めの軽いノリ。世界は変わったし変わってない。どっちも事実だ。私は窓の外の夕焼けを見て、心のどこかで決めた。次にどんな選択をしても、もう逃げない。選ぶことは面倒だが、選ぶことこそ生きてるって証拠だから。
終わりじゃない。ここから先は続編でも長編でもない、ただの日々だ。だけど私たちは知ってる。どんな日常でも、選択が積み重なって世界ができていくってことを。だから、俺たちは歩く。笑いながら、時に傷つきながら。未来はまだある。だが未来は恐れるものじゃない。それは俺たちが創るものだから。
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