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※リクエスト&1500人記念いいね企画
※バッドエンドよりのメリバ
※死ネタ
※?(男想定)⇆ 桃 ← 桜
※要望に添えているか分かりませんが楽しんでくれると嬉しいです
※書くの楽しかったです
__最愛の人が死んだ。
眼の前で電車に轢かれた。線路に飛び込んだ子供を庇って。
最期の言葉は「そこで待ってて」。
待ってたよ。ちゃんと。でも、君は帰ってこなかった。
肉塊が崩れる酷い音がして、瞬く間に目が眩むほどの鮮烈な赤が眼の前に広がっていた。
電車の止まる音がキィィィンと耳鳴りのように響いて、思考を鈍らせた。
それでよかった、思考なんて鈍ったままでよかったのに、助かった子供の泣き声と、外野の悲鳴、眼の前の赤が、彼は死んでいると語りかけてくる。だんだんと理解してしまう。
「ぁ……」
やっと出た声は、低く掠れていた。涙は出なかった。
叫びもしなかった。ただ踏切の前で呆然と立ち尽くした。
最近、ないこさんの元気がない。
行動、言動、表情はほぼ変わりないけど、雰囲気が少し悲しそうに感じる。
どうしたのか訊いてみたが、個人的なことだからと教えてくれなかった。
相変わらず口が堅いし、隠すのがうまい。
心配掛けてごめんね、と笑ったないこさんの笑顔にズキリと胸が痛くなった。
ある日、ないこさんが社長室で倒れていた。
確か仮眠室は空いてたはず。
ないこさんの体を持ち上げて、仮眠室まで運ぶ。
社員さんが救護箱を取ってきてくれる間に羽織っていた上着を脱がして、寝苦しくならないようにした。
……ないこさん、軽かった。腕も細くなってるし、食べてないのかな。
目の下には隠せないレベルの隈。
眠れてもないのなら倒れるに決まってる。
額に手を当てると熱はなかった。
栄養不足と睡眠不足。睡眠不足はともかく、食べることが大好きな彼が食事を摂らないとは。
相当なことがあったとしか考えられない。
彼はなにを一人で抱え込んでいるのだろうか。
なんて思っているとドアがノックされて、救護箱とビニール袋を持った社員さんが入ってきた。
「ないこさん大丈夫そうですか?一応食べられそうなものも持ってきたんですけど……」
「あ、ありがとうございます……!たぶん栄養不足と寝不足かと……」
「珍しいですね」
「ですよね……」
そんな会話を交わす。
一応、体温計でないこさんの体温を測るが、熱は平熱。
そのことを確認して、社員さんは自分の作業に戻っていった。
しばらくして、ないこさんが目を覚ました。
「ん……ぁ、らんらん……?」
「あ、大丈夫ですか……?」
小さく唸りながら上体を起こすないこさん。
「たおれた……?俺、」
「はい」
「まじかぁ……」
そう呟きながら耳元のピアスをいじる。
「心配かけてごめんね。ただの寝不足だから大丈夫。作業戻るね」
ないこさんがそう言ってベッドから降りようとするから、思わず腕を掴んで引き止めてしまった。
「なにか、食べてください。ゼリー飲料でもなんでもいいので」
「あ、あぁ……そういえばなにも食べてなかったわ」
無意識なのだろうか。
ゼリー飲料を渡すとチビチビと飲み始めた。
食欲すらないのかな……。
「ないこさん、早退しましょう……?動けるうちに帰ったほうがいいですよ」
「確か、彼氏さんと_」
彼氏さんと同棲してましたよね、そう言おうとすると「大丈夫だから」と少し語気を強めに言われた。
迎えに来てもらったほうがいいかと思ったのだが、どうもそういかないようだ。
「帰りにくいんですか?」
「……作業戻るから」
「戻らなくていいです。帰りにくいならここで寝ててください」
立ち上がったないこさんの腕を再び掴む。目を逸らすないこさん。
このまま作業に戻ったらまた倒れかねない。
体調管理、自己管理のできる人のはずなのに。
「話を聞くくらいならできます。辛いことがあるなら、一人で抱え込まないで話してくださいよ」
そう言うと、ないこさんは悲しそうに、でもどこか嬉しそうに笑った。
「んは。彼氏にも同じこと言われたな」
胸が痛んだ。やっぱりこういうとき貴方を笑顔にできるのは彼氏しかいないのか。俺じゃ、貴方を心から笑わせられないのか。
ないこさんはベッドに座り直し、側にあったお茶を一口飲んで、なんでもないかのようにこう言った。
「彼氏が死んだんだよね」
電車に轢かれたの。
ないこさんがこちらを見上げる。絶句した。
なんて声を掛ければいいのか。掛けないほうがいいのか。
ないこさんに同情する気持ちがある。それなのに、一瞬でも彼が今フリーであることに喜んでしまった自分を心底嫌った。
「その時のこととか、いろいろ思い出しちゃうから寝たくないんだよね。作業で気紛らわすしかなくて」
「気持ちの整理がつくまで、迷惑かけちゃうかも」
そう言って、また、ごめんね、と微笑んだないこさん。
掛ける言葉も、する行動も思いつかなくて、ただ悲しそうな桃色の瞳を見つめることしかできなかった。
それから数週間。
暗い雰囲気はなくなりつつあるが、やはりないこさんの元気はない。
『ねぇらんらん、来てほしいとこがあるんだけど』
そんな中、かかってきた一通の電話。相手はないこさん。
『らんらんに来てほしいんだ』
そう言ってないこさんが指定した場所はとあるビルの屋上。
最悪な予想が頭をよぎる。
もしかしたら、彼お得意のドッキリかもしれない。
なんて考えながら、最悪の予想が事実にならないようにビルに急ぐ。
エレベーターがいつもより遅く感じる。
階段の一段一段が惜しい。
屋上への扉を押し開くと。
雲一つない水色の空の中を背景に、ぽつんとピンクがいた。
彼に駆け寄って、抱き締める。
らんらん、って声が上から振ってくるが気にせず抱き締めた。
今、彼を離してしまったら。居なくなってしまうんじゃないかと思った。
「……行かないで……っ」
声が震える。
「……ねぇ、らんらん。俺のこと好き?」
「っ……好きです」
突然された質問。意図は分からなかったが、震えた声で答えた。もしかしたら、最後の彼との会話かもしれなかったから。
「うん、知ってたよ」
思わず顔を上げた。
「俺は、待てなかったんだ」
「……なに、いって」
「らんらんは、ちゃんと待っててね。こっち来ちゃダメだよ」
ないこさんが何を言ってるかは分からなかった。
けど、今からなにをするかは分かった。
とんっ、と胸板を押された。
腕の中から、するりとないこさんの体が抜ける。
腕を伸ばした。それも、届かない。
こちらを見上げた桃色の瞳と目があった。
刹那、ぐちゃりとなにかが潰れた音がして。
コンクリートの上に真っ赤な花が咲いた。
思わず階段を駆け下りた。
エレベーターを待つ時間さえ惜しくて、無心で足を動かした。
もしかしたら、彼は無事かもしれない。
人混みを掻き分けて、赤に飛び込んだ。
四肢を放りだし、痛んだ髪桃色の髪が赤に濡れている。
いつでも未来を映し、輝いていた桃色の瞳は磨りガラスのように曇っていく。
半開きになった唇に指を添わせる。指に吐息が触れない。
……死んでしまった。
「ぅ゛、……おぇ゛」
涙に混じって嗚咽が漏れる。
『こっち来ちゃダメだよ』
ないこさんの最期の言葉が響く。
彼は、恋人のあとを追いかけたのだろうか。
ねぇ、ないこさん。貴方がいない世界で俺はどう生きていけばいいんですか。
最愛の人が死んだ__。
コメント
8件
言葉が丁寧で一言一言に愛情と苦しさが詰まっているみたいで素敵です😢😢💕💕さーもん3️⃣の桜桃すきです🥹🥹
うわああやばいです😭 表現のひとつひとつが丁寧でめちゃめちゃ綺麗です🥲🥲 しぬほど辛いし胸が締め付けられたんですけど、やっぱこういうの好きです。。。。ありがとうございます………
久々のコメント失礼します、! 性癖すぎて発作が起きてます… 描写が綺麗すぎてめちゃくちゃ刺さりました、なんていうか…もう、美しすぎて…😭 「待っててね」の言葉のリレーがまた、切なかったです… 最高の作品ありがとうございます🥺