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※須藤北斗視点



 変だった。


 とにかく変だった。




 心が落ち着かない。


 今の自分とこれまでのみんなの“理想”である自分がかけ離れていく。


 どうしちまったんだ俺は……。


 マジで頭がおかしくなりそうだ。




 ……あぁークソッ! むしゃくしゃする!!!


 あとで女でも抱きに行くか……そうするしかねぇ!


 女抱いたらとりあえず落ち着くしな……話はそっからだ。


 いくら屈辱的なことが起ころうが、俺は須藤北斗。


 あの須藤北斗だ。


 自暴自棄になるな俺……!!!




「ただいまー」




 帰宅し、真っ先にリビングに向かう。


 するとそこには、ソファに腰掛けてワインを嗜む父さんの姿があった。




「あれ、父さん。珍しいね、こんな時間に家にいるなんて」




「あぁ、まぁな。ちょっと色々あって……チッ。思い出すだけでイライラする」




 どうやら父さんもご機嫌斜めらしい。


 それにしても父さんが取り乱すなんて珍しいな。


 いつもは余裕しかないってのに。




「何かあった?」




「……実は融資してやってた奴らが金貸し辞めるって言いだしてな。なんでもあの“荒瀧組”が介入してきたらしい」




「あ、荒瀧組ィッ⁉」




 俺でも知ってるくらいにドデカい組じゃねぇか!


 そりゃ下手に動けないな……。




「もしかして、うちにも矛先が……?」




「いや、それはない。“俺”との関係は絶対に分からないように何重にも間入れてるからな。……でも、葉月家は何としてでも手に入れたかった。だから融資してやってたのに……チッ! あぁクソッ!!!」




「ふぅん……」




 なるほど、葉月家ね……ん? 葉月家?




「葉月家⁉ 父さん! 葉月家って、あの葉月家⁉」




「なんだ、もしかして知ってるのか? ……あ、そういえば娘がお前と同い年だったか。それも同じ高校の」




「葉月家がどうしたんだ⁉ それに手に入れたかったって!!!」




「実はな、ある会社が葉月家に金貸してたんだよ。その母親がとんでもない美人でな……娘も、あれはびっくりするほどの上玉だった。だから風俗に回して稼がせる前に一発抱きたいと思ってたのに……チッ! しくりやがったアイツら!!!」




「ッ⁉⁉⁉」




 嘘だろ⁉


 うちと弥生が思わぬところで繋がってたなんて!!!


 


 というか、そのことを俺が知ってればその弱みに漬け込んで自由にできたんじゃないのか⁉


 それこそ、弥生を俺だけの性奴隷にするような、そんな夢のようなことが……!




 あぁああああああああッ!!!!


 なんてチャンスを逃してんだ俺はァ!!!!


 絶対いけた!!!


 絶対弥生を落とせた!!!


 なのに、なのにィッ!!!!





「「アァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」」





 父さんと声が重なる。


 なんでこんなに上手くいかねぇんだ!!!


 俺様は須藤北斗なのに!


 俺の欲しいもの、したいことはすべて叶えられるはずなのにィッ!!!!




 頭がおかしくなりそうだ!!!


 勝ち続けるはずの俺様が、なんでこんなに負けてんだ!!!


 許せねぇ……!!!




 九条良介、アイツ……!!!!




 マジでおかしくなっちまうよこんなの!!!


 俺が俺じゃなくなる!!!




「……ごめん父さん、ちょっと行ってくる」




「お、俺もだ」




 早く女を抱かなきゃ!!!


 そしてアイツを――負かさなきゃダメだ!!!




 じゃないと俺が崩壊する!!!


 アイツに恥かかせて、ボコボコにして……そんですべてを始めるんだ!!!


 俺は須藤北斗!


 須藤北斗なんだぁああああああッ!!!!







     ♦ ♦ ♦







 ※一ノ瀬雫視点





「また明日、良介」


「良介くんバイバーイ!!!」


「じゃあね、九条くん~」




 良介に手を振り、家に入っていくのを見届ける。


 それから私たちは三人で歩き始めた。


 ほんとなら良介と一緒に帰ったこの“余韻”を胸に、一人で噛み締めるように帰りたいところだけど……途中まで一緒だから仕方がない。




 ……それにしたって。


 想定していたことだけど、大変なことになった。




 ただでさえこの乳牛が私と良介の“愛”の弊害になってるっていうのに……何考えてるかわからないゆるふわ女まで介入してくるなんて。


 全く、どうして良介はこうも天然人たらしなのかしら。


 それに髪を切ったことでこんなにもライバルが増えて……。


 まぁ、そこも良介のよさだし、愛してるところなんだけど……。






「「「うへへ♡」」」






「「「ッ⁉⁉⁉」」」




 三人顔を見合わせる。


 二人ともだらしない、まったく同じ顔をしていた。


 きっと良介のことを考えていたに違いない……私の良介なのに!




「ちょっと、良介のこと想像してたでしょ」




「別にいいでしょ? す、好きな人のこと考えるのは自由だし……」




「私もそう思うな~。けど、“ほどほど”にしてね~」




「どうしてあなたがそんなこと言うのよ」




「だって、最終的に九条くんの大好きと愛は“私が”独占するからね~」




「「ッ!!!」」




 この女……!!!




「ダメだよ弥生ちゃん!!! 良介くんは私が独り占めするもん!!!!!」




「ちょっと乳牛、何言ってるのよ。良介は私のよ。誰にも渡さないから。……絶対に」




「私もだし! ……何としてでも」




「私のセリフだよ~。九条くんは私専用だからさ~。……ふふっ」




 良介のことを話しているだけで、勝手に頭の中で想像が広がる。


 そしていつの間にか、話そっちのけで良介のことを考えていて。




 良介の意外にゴツゴツした手とか、ガタイのいい体とか。


 ちょっと冷たい表情とか、困った表情とかも全部……。








「「「…………ふふふっ♡」」」









 待っててね、良介。


 良介は私が責任もって幸せにするから、ねっ?♡


 




 

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