TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

泡になって消えてしまえ。

一覧ページ

「泡になって消えてしまえ。」のメインビジュアル

泡になって消えてしまえ。

1 - 泡になって消えてしまえ。

♥

212

2025年04月16日

シェアするシェアする
報告する

太中

◆ご都合異能

◆見る人によってはキャラ崩壊と感じる場面があります




日中の騒がしい雰囲気が嘘のように静まった街の道路では1台の車が通り掛かり、横浜で1番天空に近く、地面から1番遠いビルへと向かう。

車の中では頬にドロっと赤黒い血をつけている少年たちの話し声がしていた。

「君のダメなところは優しすぎるところだ。小さいからってホイホイついて行ってはいけないだろう。」

異能力というものは知っているだろうか

一部の人のみ持っている特殊な能力だ。

異能を持っているというのは一般市民からすれば目を輝かせるほど憧れた存在だろう。 だが、異能のおかげで助けられるもの、人生のドン底に落とされるもの、異能で人生が左右されると言ってもおかしくはないほどの強力な力でもある。とは言ったが、くだらない力を神から貰うものもちらほら見かける。

「その異能、僕の無効化も効かないようだけど」

そう、中原中也は異能にかかった

ある条件を満たさねば解除されない、という都合のいい異能のようだ。

「こればかりは俺のミスだ。俺が何とかする」

表情も声も言葉遣いも性格も何もかも気に食わない。

人を利用すればいいものを、元羊の王で自己責任が強い彼は1人で何とかしようとする。

『マフィアに優しさはいらない』

裏の職業に着く限り、そんなことは承知の上だろう。 切り離してしまえば楽なのに、そんな厄介な感情

一回り小さい手を取る。 手袋をスルッと脱がすと、 細くて長い男らしい指が所々綺麗な魚の鱗のようになっていた。 人魚化している、と言えばわかりやすいだろう。

「あー、解除条件は好きな人とキ……スを」

だんだんと声が小さくなる。

手に熱が籠っていき──

なるほど、恥ずかしいのか。

僕相手に恥ずかしがらなくともいいと言うのに、ウブなちびっ子はこれだから、まったく。 後で今週の負け惜しみ中也のネタにしてやろう。

「キスをすれば解除されるって?」

そっぽを向くと、小さく頷き、太宰の手を振り放す。 完熟したりんごのように真っ赤な耳が髪からちらっと見え、自分も釣られて顔を赤く染めた。

それはともかく、本部に戻ったら人魚化する異能について調べなければいけない。

***

調べてみたところ、

中也の言っていた通り、条件は『好きな人とキスをする』というものらしい。

それも異能解除方法はこれだけだ。 この1つのクエストを1週間以内にこなさなければ泡になって消えてしまうと噂されている。

※好きな人が居ない限り異能は効かない

簡単に言うと、リトルマーメイドのような異能だ。 これが本当ならば、いや、僕の調べものに間違いはない。だとしたら中也には好きな人がいると言うことだ。

そいつを殺せば中也の恋心はなくなり、異能を解除できるのでは?ダメだ。いくら相手が憎いからって中也を巻き込む訳にはいかない。だが、あの青い瞳から宝石のような涙が出てくるのは…少々興味が湧く。

そもそも、あのウブな蛞蝓にキスができるのかという問題点が出てくる。 キスと発するだけで顔を赤らめるウブな、思春期男子のような、あの蛞蝓にだ。

数時間前の可愛らしい赤い果実が思考の妨げになり、頭をぐしゃぐしゃと鳥の巣のようにする。

「気が狂う…」

やつれた声で、一方自分のありえない恋心に疲れたような声で、山積みの書類を横にそう呟く。

気がつけば綺麗な三日月が沈んでギラギラとした太陽が小さな窓から顔を覗かせていた。 僕としたことが、仕事を片付けないまま寝てしまっていたようだ。

「やっと起きたか寝坊助」

こんなやつの目の前で寝息を立て、ぐっすりと眠っていたなんて最悪だ。 いつもより寝つきが良かったのは気のせいだろう。

「…何か用?」

「嗚呼、異能のことでなにか掴めたかと思ってな。まぁぐっすりと寝ていたようだが」

にまにまと僕の方を見て「ぷぷぷ」と笑う。 君だって汚濁解放した後は安心したような顔でいつもいびきをかきながら寝ているではないか

反論しようと思ったが、それとこれとは話が違う。

命を懸けて戦った後には眠たくなり、力が抜け、寝てしまうのも無理はない。 だが、僕は恋煩いに悩まされ、 いつの間にか朝になっていた。

こんなことを知られたらどういじられるか考えたくもない。 適当に話を切り上げて薄暗いコンテナの中でねっ転びたい。そう思っていると中也が「体調でも悪いのか?」と、僕の顔を除くように腰を曲げる。そんなつぶらな瞳で見つめないでくれ

「なんでもないよ。異能力者の名前は──」


「はぁ〜ッ!?1週間以内にしぬって…いや…ンなわけ……てかキスってマジなのかよ、」

中也は冗談半分だと思っていたらしい。

なのに顔を赤く染めたのか。…中也のくせに可愛いな

「あれ?ちゅーや、好きな人とちゅーも出来ないの?ちゅーだけに」

「やかましいわ」

「いダッ」

ゲンコツを1つ食らってしまった。

僕だって嫌だ。 中也が僕以外のやつとキスをするなんて、考えるだけで吐き気がする。冗談でも言っていないと精神が持たないのだ。

ジンジンする右前頭部を押えながら話を進める。

「とりあえず、その好きな人とさっさと終わらせれば?発情期の犬みたいにさ。わんわんって」

「ナメてんのかてめぇ、」

中也の好きになる相手とは一体誰なのか。 喫茶店やBARの女給、あるいは最近仲良くしていると噂の部下、僕という希望はとうの昔にぐしゃぐしゃにしてゴミ捨て場に投げ込んでいる。重い腰を上げ、中也の横を通り過ぎ、後ろに手をゆらゆらと横に振りながら帰ることを伝えた。

中也の表情は見えていなかったが、犬の威嚇のようにワンワンと吠えていたので大体予想はつく。 この犬はどこまで僕を仕事漬けにしたいんだ。

中也が厄介な異能にかかってから2日目

部屋に入る途中、廊下で座り込みながら顔を手で覆っている中也を見かけた。

「好きな人好きな人好きな人好きな人好きな人…」

なにかの呪文? それより、この蛞蝓はまだ好きな人とキスをしていないのか。 その「好きな人」よりも早く中也の唇を奪いたいところだが、変に警戒されるのはごめんだ。

いつも通りの入水をしてこようか、そしたらチューヤは僕にムチューになるだろう。

「なんか風通し良くなったか…?」

***

海も冬に浸かれば南極のように冷える。 暗い海の底でずっと1人、好きな人を待つのだ。

「深海で結婚式をあげようか」僕には珍しい空想的な考え事をする。 肺に残っている空気は残りわずか、 小さく開けた口からはシャボン玉のように綺麗な泡が吐き出された。 海水の冷たさで四肢の感覚は無に近い。

その状況で助かろうたって無理があるだろう。 だが、僕の従順な犬はいつだって助けてくれる。嫌いなやつのことなんてほっとけばいいのに、そう何度も思った。

勝手に期待してしまう自分に嫌気がさすから

「だざッ…」

目を開ければ眉頭を寄せ、大きく口を開ける僕の可愛い犬の姿が瞳に映った。 言った通り、 僕の犬は助けに来てくれる。

実に忠誠心の強い犬だ。 後で褒めてあげようでは無いか、 助かったらの話だが。


暖かい日差しに、聞けたものではない人々の笑い声や話し声。 その中に紛れて呆れた声を出し、濡れた服を絞る中也が隣に座っていた。

「ちぇ、助かってしまったか」

「助けてやったんだ!いい加減感謝の一言ぐらい覚えろ!このクソ鯖!」

手で顔を覆っていてよく分からなかったが、頬に宝石のような鱗が繁殖していた。

「鱗…」

そう言って頬に手をやると驚いたのか肩をびくつかせる。本当に気に食わない。馬の骨にかけられた異能で苦しんでいる中也にも、そんな異能に嫉妬している僕にも。 5日後、まだ解除できていなかったのならば中也を心中に誘う。どうせならば一緒に死んでしまいたい。中也に拒否する権利だってある。 拒否されるのを前提にだ、好きな人と同じ日に死のう。ふとそう思った。

「ンなこたァどうだっていい。帰ったら仕事をしろ。仕事を。」

あの山積みの書類を1人で片付けるのか、

なんというか…その、心が折れる。

帰ったら次の任務の作戦を練らなければいけないし、それに中也のことだってあるというのに森さんは何をしているんだ。

「とりあえず部下に連絡して──」

そう言う中也の声を遮り、体を引き寄せる。 目を大きく開いて困惑しているのか口からは、いつもの牙のある言葉が出てこなかった。

「泡になって消えてしまおう、この海の底で、一緒に」

今言うつもりはなかった。こうやって小さな体を包み込もうとも思わなかった。 だが、キラキラと輝く海を横に勝手に体が動いてしまったのだ。

「死ね…あほんだら」

そう言って僕と共に海へ身を投げる。

海水で揺れる髪、壊れた携帯電話、口から吐かれる小さな泡、何もかもが素敵だった。 目を瞑り、ただ海の奥底へ沈んでいく優しい笑顔の中也を見て、今なら何もかも許してくれる気がした。 少しかさついた中也の唇を指でなぞり、キスを交わす。すると光が中也を包み込み、頬や指の鱗が次々と剥がれ落ちた。

「ばぁか」

重い瞼をあげるといつものボロコンテナの中にいた。夢から覚めたような感覚だ。 いや、夢を見ていたのか。僕以外誰もいない部屋で1つの大きなため息を漏らす。 頭を抱えているとベッドからヒラヒラと紙切れが落っこち、その紙切れにはこう書かれていた。

「首領が1日、休みを与えてくれると言っていた。 急に海へ飛び込んでしまってすまない。

でも異能は解除されて助かった。 ありがとうな。 あともう1つ、あれはまぐれだ。なにか他に異能解除できるものがあったのかもしれない。 くれぐれも、勘違いはするなよ。ばーか」

勘違いするなよと言われても、これは勘違いではないだろう。 僕の調べものに間違いは必ずないのだから。手紙を見て緩んだ口元を治し、硬いベッドに倒れ込む。

だが、せっかくの休日だ。今日ぐらい好きな人のことだけを考えていてもいいだろう。

ね、ちゅーや。

泡になって消えてしまえ、終




◆アトガキ◆

多忙です。(察してください)

太中はいくらあってもいいですからね、沢山書きたいのに体力とやる気が…。

この作品はいかがでしたか?

212

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚