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千景が帰ってしまう…。ここまで会いに来てくれたのに…。
どうしよう…。どうしよう、どうしよう…今僕はどうしたら良いの…。会いに来てくれたのに。行かないで…。行かないでよ。本当は行かないで欲しい。僕はまた間違えてしまうの?
僕は…僕は……
靴も履かずに外へ駆け出した。
もう身体が勝手に動いていた。
急に頭が動き出す。千景が出て行ってからどのくらい経った??
どうしよう…帰っちゃう…。
「はぁ、はぁ、はぁ、いない…」千景が居そうな道を必死になって探した。走って、走って、走って、走って。だけど、どんなに走って探しても千景はどこにも居なかった。
追いかけてまで千景を引き留めたかった。追いつけたら今度こそはたくさん謝って、僕も本当はずっと会いたかった。って言いたかった。千景の正体に気付いたけど、それでも大好きなんだって言いたかった。逃げた事を本当は毎日後悔していたと伝えたかった…。でも、僕はまた間違えてしまった。
悲しい思いをしたくなくて、自分を守りたくて独りになる事を選んだのに…。だけどそう思っていた時よりも何倍も悲しくて独りぼっちになってしまった。
どんなに走っても千景はいない。悲しくて、悔しくて、会いたくて…誰も居ない夜道でしゃがみ込み、後悔に押し潰されながら声を殺して泣いた。
走るのを止めると、足から血が出ている事に気が付いた。痛む足と一緒に家までの道乗りを歩く。
「足、いたい…。」
どこに擦ってしまったのか足は擦り傷だらけになっていた。
これでもう千景には会えない。完全に嫌われてしまった。会いに来てくれたのに酷い事を言ってしまった…。また僕は間違えてしまった…。切り捨てられる事が嫌で千景から逃げたのに、結局自分自身が一番切り捨てられたくないと思っていたんだ…。逃げないで『知ってるよ』と、伝えて向き合えば良かった。笑って許してあげれば良かった。逃げないで傍にいれば良かった…。
涙を拭く事もやめて、泣きながらもう歩くのもやっとの状態で家の玄関を開けた。
玄関に男物の革靴が置いてあった。
顔をあげると玄関の先の廊下に千景が白い猫を撫でながら座っていた。
「…えっ……なんで?」
「ニャー」
「千景…。ルナ…」
千景がバツが悪そうに笑っている。
「やっと帰って来た。俺、カーッとなって飛び出したのは良いんだけど、鞄とか財布とかを全部置いたまま飛び出してて、カッコ悪いからすぐ取りに戻れなかったんだ。で、さっき戻って来たら鍵も開きっぱなしで、都希も居ないし、なんか猫が寄ってくるし、無用心って、うわっ!!」
気まずそうに早口であれこれと説明している千景に思いっきり抱きついた。
「都希!え?!お前、裸足かよ!何やってんだよ!うわっ!血出てるぞ!!」
「血なんてどうだって良いよ…。」
「どうでも良くないだろ!」
「どうだって良い!!」
「いいから離れろ!」
「やだよ!離れたら千景がいなくなっちゃう。」
「…お前今更何言ってんの?…いなくなったのは、お前だろぉが……。」
そう千景が言うのと同時に抱きついていた腕にポタポタと雫が降って来た。手の力を緩めて見上げると千景の目から次々と涙が溢れていた。
「千景…ごめん…泣かないで。ごめんね。」
両手で千景の顔を包んで自分の首元に抱き寄せた。千景は泣きながら僕を抱きしめてくれた。
・・・・
千景に足の手当てをしてもらった。
「ごめんなさい。」
「いや、俺も頭に血が昇ってたから。もう良いから…とりあえず先に傷の手当てしよ。」
落ち着いて千景を見ると、久しぶりに会った千景は前よりももっとカッコ良くなっていて、僕なんか到底釣り合わない。情けなく走って傷だらけになってまで追いかけた。でも千景の隣に並ぶ資格は無いのかもしれない。そんな事を思いながら手当てしてもらっていると千景が話しを切り出した。
「都希、俺、お前に言わなきゃいけない事があるんだ。」
あぁ…やっとだ。やっぱり僕はもう逃げない。この先千景が僕から離れてしまう日が来ても僕はもう後悔しない。
「知ってる。もう全部分かってる。」
「何で?何を知ってるんだ?」
「千景くん。…君、尚人の弟でしょ。」
そう言うと千景はまた泣きそうな顔になって俯いてしまった。
「千景、僕も君に話したい事があるんだ。全部聞いてくれる?」
・・・・
いつからあの千景だと気付いたのか、どうしてジュリが居たのか、猫の事とか、今までの『僕』の話しを全てした。
代わりにいつ気付いたのか、どうして怒って僕と関係を持ったのか、どうやってここに来てくれたのかを千景は教えてくれた。
もう僕達の間にあった深い溝はどこにも無かった。
「都希くん。」
「何か変だよ。都希が良い。」
「わかった。…都希、俺、今までの都希も丸ごと引っくるめて本当に好きなんだ。俺、マジ情け無いし、すぐ泣いちゃうけど、これからは都希の全部を受け止めるから俺の傍に居て欲しい。」
「僕、男だから結婚出来ないけど本当に良いの?」
「今更何言ってんだよ!ってか都希はどうなんだよ…。俺まだ好きとか言われてない…。」
この気持ちをちゃんと言葉にして伝えよう。
「千景、初めは最悪な再会だったけど、そんなのもう関係無いくらい千景の事が大好きだよ。色々なところへ僕を連れ出してくれて本当にありがとう。あの千景だって気付いたのと同じ時に、君を好きだって気付いて…。自分の気持ちと向き合うのが怖くて…。逃げてごめん。でももう逃げないから。本当に大好きだよ。僕の傍に居て欲しいです。」
笑っちゃうくらい千景はまた泣いていた。
気持ちを伝え合って、僕等は心からお互いを抱きしめ合った。抱き合う僕等にルナがスリスリしている。
「この猫、ルナって言うのか?真っ白でなんか都希みたい。」
「え?僕?」
「ふわふわでサラサラで綺麗で、都希が猫になったらルナみたいだと思う。」
「ふふ、ルナってね、ラテン語で月って意味なんだよ。だから同じ名前なの。」
「じゃあ、ルナも俺の恋人だな!」
「早速、浮気?」
「それはダメだ!じゃあ、子ども?でも都希、一人っ子だから妹か?同じ名前だけど。」
「ふふ、そうかもね。ルナ…お利口さんだね。」
都希がルナに声を掛けると「ニャー」と、返事をした。