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【注意書き】
・本編の性格と不一致
・嫉妬、嗜虐心要素あり
・ルイ生存設定
静かな音楽が流れる店内のカウンター席でお馴染みのカフェラテを飲みながら意味も無くスマホを操作する。普段ならカフェラテとチーズケーキをセットで頼むところだが、今日は気分が乗らず一方のみを注文。
ここに憩いを求めにでも無ければ、甘味を求めに来ている訳でも無い。この店に足を運ぶ理由はただ一つ、高校時代から出会い最も心を許している友人と会話をする為だけ。それ以外は正直言って瑣末なことに過ぎない。
にもかかわらず、友人の彼と会話をせず独りでカフェラテを啜りながらスマホや、窓から人が行き交う姿を呆然と眺めるなどして過ごしている現状。どうしてこうも無駄な時間を過ごしているかと言うと、事の発端は数日前に突然現れた一人のアルバイト定員。
新しくアルバイトとして雇われた大学一年生の綺麗な女性。彼女のことを友人は頑張り屋で素直な子と評し、時に手のかかる子だとも話した。彼女も友人を頼りにしている様子であり、困り事が生じると相談をすることもしばしば。
仕事に対して積極的な態度も尊敬でき、仕事中の友人に語り掛ける自分が正しくないのも重々承知の上だが、身勝手極まりない自身の思考が彼女の行動に嫌悪感を感じさせる。
「嗚呼、イライラする…」
思いが口から零れ落ちたような小さな一言。
この衝動は彼女の行動からなのか、それとも自身の薄汚れた感情からなのかは判らない。しかし密かに苛立ちを感じるのは確かだった。
今も視界の端で親しげにやり取りをする二人の姿が映っている。意識を逸らそうと努力するも、思考を意図的に止めようとすると返ってその思考に囚われてしまう現象。脳の摂理には抗えないと改めて痛感する。
ここに居ては良くないと思い、友人にも声を掛けずそのまま静かに店を出た。
店長から新人教育係を命じられてから早五日。この頃教育係の仕事で手一杯になってしまい、日々立ち寄ってくれている友人ともまともに話せていない。責任重大な役を任され仕事中は気を張り詰めている為、個人的にも休息としていつもの他愛の無い話をしたいと強く思う。
しかしこの新人が想像よりも手のかかる子だった。僕より二つ下の彼女は意欲的で頑張り屋なのだが、気持ちに能力が追い付いていない模様。教えたことを正確に書き残したメモ帳を後日紛失したと告げられた時は流石に驚いた。更に注文内容を間違えるミスも多発。仕舞いにはお客様に湯気が立っている珈琲をぶっ掛けてしまう。最早収集が付かず混乱状態に陥っている。
バイト終了後、店の制服から私服に着替えている最中、机に置いたスマホが振動を起こし一件のメッセージを液晶に映し出した。
その内容を確認するようにスマホを持ち上げると、よく目にするアイコンからの場所と時間を伝えるメッセージだった。こちらに有無を言わせない既に決定された待ち合わせ。 こちらとしても好都合だと思い、一つ愛用しているスタンプを送った。
メッセージに記された位置情報の正体は、僕らがよく大学終わりに何気なく足を運ぶ喫茶店だった。
普段どちらかがバイトの日は待ち合わせの約束などしない為、少々違和感を感じつつも約束の二分前に淡い暖色系の光が色を変え漏れ出ているステンドグラス付きドアを開ける。
決まった席にはもう彼の姿があった。
大きな窓の傍にあるボックス席。テーブルの上にはきなこ色を基調とした長毛の大きな猫が大胆に寛いでいる。その猫に目線を合わせゆったりと一定のリズムで頭から背中を撫でている彼。あのやる気の感じられない動きは何か思い悩んでいる際に見せる特徴的な動き。今夜は楽しくなりそうだと密かに思う。
「どうした?…バイトの日に約束って初じゃない?」
向かい合わせに座った僕の問い掛けにピクリと反応し撫でていた手の動きを一瞬鈍らせた。
それから無言の時間は過ぎ、僕の注文が届いた頃やっと彼が口を開いた。それと同時に何かを察したのか、それまで寛いでいた猫が一度伸びをしてから僕の腕に身体を擦り付け去って行った。
「……新人の子…」
口元で小さく呟かれたそれを確認するかのように、より具体的に話すよう仕向けもう一度聞き返す。
「…あの子が入ってから直樹が冷たい」
「手が空いた時に話してるよ」
「ちょっとじゃん…話の途中でもすぐあの子のとこ行っちゃうし、全然話足んない…」
「そんなこと言われても、教育係だし困ってたら助けに行くでしょ」
見るからに不貞腐れている。頬をテーブルに貼り付けて僕と目を合わせようとしないルイ。その弱々しい姿に僕の嗜虐心は焚き付けられ、彼を突き放すような心の無い言葉を浴びせる。 僕の言葉を真に受けたルイの瞳が潤んだように見えた。きっと限界はすぐそこまで迫っているのだろう。下唇を噛み締め、歪んだ顔を抑えられない様子のルイ。
嗚呼、ゾクゾクする…
「そうだけど…、そうだけど!…寂しいよ」
「…ふふ、寂しいんだ?」
「は、はぁ!?何笑ってんだよ!!」
「いや、ごめ、無理だわ」
まさかここまで素直に思いの丈を話すとは想像しておらず笑いが込み上げ、耐え切れず漏れてしまった。
やはり僕は一方的にでは無く互いに楽しめる関係でありたい。顔を見合わせ笑い合ってそう思った。
今日の為に協力してくれた彼女に礼を伝えなければ。それにしても彼女の演技は賞賛に値する物だった。若干気合いを入れ過ぎな気もしたが。