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乾燥した喉から、掠れた声が漏れる。もう日は落ちただろうか。
誰にも使われていない空き教室。校舎の端にあり、もはや物置としても使われていない。目の前に立つ体育館に日光を遮られ、今が何時ごろかもわからない。
転がった椅子に倒れた机。埃っぽい床に寝そべる俺。、、、いや、寝そべるというよりは倒れ込むと言ったほうが正しいか。
バタバタと足音が聞こえる。相変わらずの騒がしさに思わず笑ってしまう。
「いふくん!!」
ガラッ、と大きな音を立てて開いたドアからちらりと顔を覗かせる水色。手にはいつもの救急箱がある。
「やーっときたか、あほとけ」
なんて、掠れた声で文句を言えば「しょうがないでしょ!あいつらが近くの階段で座り込んでたんだから!!!」と返ってくる。ふん、と鼻で笑ってやれば「なに!!もう来てあげないよ!!??!」とか騒ぎ出す。こんなことを言いながらも毎回来てくれるのだからやはり優しい人間だ。
あざだらけの腕に包帯が巻かれるのをぼーっと眺める。ほとけの方も慣れた様子で黙々と手当てしていく。
今日は一段と暴力が酷かった、と他人のことのように思い出す。いつもはここまであざが出ることはないのに。なんて心の中でぶつぶつ文句を垂れていれば、「はい!終わったよ!!」と言う声とともにドヤ顔が視界に映り込んでくる。
「そのドヤ顔どうにかしろや」
「えーー!!?いいでしょ別に!!!」
綺麗に整頓された救急箱の中身。緩みもなく、綺麗に巻かれた包帯。ドヤ顔されても仕方がないのかもしれないが、素直に認めるのも気に食わない。またしても鼻で笑ってやれば、またあの騒がしい声が返ってくる。と、思っていた。それなのに少しの間をおいて返ってきたのは、こいつらしくない小さな声だった。
「、、、いい加減、こんなことやめればいいのに」
「しゃーないやん、これしか方法ないんやから」
「っ、だからってこんなボロボロになるまで、、、!!!」
震えた大きな声に驚いて顔を覗き込めば、両目に溢れんばかりの涙を溜めていて。「なんでお前が泣きそうになってんだよw」なんてからかえば「だってぇ〜!!」とか言いながらポカポカ殴ってくる。
別に俺だってやられたくてやっているわけじゃない。どちらかといえば力は強い方だし、まともに戦ってしまえば勝てる自信もある。それでもやり返さないのは、やはり”彼”が脳裏をよぎるから。あれから何年も経っているくせにいまだに縋っているのは、囚われているのは、きっと死ぬまで忘れられないのは、”彼”のせいにでもしてやろう。
「ほとけ、帰るぞ。そろそろ見回りがくる」
教室の壁の掛け時計は17時53分を指していて。18時には先生が見回りに来る。、、、この教室には来ないけれど。見回りが終ってしまえば校舎は鍵をかけられてしまう。それまでにはここを出なければ。
「はいはーい、わかりましたよーーーだ!!!」
大人しく救急箱を手に立ち上がるほとけ。痛むお腹を庇いながら腕に力を入れれば、目の前に差し出される手。やはり、こいつは優しい人間だ。
「まろは笑っとるだけでええわw」
そう言った彼は、どんな表情をしていたのだろう。
野次馬をかき分けて進めば、大好きな彼がそこにいて。夕日の光を浴びてキラキラと光っていた長い髪。柔らかくて、さらさらで。触り心地が大好きで、暇さえあれば毛先をいじっていたあの髪が。赤い液体に溺れていた。
「あにきッ!!!!」
震え出す手。
乱れている服の隙間からは、遠目で見てもはっきりわかるほどあざに埋もれた肌があった。分かっていた。知っていたのに。彼の笑顔に甘えて、頼って、押し付けて。それでいて、ずっと彼の隣に居れますように、なんて都合のいいことばかりを願っていて。
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい。
彼が居なくなってから、ずっと繰り返した。届かないくせに。もう遅いと分かっているくせに。
初めの標的は、俺だった。物を隠したり、仲間はずれにしたりと言った幼稚ないじめ。正直、どうでも良かった。あにきさえいれば、他に友達なんていらなかった。本気でそう思っていた。
、、、それなのに、奴らはそんな小さな幸せも奪っていった。
「まろー、今日も一緒に帰れんわ、、、ほんまごめんなぁ」
俺に対する陰湿ないじめが不思議と落ち着いき始めた頃、彼の方から帰れないと言われることが増えた。家が近いから、当たり前のように毎日一緒に帰っていたのに。
「え〜、、、分かった、また明日帰ろ」
寂しさを押し隠してにこりと笑ってそう言えば、「、、、wそうやなw」なんて笑って返してくれる彼。
きっと、俺がそのとき気づくことができていたら結果は違ったのかもしれない。
一緒に帰れない、と言われ始めて数ヶ月。だんだんと増えていく一人で歩く帰り道にもある程度慣れてきた頃。教室に忘れ物をしてしまったために、半分ほど歩いた道を引き返していた。
早く帰らないと親を心配させてしまう、と慌ただしく廊下を走る。教室の前扉を大きく開けば、窓の外を眺めている人が1人。誰もいないだろうと思っていただけに、うおっ、と変な声を漏らす。
そんな声にゆるりと振り返る人影と、ふわりと動く長い髪。
「!!あにきやん!!!」
「えっ?、まろ??!なにしにきたん!!?」
「忘れ物したから取り来たんよ」
そう言いながら机の中を手で探る。ゴトリ、音を立てたそれを引き出す。
「なんやwww水筒忘れたん??www」
からかうように笑う彼に頬を膨らませれば、さらに大きな声で笑われる。
その笑顔がとても綺麗で。
「まろ、あにきの笑った顔大好き」
思わずこぼれ落ちた呟き。それは彼の耳にも届いたようで、ふはwと笑い声が耳に届く。
「そんなこと言ったら俺だってまろの笑顔大好きやわwwwまろは笑っとるだけでええわw」
そう言った彼の顔は、夕日の光に遮られていてよく見えなかった。
そんな会話が、最後の会話になるとは思ってもいなかった。
家に帰ってダラダラとしていれば、手元のスマホが、ピコンッ、と軽快な音を立てた。届いたばかりの彼のメッセージを開けば、写真が一枚。どこかの建物の屋上の写真。それを見た瞬間、嫌な感覚が全身を襲う。居てもたってもいられず、お母さんにちょっと出かけてくる!!なんて言って、家を飛び出した。
写真の場所がどこかなんて分かっていない。ただひたすらに高い建物の連なる場所へ走る。
ガヤガヤと、この時間帯に見合わない賑やかさ。人が群がるそこに向かえば、パトカーと救急車が止まっていた。
あぁ、嫌な予感というのはどうして当たってしまうのだろう。
野次馬をかき分けて進む。赤い水たまりが広がる固いコンクリートに、ヒュッと息が詰まる。大好きな彼が、水たまりの中心で寝ている。どうして、どうして。
「あにき、あにきッ!!」
行く手を阻む警察も、彼を取り囲む救急隊員も、邪魔でしかなかった。
遺書が見つかった。そんな連絡が届いたのは、彼が亡くなってから3日後だった。
飛び降り自殺。警察が話しているのが聞こえたそれは、あまりにも信じられないものだった。先程まで、笑っていたではないか。まろの笑顔が大好きだと、そう言っていたではないか。
震える手で封を切る。
上手くはないけれど、暖かい彼の文字が目に入る。
『まろの笑顔、ほんまに大好きやで。
まろが笑顔なら、俺はなんだってできるって思っとったけど、ちょっとしんどくなってきたわw
まろは、これから先も笑って生きろ。』
たくさんの余白の濡れた跡。
後から聞いた話によれば、俺をいじめていたやつから、脅されていたらしい。あにきを殴らせなければ、俺を殴る、と。
あにきの笑顔が好きなんて。なんて呑気だったんだ、と。今更気がついてももうどうしようもない。
でも、薄々感じていたことはあった。ふとした瞬間の暗い目、抱きつきに行こうとしたときのやんわりとした拒絶。気分じゃないんだろうとでも思って、気にしないようにしていたそれが。彼の苦しんでいたサインだったなんて。
あざだらけの体に、彼の親は泣いていた。なぜ気づけなかったのだろう、と。
彼らに、その傷は俺のせいなんですよ、なんて伝えたらどんな反応をされるのだろうか。許さない、と罵られるかもしれない。無事で良かった、と許してもらえるかもしれない。なんでこんなやつを守ったんだ、とあにきが怒られるのかもしれない。だったら、許してもらえない方が1番いい。
でも、俺は弱いから。
手紙の内容は、誰にも伝えなかった。すぐにでもあにきの元に行きたいと、そう思って死ぬことも考えた。それなのに、『生きろ』に囚われて、死ぬことは逃げだと思って。
この生き地獄に、身を置き続けた。
中学を卒業して、地元で1番頭のいい高校に進学した。
どうやら、性格が終わっている人間はどこにでも居るようで。
逃げないことが償いで、抗わないことが戒めで。日に日にあざの増えていく体に思わず笑みが溢れる。
入学してすぐに打ち解けたほとけは、すぐに勘づいたようで、殴られた日は手当てをしにきてくれるようになった。
これは、ただ、過去に縋る弱い自分を守るための、汚く愚かな護身術だ。