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冬の風が街を抜けるたび、あの日の君の声がふと蘇る。 別れを告げられたのは、ちょうど今日と同じように冷たい夕暮れだった。
「ごめんね。もう一緒にはいられない」
その言葉を聞いた瞬間、世界が音を失ったように感じた。
君の表情は悲しげで、でもどこか覚悟を決めた人のように揺らぎがなかった。
僕は何も言えず、ただ頷くことしかできなかった。
それからの日々は、空っぽだった。
朝起きても、君に送るメッセージを考える癖だけが残っていて、
送る相手がもういないことに気づくたび、胸の奥がじんと痛んだ。
友人に誘われても、笑うことができなかった。
街を歩けば、君と歩いた道ばかりが目に入った。
君の好きだったカフェの前を通るたび、
あの日の君の笑顔が鮮やかに浮かんで、立ち止まってしまった。
だけど、時間は残酷なようでいて、優しくもあった。
季節がひとつ巡る頃、僕はようやく気づいたんだ。
君を失って初めて、僕は「愛する」ということを理解し始めていた。
君がくれた言葉、仕草、沈黙の意味。
君が僕に向けてくれた小さな優しさを、
僕は当たり前だと思っていた。
君が隣にいることが永遠だと、どこかで信じていた。
でも本当は、君はずっと僕に伝えてくれていたんだ。
「愛は、与えられるものじゃなくて、育てるものだよ」と。
別れたあと、僕はようやくその意味を理解した。
君がいなくなって、ようやく僕は自分の未熟さと向き合えた。
君がくれた愛の形を、ようやく大切にできるようになった。
ある日、君の好きだったカフェに久しぶりに入った。
窓際の席に座り、君がよく頼んでいたカフェラテを注文した。
湯気の向こうに、君の横顔が見えた気がした。
「ありがとう」
心の中でそっと呟いた。
君を失ったあとで、僕は愛を知った。
遅すぎる気づきかもしれない。
でも、君がくれたものは、今も僕の中で静かに息をしている。
もう戻れないけれど、後悔だけで生きていくつもりはない。
君が教えてくれた愛を、今度は誰かにちゃんと届けられるように。
君が見ていた未来に、少しでも近づけるように。
そう思えたとき、ようやく僕は前を向けた。
外に出ると、冬の風が頬を撫でた。
冷たいはずなのに、どこか温かかった。