テラーノベル
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息が苦しい。頭がガンガンする。胸の奥が張り裂けそうだ。カーテンの隙間から差す月明かりが、刺
すように痛い。
「目、覚めちゃったな。」
隣で眠るドイツを起こさないよう、そっと布団から抜け出し、寝室の戸を閉めた。
コツ、コツ、とメトロノームのような音が真っ暗な回廊に響き渡る。もう春といえど、まだまだ夜は
肌寒い。体が底冷えする静けさに、呑み込まれそうになる。この世の全てを遠ざけるような暗闇の中
で、先程の夢だけ が脳裏に焼き付いて離れなかった。
「イタリア?」
聞き慣れた声。そっと振り向くとそこには紛れもない、ドイツが立っていた。
「あれ、起こしちゃった?」
「まあな。」
何だか悪いことしちゃったな。長旅の後なんだから、ゆっくり休んでほしかったのに。
「ごめん。」
「別に。」
「…。」
「…えっと、ココアでも淹れようか?」
気まずい沈黙に耐えかねてか、遂にドイツが口を開いた。
***
ふわりとした甘い香りが鼻を掠める。コト、と軽い音を立てて置かれたマグカップからは淡く暖かな
湯気が立ち昇る。ふとその向こうに目をやると、アンティーク時計の如く丹精な顔立ちをしたドイツ
が揺らめいていた。躊躇いがちに呟いたいただきますは、2人きりの空間でやんわりと溶けてしま
う。 まるで子猫がミルクを舐めるかのように目の前のホットココアを口にした。
「…美味しい。」
喉の奥から零れた言葉は、余りにもありきたりなものだった。
「そうか。なら良かった。」
こんなたわいも無い会話が苦しくなるぐらいに懐かしい。以前にもこんなことがあったのではないか
と錯覚しそうになるのも、きっと春になると繰り返すあの夢の所為なのだ。
「今日は、傍にいてくれる?」
不意にそんなことを呟いた。そっとドイツの方に目をやると、彼はやんわりと微笑んだ。その笑顔
が、その優しさが、僕には痛く暖かい。
君とはもう随分と長い付き合いだ。それでも僕達はお互いの事をよく知らない。決して相手に深くは
踏み込まない。きっとこれから先もそうなのだろう。お互いの脆い部分には触れず、かと言って取り
繕うこともしない。そんな浅い関係が、僕はどうにも心地良い。だから、それ以上なんて望まない。
望めるはずもない。
第三話 寂寥
コメント
3件
表現の仕方が幻想的できれいだし、旧国の記憶がちょっと混じるとことか、死んで生き返っても同じ人のこと好きなイタちゃん一途で可愛いなって…!! 初コメ失礼しました~~!!!!!!!!
こんな所で言うことではありませんが403いいね、ありがとうございます。 思った以上の反響に自分でも驚いております。今後も何卒、ぴらにあを宜しくお願い致します。