「次はメアリーいくぞ!」
「それ!」・・・パクッ。「それ!」・・・パクッ。
何をしてるのかというと、キャラメルポップコーンの投げ食いだな。
ダンジョンリビングの海の家において、サラとスイーツ研究会を開いてる時のことだ。
以前に映画館で食べたキャラメルポップコーンの話をしたところ、これにサラが食いついてきた。
どこから集めたのか、すぐに数種類のコーンを出してきたのだ。
それらのコーンから粒をとり乾燥させ、
できた種を油をひいたフライパンで煎ったところ、ポンポン! と弾けるポップ種を発見したというわけだ。
キャラメルポップコーンの作り方についてはクックパッドを見てくれな。
………………
という訳で、みんなでポップコーンを頬張りながら景色を眺めているとダンジョン・デレクより念話が届いた。
温泉ボーリング作業が終了したようである。
俺はインベントリーから桶《おけ》を取り出すと、こんこんと湧き出る源泉の湯を汲み。
――鑑定!
ふむふむ、特段人間や動物に害はなさそうだ。おまけに効能まで表示されているし。
炭酸泉:美肌、リューマチ、神経痛、皮膚病、婦人病、切り傷などに効果があるらしい。
――炭酸泉。
思いもよらぬところで重曹が手に入ったな。(ニッコリ)
湧き出る源泉は湯気の具合からしてかなり熱そうである。
沸騰はしてないにしろ60°Cぐらいはありそうだよなな。冷まして40°Cぐらいにもっていきたいが……。
それなら石樋を組むのがいいかな。(石で作ったU字溝)
それで上手く取りまわしして温度を下げてやればいいだろう。
湯舟は男女で内湯を二つ……。
それに大きな露店風呂もいいよな。
あとは、温泉ジャグジー・うたせ湯・足湯もほしいな。
建物はログハウス風にして天井は湯気が抜けるように。下は板張りにして脱衣場・トイレ・厨房・食堂・休憩室とこんなところか。
(デレク、イメージができたので建物と温泉施設の展開を頼む。場所はそうだなぁ……、先程切り開いた所を平たんにして、川の側に作ってみてくれ)
[はい主。了解した]
すると地核変動が起こったかのように地面がうねり、きれいに整地されていく。
そして、またたく間にログハウスやお風呂が出来あがっていくのだ。
(おおー、こりゃ凄いや!)
なんていうの、あのマトリックス (電脳世界) のように下から上に向かってササササ――とパズルが組み上がっていく感じなのだ。
………………
だいたい俺のイメージどおりになっているようだ。
ここにはもうしばらく居るつもりだから、各部の微調整はおいおいやっていくとして。
おおっとそうだった! もう一つお願いしなくては、
(デレク、タオルやバスタオルなんかも作ってくれるか。材質は綿という繊維なんだが、今からイメージを送るぞ………………、どうだ?)
[はい主。これでいいか?]
俺の手の上にフワッとしたタオルが出てきた。
ほほう、なかなかしっかり出来てるじゃないか。
これぞまさしくタオルだよ。あのぺらんぺらんの布とは訳がちがう。
(素材はこんな感じでいい。大きさを変え………………、こんな感じで3種類10枚ずつ作ってくれ)
[はい主。了解した]
すると何でもないように、ポンッと目の前にタオルが出てきた。
……ダンジョンさん凄すぎです。
後は温泉に入って確かめるだけだな。
まず脱衣場で服を脱ぎ……、おおっと籠がないな。――発注!
そして湯舟に……、おおっと手桶と椅子もないな。――発注!
広い露天風呂の前でかかり湯をして、ではでは。
ふぅ――――――っ、
少しぬる目だったか。 まあ、まだ秋口だしメアリーも居るのでちょうど良かったのかな。
おやっ、シロも大丈夫なのか? けっこうお湯が苦手という犬は多いからなぁ。
まあ、シロはフェンリルだからな。
う~~~ん気持ちいい。温泉って最高!
シロとメアリーは仲よく並んで泳いでいる。
……ふ~ん、犬人族もいぬかきなんだな。
いやいや、シロが教えているからだよな。
まあ、そんなことはどっちだっていいかぁ。楽しそうなんだし。
それからシャンプーは無理だろうが石鹸ぐらいは欲しいところだよなぁ。
「…………」
んっ、出来るんじゃねっ!
この温泉は炭酸泉で重曹がとれるし、植物油もこの前作ったものがあるじゃないか。
確か60°Cぐらいのお湯で湯せんしながら掻き混ぜるんだったよな。
配合を変えながらトライアンドエラー。何回もやればどうにかできるんじゃないか?
(デレク、温泉の湯からこの泡の成分である炭酸だけを取り出すことは可能か?)
[はい主。それは問題ない]
(それなら次に、この油と………………と言うわけだ。頼む)
[はい主。了解した。固まったものが3種できた]
そう言って、いっぺんに出してきた。
って、おい、風呂の中だってばよ。
それを浴槽のふちに並べると、それぞれ手をゴシゴシして使ってみた。
どれも石鹸なので汚れは落ちそうだが、一番泡の出がいいものにしておくか。
それを100個作らせてイベントリーに納めた。
さーて、そろそろあがるかな。
あまり長くはいってメアリーがのぼせると大変だし。
俺たちは浴槽をでて休憩室に移った。
アイスティーで火照った身体を冷やす。シロには氷水を出してあげた。
それで温泉はどうだったかメアリーに尋ねてみるが、
「うん、楽しかったー!」と答えてくる。
うん、そうか。楽しかったかぁ。子供の反応なんてそんなもんだろう。
温泉でサッパリしたところで、落ち着いてダンジョン・デレクと話してみる。
(デレク、今までのダンジョンへの入り具合はどんな感じだったんだ?)
………………
…………
……
なるほど発見はされているのか。
ダンジョンを訪れるものは1年を通しても50名弱。
ふむふむ、亜人種の出入りもあるんだんな。
エルフ・猫人族・狼人族・熊人族など。
その中でも熊人族は頻繁に来てくれるのか。
そうか、集落が近くにあるんだな。
南東側へ3キロ程の距離に120人程が生活を営んでいるらしい。
今一度、俺たちは空に上がってみることにした。
ダンジョンの力が及ぶ範囲を視認するためだ。
最長範囲を500m置きに樹木を10本ずつ消すようにと指示をだす。
こうすることで、境界が点線で区切られているように見えるのだ。
ダンジョンの力が及ぶ範囲は半径10キロということだったが、こうして上空から見てみるとかなりの広範囲だということが分かる。
熊人族の村はあっちの方かな?
しかし、地上は樹海に阻まれており村を確認することはできない。
――とっ、その時である。
「ワンッ!」
俺の隣りにいたシロがいきなりと吠えた。
うん、どした?
シロが向いている方に目をやると、空から何かがくるくると錐もみしながら落ちていく。
何だあれ?
ワイバーンかな?
どうやら、こちらに向かってきていたワイバーンにシロが気付いて魔法で迎撃したようだ。
「シロ、よく気付いたなぁ。えらいぞー」
シロの頭をやさしく撫でる。
(デレク、ワイバーンを狩ったから回収の方を頼むな)
ワイバーンは肉もそこそこ美味しく、革は軽くて丈夫なので需要が高いそうだ。
デレクに頼めば革のなめしもやってくれるだろう。
後はモヒカンのところに持ち込んで、いろいろと装備を作ってもらうことにしよう。
さて、地上に下りたら昼飯にしますかね。ちょうど美味しい肉も手に入ったことだし。
俺は温泉施設の横に竈をこしらえると、毛皮のシートを床に敷きシロとメアリーを座らせる。
そして、先ほど狩ったワイバーンをインベントリーに入れ解体すると、塩をまぶして金網の上で豪快に焼きはじめた。
はいはい、そこの二名。よだれ、よだれ!
シロとメアリーは共にまての姿勢である。
メアリーまでが床に手を突き、四つん這いで竈を覗き込んでいる。
ブンブン振られている二つの尻尾が、シンクロしていてとても可愛い。
しかし、肉を大きく切ってしまったせいで1枚ずつしか焼けないのだ。
片方を待たせるのはかわいそうだよなぁ。
半分に切り分けてそれぞれの皿に置いてあげる。
「食べてよし!」と声をかけると、もの凄い勢いで肉に齧りついている。
おいおい、ちゃんと噛んでるのか? 肉は飲み物じゃないからね~。
肉は大量にある。だからどんどん焼く!
3、4回焼いてあげたのち、俺も頂いてみることにした。
う――――ん! 旨~い。ワイバーンの肉もなかなかじゃないか。
みんなで楽しく食べていく。
そしてお腹がいっぱいになったら寝る。
シロとメアリーは寄り添って眠っている。
俺はひとり紅茶を飲みながら、そんな姿をやさしく眺めていた。
すると、シロの耳がピクピクと動きその場で起きあがった。
小川の川下の方を見ている。
そこまで警戒している風でもないし、誰か来たのかな?
シロをもふりながら川下の方を眺めていると、草をかき分けて二人の子供が顔を出した。
開》けた土地や湯気が立ち昇る建物を見て驚いている。
しばらくポカンと口を開けていた二人だが、その内の一人と目が合った。
俺は座ったまま笑顔で右手を上げる。
すると目が合った子供はしばらく固まっていたが、もう一人を連れてしずしずとこちらに近寄ってきた。
二人の視線の先は俺ではなく、金網で焼かれている肉に釘づけだった。
一度外に出した肉を再びしまうのもどうかと思い、
シロとメアリーが起きたら、また食べるだろうと思い引き続き焼いていたのだ。
「腹が減ってるなら食べていくか?」
「…………」
「…………」
二人は背の高さこそ違うが顔はそっくりだ。たぶん兄弟かなにかだろう。
小さい方は後ろに隠れていて、チラチラとこちらを見ている。
黒い髪の上には丸いお耳が2つ出ていた。
この子たちが熊人族なのだろう。
黙ってはいるが目線はやはり肉に向いている。
仕方がないのでメアリーを起こし、
「肉、食うか?」
そう聞くとコクンと頷いたのでシロとメアリーに肉を切り分けてやった。
するとメアリーはようやく近くにいた子供たちに気づき、不思議そうに見ながら肉を頬張っている。
続いて熊人族の子供たちにも、肉を入れた皿を2つ置いてやる。
「さぁ、いいから食べな!」
そう促すと、ようやく近づいてきて座ってくれた。
「ゆっくり食べな。誰も取らないから」
そうして水の入ったコップも一緒に出してあげる。
――それからはもの凄い勢いだった。
こちらの2名も参戦して、またもや焼肉パーティーへ突入した。
………………
…………
……
そして今……。
肉を食らい尽くした4名は共にへそ天して寝転がると唸り声をあげていた。
「「「うぅ~、うぅ~」」」
――食べ過ぎである。
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