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「むぎゅむ、んぐっむぅぐ?」
「ゆっくりでいーんで、ごっくんしてから話して下さい」
何をしてるかって?助けたの、人を。
話せば長くなるから簡潔に言うと水汲みに井戸へ行ったら井戸の前で泥まみれで倒れてた人が居たから起こして声掛けたらお腹空いたって。
生憎充分な食料を持ってなかった俺は弟にあげる予定だったクッキーを差し出し食わせた
←今ココ。
「水も飲みます?あ、コップ俺ので良ければ」
井戸の横に配置してある収納スペースには使用人達のコップやら、洗濯物などが積まれている。なお個別に物には名前が書いてある為俺のも一目瞭然だ。
軽くコップを濯ぐと行き倒れの男へ差し出した。
男は軽く俺に会釈すると受け取って水を飲み干す。髪はボサボサで何故か泥だらけ。
今気づいたけど泥まみれの洋服は目も当てられない程だが、微かに分かるデザインや服の生地からは元はかなりの高級品と伺えた。
······もしかしてご主人の知り合いのお貴族様とか?俺の頬を冷たーい汗が流れ落ちる。
バレたら最悪クビとか······やばい。
「あ、あ····っと。俺仕事戻らないとなんで、コップ適当に置いといて下さい。あと、本館ならこの道真っ直ぐ行くと庭園の方へ出るので──」
「ねぇ、君」
「ひぇっ?な、なんでしょう?」
「名前、教えて」
若干青ざめながら庭園へと続く道を指差していた俺の袖をつまんで、お貴族様はそう言った。
や、やばい。名前教えたらご主人に報告されてクビになるかも──!!
「す、すんませんした!!俺、あんた···貴方様の事を高貴な方だったなんて知らんくて!言葉づかいとかすみません!俺クビにされると困るんです!弟の入院費が······!」
「違う。大丈夫、落ち着いて」
焦りの余りしどろもどろになりながらの俺にそのお貴族様はそう言った。あまりにも優しすぎるその声にびっくりして固まる俺。
微かに見える形のいい唇が緩やかに弧を描いていた。
「俺が恩人の君の名前を知りたいだけ。···俺がここで倒れてる間、何人かここを通ったのに声をかけてくれたの君だけだった」
「全く、ここの使用人の教育はどうなってるんだろうね。ちゃんと上には伝えておくから安心して。君に飛び火しないように君の名前を聞きたいんだけれど······駄目かな?」
プロポーズの様な片膝をついて両手で俺の手を優しく握っているその姿はおとぎ話の王子様を彷彿させられるが、きゅーんと鳴き声が聞こえそうな声色。クビになるかもとビビったのが馬鹿みたいに思える。
まぁいくら助けようとしてたって、多分この人じゃなかったらホントにクビになってたかもな。この人めっちゃ良い人かも。
ビビってた俺を安心させようと両手で手を握ってくれたんかなって。急なこと過ぎて一瞬惚れるかと思ったよ。
「······夏瀬、季節の夏に浅瀬の瀬。夏に生まれたから」
母は弟を産んでから産後の肥立ちが悪かったのと、元々体が弱かったこともあり体調を崩して弟が1歳の時に死んだ。
それが4年前、雪が降ってた······。
「教えてくれてありがとう。夏瀬」
「···えっと、あんた···じゃなくって。貴方様は?」
「貴方様って。様は要らないよ、俺の名前知らないの?」
「え?」
知らないのかって、多分ご主人様の友だちかなとは思ってたけど。一般庶民が知ってるほど有名な貴族の人なんかな?俺はもっかい首を傾げた。
「これでも?」
そう言って自分の前髪を上げた。
ぺかーっ!と効果音でも入りそうな程の美形。
詳しく言えば、整った眉は太すぎず細すぎず、勿論影を落とす形の良く高い鼻とひび割れなんて1つもない綺麗な形の唇、極めつけに光の加減でキラキラと輝く引き込まれるような純粋な漆黒の瞳とその長い睫毛。
うぬぬ、羨ましい!じゃなくて!!残念だが俺の記憶にこんな美形は居ない。むしろ、一度でもこの顔を見たなら忘れることの方が難しい。