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東の壁上から望んだ遥か先、草原の先から巻き上がる土煙が薄っすらと見え始め、時間を置く事無く真っ直ぐこちらに近付いて来ている事が見て取れ、魔術師達に気負いとは違った緊張感が走る。
静かな闘気と殺気を秘めた覚悟が各人から漏れ出し、ピンッと張り詰めた空気が場を支配する中。
「イヤッホー! 行っけーっ!」
『ブホォーッ♪』
魔術師達の頭の上、高い塀ごと勢い良く飛び越える黒々とした影に合わせる様に、大きくどこか享楽的で場違いな叫びが響き渡った、レイブとペトラの声である。
驚きを浮かべながら天を仰いで見つめる魔術師達の視線をそのままに、あっと言う間に壁を飛び越えたフルダークネスの豚猪は、着地と同時にスピードを落とす事無く自分の数倍はある巨大な魔獣達の脇をすり抜けていった。
その背に仁王立ちして前方を指し示しているレイブの姿も何人もが目撃していた。
唖然といった表情で見送った魔術師の中からズィナミの呆れ果てた声が聞こえる。
「あの馬鹿…… いいかい皆! 我々は当初の予定通りで行くからね! あんなのにペースをかき乱されてたらすぐに死ぬからねっ! 予定通り――――」
ブワサッ!
『アンギャァーッ!』
ズィナミの呼び掛けに魔術師達が返事を返そうとした瞬間、大きな風切り音とほぼ同時に、真紅の竜が闘いの雄たけびを上げながら上空を飛び去って行く。
先程のレイブやペトラと同様に、楽しくて仕方ない、そんな感情を感じさせるには充分過ぎる声色に、ガチガチに緊張していた生徒たちや、まだ経験が浅い魔術師達の何人かは、肩の力が抜けたような吐息を漏らしている。
その様子を見止めたズィナミは薄い微笑を浮かべて仲間達に向き直り言う。
「ちっ、しゃーないねぇアイツ等はぁ…… さあ、アタシ達はアタシ達の出来る事をやろうじゃないか! 全員揃って乗り越えるよっ!」
壁の上では、これまで以上に一糸乱れぬ鬨(とき)の声が響いたのである。
一方、最前線で一列に並んだ闘竜の中央ではエンペラが指揮の声を上げていた。
大小様々な竜達は、揃ってブレスの準備を整え、リーダーであるエンペラの号令を今か今かと待っていたのだが、期待のファイアは思いがけない言葉に置き換えられて響いたのである。
『中止、中止っ! 一旦ブレス取り消しでっ! 皆、消して消してっ!』
すぐ隣で構えていたリンドヴルム種の緑竜が不思議そうな表情を向けて聞き返す。
『中止ですかエンペラ殿? 敵モンスターはすぐあれに迫っておりますぞ、何故に?』
エンペラは無意味な玉を持った前肢の変わりに、赤い舌を伸ばして前方を指し示して答える。
『あれだ、レイブとペトラ、ほれ空にも赤いのが飛んでいるだろうが…… ブレスでは巻き込んでしまうからな、ふぅ~、仕方ない、少し下がって再準備だな、おーい皆下がれぇー! 下がって整列からやり直すぞー!』
『は、はあ……』