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すれ違う朝
目を開けると、見慣れた天井。
けれど――胸の上にかかる重みと、肌を撫でる温もりが、昨夜の出来事を鮮明に思い出させた。
(っ、夢じゃ…なかった?!)
隣には、一条颯真が眠っていた。
シャツのボタンを外したまま、安らかな寝顔を晒している。
その姿を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
「なんで?どうして…」
酒に任せて、嫌いなはずの相手に身を預けてしまった。
冷静になった今では、羞恥と後悔が押し寄せるばかりだった。
(あいつに、遊ばれただけだ。きっとそうだ)
心の中で必死にそう言い聞かせる。
だって、颯真はエリートで、華やかで、誰にでも優しい男だ。
俺みたいな地味で冴えない人間を、本気で想うはずがない。
布団をそっと抜け出し、服を拾い集めて身に着ける。
その音に気づいたのか、背後から声がした。
「…篠原?」
振り返ると、颯真が眠そうに目をこすっていた。
昨夜とは違う、素の表情。
それが余計に、心をざわつかせた。
「もう、帰ってくれ」
絞り出すように言うと、颯真の目が驚きに見開かれた。
「待って。俺は…」
「黙れ!」
思わず怒鳴っていた。
「俺を馬鹿にするな。お前にとっては、昨夜なんてただの遊びだろ」
颯真は唇を噛み、何か言おうとした。
けれど俺はそれを聞きたくなくて、視線を逸らした。
「二度と、俺に近づくな」
そう告げて、俺は部屋を飛び出した。
背後で呼び止める声がした気がしたけれど、振り返ることはできなかった。
胸の奥が、焼けるように痛かった