____プロローグ____
今日も僕は、同じ夢を見る。
誰かに、話しかけられる夢。
何故か、とても心地よい声で心に響く。
誰の声かも分からないけど、優しくて、暖かい声、そんな感じがする。
そして、いつも同じ言葉で話しかけきて、上手く聞き取れない。そんな変な夢。
光の当たる眩いベンチで、少女の声が聞こえる。
『…ねぇ…わ…..ったら ど…する?』
俺は…
朝日が眩しい。鳥の声とか車の音とか、なんかもう全部うざい。
もう、朝か。そう思って重たい体をもぞもぞさせて起こしてみる。
また、 変な夢を見てしまった。
こうやって、毎回僕が何かを聞き返そうとしたところで、目が覚める。なんなんだこの夢。
もう、ここ数週間見てるぞ。 もはや、うざったらしく感じてきてる。
僕の睡眠時間を奪いやがってっ
少し怒りを覚えながらもバイトの準備をして家を出る。 そして働き、バイトが終わったら帰って、家で飯を食って寝る。
最近は、その繰り返しみたいな日々を送ってる。
ねっむい、まじ眠たい…。
バイトが終わって、家に帰って、晩飯をつまみながらワンカップ焼酎をコーラで割って、流し込む。 最高に美味しい…幸せ。
これが僕のルーティンな訳でして。 これぐらいしか楽しみがない自分は、世間様から見たら社会不適合者ってやつなんだと思う。
てか僕もそう思う。
まじでこのままだとやべぇな
「俺もそう思う」
んだとコラッ…、おっとすまない。
この失礼なやつは、僕の同居人で、この家の家主。今の僕は、いわゆる居候ってやつだ。
こいつは僕の小学校からの幼なじみで親友…らしい。 らしいって言うのも───
「てかさ〜?お前いつ就職するの〜? いい加減男養うのもきついんですけど〜? 婚期遅れたらお前のせいだからなぁ」
僕は病人なの!仕方ないの!
そう、僕は病人…、って言うのもちょっと違うんだが、まぁそんな感じ。 1年前に事故にあって、その後遺症で記憶がぶっ飛んでいるんだと。
簡単に言うと記憶喪失だ。
この同居人のボンクラが言うには、元々頭はいいほうじゃなかったらしい。そりゃそうだ。初めて意識を取り戻した瞬間。そう、僕の 人生の始まりの瞬間。
その瞬間に、考えたことは…。
記憶喪失!?なんかかっこよくね!!?
だったから。
それなりのアホだったんだろ。じゃあしゃあないじゃないか。僕が社不になったって順当だ。
でも、そんな今の僕を、実家の人間達はよく思わなかったらしい。 何しても、前の方が良かった。何時になったら戻るの。とか、そんなのばっか。
みんなが求めてる自分は、僕じゃないんだってよ。
「くっそ〜、なんで俺には彼女出来ねぇんだ よ〜笑」
俺には?んじゃ僕は〜?
「あ、いやなんでもない」
そう言い流し、自分で作ったアイオープナーを1口、グビりと飲んで、誤魔化してくる。
なんだコイツ。
何でかは分からんが、コイツは、俺の元カノとか そういう類の事を一切教えてくれない。
でもきっと、今の僕が知ったとこでお相手さんにしても、僕からしても、めんどくさいだけだ。
まぁ、可愛かったらそれもいいけど。
んじゃ、僕これ吸ったらもう寝るわ マジ疲れたし眠いっけさ
「おっけ、んじゃ俺も〜」
ベランダに出て、2人で煙草(タバコ)に火をつけた。
春の爽やかな風に混じって、体に幸せが入って来る。
僕の愛煙はhi-hite。これなくして、健全な社会復帰は無い。このポンコツは、オプションパーポルを吸っている。にわかめ!
こういうことを咄嗟に考える所、以前の自信の人間性が疑われる。
お前まだそんなクソタバコ吸ってんのかよ
「うるせぇヤニカス、俺は味が好きなの」
(はいはい、皆そう言いますよね笑。)
「てか、お前せっかく禁煙したのに〜、過去のお前が 泣くぜこりゃ〜」
信じらんね〜 てかそれ僕にとっては僕じゃな いし 昔のこととか言われてもダルいわぁ
「わりぃ、すまんすまん」
いいけどさぁ
こやつが言うには以前の僕は、 煙草は吸ってたけど、禁煙できてたらしい。
高校生で。
ダメやないかーいと、心の中でツッコミを入れてみる。
でも、僕は煙草は好きだ。煙草は良い、酒の多量摂取と違って、現実逃避しながらも、現実を直視する時間をくれる。
そういう、優しくて残酷なとこが僕には丁度いい。
「お前、それくしゃくしゃだけどラスイチ?」
そだよぉ〜 一日の終わりにラスイチとか縁起いいっしょぉ?
「ん〜、よぅ分からん!」
そっかぁ〜
こいつと喋ってると楽しい。
なんだか落ち着く感じがするって言うか、僕からしたら出会ったばっかなのに、親友って感じがする。
半年も一緒に暮らしてたら、そんなもんなのかなとも思うけどね。
お世話にもなってるし僕なりに感謝している。
口が裂けても言わないけどね。
じゃあもう寝るわ〜
ほろ苦く、柔らかな、hi-hiteの香りに包まれながら、自分の部屋へと向かう。
最近変な夢のせいで全然寝れない、まじしんどい。
「おっけ、おやすみ!音々(ねおん)」
おやすみ樹(いつき)
そう言い残して、部屋に入った。
部屋で横になって、新箱を開けて、もう一本煙草に火をつける。
堪能した後、そこら辺に置いてた水を1口飲んで布団に入った。
なんだか今日は、 すぐ寝れそうな感じするし…久しぶりに…いい夢..見…..れ…る…かも…..。
気付かない内に、僕は入眠した。
あぁ、なんて素晴らしい朝なんだろう。
久しぶりに、夢見ないでの睡眠で、ぐっすりしてやった!ノンレム睡眠だっけ?知らんけど。
とりあえず、最高な気分で飛び起きた!
そう、今日は最高の日。なんだか、素晴らしいことが起きる予感がする。
そう思って、起き上がり、煙草を探すために部屋を見渡してみた。
え、誰?
『おはよう音々くん』
これが、僕と彼女の出会いだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!