注意事項
・この作品はwrwrd様の二次創作です
・軍パロ
・捏造
・本人様とは関係×
なんでも許せる方だけお進みください
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最近頭が痛くなることが増えた。
高頻度で頭痛が起きるので、書類もまともに進められなかった。
たが、気付くと机の上にあったら書類は消えているのだ。
tnに聞くと、”もう出されとるで?”と返される。
どうやら俺の意識がない間、俺が動いているらしい。
ストレスなどで記憶が少しトんでいるのかとも思ったが、どうやらそうではないようだ。
頭痛が起きた後の記憶だけがすっぽりと抜けている。
そして頭痛の後に訪れる”空白”は、日に日に長くなっていた。
気が付けば夕方。また気が付けば真夜中。
机の上には紙が1枚置かれていた。
《少しだけ》
最初は理解ができなかった。
これがどういう意味か。
だが、段々と解るようになった。
これは、俺の”カラダ”のことか、と。
頭痛の後、記憶が無いのは”コイツ”が俺のカラダを使っているから。
ズキッ
「っ゛…」
矢が突き刺さるような痛みが頭の奥に走り、ciは思わず机に手をついた。
視界が歪み、呼吸が一瞬止まる。
耳の奥で、誰かの囁く声がした。
『一瞬借りるだけやて。安心せぇ、w』
ciは震える声で問いかけた。
「…ッお前は、誰や…」
数秒間の沈黙の後、はっきりとした声が頭の中な返ってきた。
『お前の中の…もう1人の”俺“だよ。』
✱
違和感は、ほんの一瞬だけだった。
だかその一瞬は、まるで夢の残滓のように曖昧で、脳が勝手に”気のせいだ”、と処理してしまうほどの小さなものだった。
「書類出しに来たでー!」
ciはいつもの声で言った。
ciは頑張った後、いつもどこかふにゃっとした笑い方をする。
たが今日は妙に落ち着いていて、大人びた雰囲気を纏っていた。
“らしくない”なぁ…
そう思った直後、tnはすぐ自分を否定した。
「おん…ありがとな。助かるわ 」
声に出してしまえば、違和感は霧のように消えていった。
他の幹部達も誰一人ciに違和感を持たない。
むしろ今日のciは普段より調子が良さそうだ”と褒められていた。
ci本人も自然に会話をこなし、冗談を言って笑い、仕事もミス1つなく進めている。
「最近頭痛凄かったみたいやけど今はどうや?」
tnが聞くと、ciは少し目を細めて笑った。
「もう大丈夫やで。あれはただの疲労やったみたいやわ!笑」
その返しは普段のciだった。
なのに、胸の奥では永遠と不快感が続いていた。
✱
その日の夜。
誰もいない屋上に、ciが一人、煙草を吸っていた。
城下町の光が暗闇の中を点々と照らしている。
ciは無表情のまま、煙草の先を手の甲へ押し付けた。
昼間の明るく、柔らかい表情はどこにもなかった。
誰もいない空間で、小さく呟く。
「今日も誰も気付かんかったなぁ…」
先程まで無表情だった顔には、満足げな、ゆるやかな笑みが浮かんでいた。
「これでええんや……やっと、あと少しで”喰える”…。」
彼は空へと視線を向ける。
「tnだけ少し鋭いけど問題はない…」
そして、ゆっくりと口角をさらに上へと上げた。
「まぁ…”気付かれないよう出来とる”からな…笑」
✱
暗闇が落ちてきたと思ったのは一瞬だけだった。
次の瞬間、視界には空白が広がっていた。
ただ、以前とは少し違う。
広くない。
景色が、明らかに”狭まって”いた。
最初は空間全部が俺の意識だったのに、今は俺の立つ足元数歩分しか残っていない。
「…なんで、こんなに……」
足を一歩踏み出すと、視界の端が黒い膜のようなもので阻まれた。
触れようとすると、じわっと熱い感覚だけが返ってくる。
まるで “生き物”みたいに呼吸をしている。
『あかんよ』
耳元でふっと声がした。
空白にはci以外誰もいない。
それなのに、すぐ背中の真後ろで話しかけられたように鮮明だった。
『その先は、もうお前の場所ちゃうんやで』
「黙れッ…!」
怒鳴っても、声は空間からまっすぐ跳ね返るだけ。
届かない。
届く場所に、”アレ”はいない。
『ci。お前もう、うすうす分かっとるやろ。ホンマは最初からココ、お前の場所やなかったって』
心臓が、ひゅっと冷たくなる。
「ちゃうっ、…ここは、俺のッ…!!」
『ちゃうよ』
声はやさしく笑っていた。
自分と同じはずの声色なのに、ひどく薄気味悪い。
『元々は”俺”の場所やから、 ちょっとずつ、ちょっとずつ返してもらっとるだけや』
黒い膜がさらに近づく。
視界が半分まで侵食される。
周囲の空白には、音がない。
でも、その”侵食の速度”だけは分かる。
ciの意識を押し潰すように、じわり、じわり…と迫ってくる。
「やめろ…俺は…俺はまだっ……」
『大丈夫やで。ci。 苦しまんでええようにしといたる。 全部俺がやっといたるから』
その瞬間、足元の床がぐにゃりと沈んだ。
液体でもない、地面でもない、粘つく闇に足を掴まれた感覚が走る。
「やめろ、ッ!!」
立とうとしても、膝まで沈んで抜けない。
腕を伸ばしても、空白の白い空気は”霧”のように指の間をすり抜けるだけ。
『ci』
声がすぐ隣にある。
『お前は眠っとき。 全部終わったら起こしたる。 もし起こす必要あったらな』
その言葉の最後だけが、あまりにも優しく、あまりにも残酷だった。
黒が一気に噴き上がるように、ciの視界を飲み込む。
最後に見えたのは、 自分の手が、黒に呑まれて消えていく光景だけ。
「………」
声は出なかった。
もう喉がどこにあるのかさえ分からない。
何も見えず、何も聞こえない。
次第に自分の考えさえ薄れていく。
ただ1つだけ理解していた。
ああ、終わった。
そして意識は、音もなく沈んだ。
✱
瞼をゆっくり開くと、視界には見たことのある天井があった。
けれど、自分の頭の中は驚くほど静かだった。
濁りも痛みも、抵抗の声も、なにもない。
「…やっと静かになったなぁ」
起き上がって軽く伸びる。
身体の重さはなく、むしろ今までで一番軽い。
すべてが馴染んでいる。
脳も筋肉も、喉も。
表情筋の動かし方でさえ、完璧に”俺のもの”になっていた。
もう”アイツ”は上がってこない。
空白の底で眠ったまま…いや、もう眠ってすらいないのかもしれない。
「ふふっ……あっけなかったなぁ…笑」
喉に自分の声がよく通る。
柔らかく、いつものciの声色そのまんま。
今日も外は明るい。
走り書きの書類を持って部屋を出ると、廊下には日常があった。
「ci、おはよー。顔色良さそうやな」
「頭痛もう大丈夫なん?」
「なんか今日キリッとしてるやん」
「おん、もう全然平気やで!」
ciは笑って返す。
完璧な笑い方を。
tnだけが、ほんの少しだけ目を細めた。
でも、それも一瞬だけ。
「……まぁ、元気ならええわ」
気付かない。
気付けるわけがない。
ここに立っている”ci”は、声も仕草も表情も、 どれひとつとして本物と変わらないのだから。
書類を提出し、冗談を言い、笑う。
すべてが自然で、誰も違和感を抱かない。
むしろ今日のほうが調子がいいと言われる。
休憩室の隅で、ひとつため息をつく。
それは安堵でも、疲れでもない。
ciの癖や、 ciがよくしてた動作。
「くふふっ…笑」
喉を鳴らして笑う。
混ざり物のない、偽りだけの笑み。
外はまぶしいほど平和で、 世界は何ひとつ変わらず回っている。
ciが完全にいなくなったことにも、 その身体の主が入れ替わったことにも
誰一人気付かないまま。
ciは、今日も笑った。
「ほな、仕事すっかぁ…!!」
いつもの日常を、何も知らないふりで生きていく。
ゆっくり、ゆっくりと
本物のciの気配が世界から薄れていくのを楽しむように。
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コメント
2件
天才すぎね 保護者のtn氏も一瞬で気づかないのって相当むずいよね?? 今回も最高でしたぜ👍️👍️