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21話 慣れない優しさ
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某日某時
名取「 私が、ですか?」
依頼人「 この寝たきりの状態では儀式など到底できぬものでして…. 」
依頼人「 報酬はお渡ししますので、どうかお力を。名取の若様 」
名取「 わ、分かりました」
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柊「 どうするのだ?名取 」
名取「 どうもこうも、受ける以外はないだろう 」
柊「 …. 」
名取「 とはいえ、神格の儀式なんて厄介極まりないな 」
名取「 興味本位でも調べといて正解だった 」
柊「 何か手伝えることはあるか?」
名取「 じゃあ、依頼主から儀式用の資料を受け取ってきてくれ 」
名取「 全国統一の儀式だからね、言葉も動作も他と同じはずさ 」
柊「 御意 」
名取「 ….さてと 」
プルルルルル….
名取『 名取です、朝早く申し訳ありません 』
名取『 先週の会合で神ワタリ様の儀式を行ったと聞きまして 』
名取『 えぇ、実は事情があって私も代行を…. 』
名取『 え?何も探るな….?いや、私はただ儀式について 』
名取『 はぁ、分かりました 』
名取『 はい、はい。失礼します 』
名取「 何なんだ、アイツ 」
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某所同刻
的場「 全く、名取は油断も隙もない 」
七瀬「 名取?まさか向こうからの電話ですか?珍しいですね 」
的場「 名取が代行で神ワタリ様の儀式をするそうです 」
七瀬「 おや、じゃあ伊吹と…. 」
的場「 七瀬、その名前は禁句ですよ。誰がどこで聞いているか分からないですから 」
七瀬「 フフ、そうですか 」
七瀬( 全く ….相変わらずの過保護だね )
的場「 まぁ、彼女次第ですがね 」
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現在
私( な、なな何で周一さんが….?)
名取「 ….神ワタリ様?」
案内に従わない私を不審に感じたのか、周一さんはもう一度名を呼ぶ
私「 …. / ペコリ 」
・
・
・
名取「 …. / 箱を開く 」
名取「 神ワタリ様、百年前の血を返上します 」
名取「 そしてどうか、今世紀も我らの生命をお守り下さい 」
私「 お守りします、必ずや 」
私「 さぁ血を差し上げましょう 」
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私( いつもより時間が長く感じた…. )
私( 後は陣に入って戻るだけ )
名取「 では、こちらへ 」
私「 はい 」
陣へ案内をする周一さんに続き、立ち上がろうとしたその時__
私「 あっ 」
名取「 !….危ない ッ 」
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私「 いたぁ…. 」
名取「 大丈夫ですか?」
私「 …. 」
私の視界には見覚えのない着物
倒れた?いや、私の足がもつれて転倒したのだ。
きっと周一さんはそれを受け止めようとした
私「 だ、大丈夫です 」
名取「 あれ、声が….?」
声?
思考が一瞬停止する
声など彼らには男性に聞こえるはずだ。なぜ疑問が生まれる?
私( ….まさか )
私は自分の顔に手を覆い、硬質な感触の無さに絶望する
面がない。
恐らく転んだ反動で外れてしまったのだろう
マズイ、かなりマズイ….!
周一さんに顔を見られていたら今の事態に巻き込んでしまう。
私「 面、面はどこです….!」
名取「 面?あぁ、ちょっと待ってください 」
名取「 ….どうぞ、神ワタリ様 」
私「 顔、見ましたか….?」
周一さんの返答次第で状況が変わる
私は彼の言葉を騒がしい心音と共に待った
名取「 いえ、下を向いていたので見えませんでした 」
私「 そう、ですか 」
私( ….良かった )
名取「 立てますか?お手を 」
私「 はい 」
・
・
・
私「 ….ふぅ 」
私( 早く部屋に戻らないと )
田沼「 伊吹 」
私「!」
田沼「 正直に言ってくれ。どこに行ってたんだ?」
私「 …. 」
田沼「 返事がないから入ってみればどこにも居ないし、何かに巻き込まれてたんじゃないかってサトミおばさんも心配してるんだぞ 」
私「 ….ごめんなさい 」
田沼「 その足元にあるのは何だ?」
私「 ….言えない 」
田沼「 伊吹 」
私「 今は言えない 」
田沼「 ….妖怪絡みか?」
私「!….何で田沼くんが 」
田沼「 見えなくても、関わることができたんだ 」
田沼「 前に言ったろ?夏目ってヤツのお陰で 」
私( ….夏目 )
田沼「 伊吹、俺にできることがあるなら力になりたいんだ 」
田沼「 見えなくても相談くらいっ 」
私「 ないよ 」
私「 力になってくれるなら、今見た事も全部忘れて欲しい 」
田沼「 ….そんなに深刻なのか?」
私「 田沼くんには見えないモノだよ 」
私「 夕食、行こっか 」
私「 サトミおばさんに謝らないとね 」
田沼「 …. 」
私「 本当に、ごめんね 」
田沼「 あぁ 」
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サトミ「 本当に心配したのよ!伊吹ちゃん!」
私「 ….ご、ごめんなさい 」
サトミ「 何か悪いことに巻き込まれたのかと思って、私….本当に 」
私「 すみませんでした、サトミさん 」
サトミ「 取り乱してごめんなさいね。さぁ、ご飯の用意をしましょう 」
私「 手伝います 」
サトミ「 あら、ありがとう 」
・
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・
サトミ「 それじゃ、ごゆっくり」
私「 はい 」
私「 …. 」
田沼「 ….俺、昔から体調崩しやすくてさ 」
田沼「 親父が俺の看病をできない時はよくここで休ませてもらっていたんだ 」
私「 ….ごめん、大事にしてもらった場所に迷惑かけて 」
田沼「 そうだな、俺は少し怒ってる 」
田沼「 勝手にいなくなって俺やサトミおばさんに心配かけたことも、伊吹が一人で抱え込んでいるのもな 」
私「 え?」
田沼「 妖絡みで困ったことがあったらお互いに言うって約束しただろ? 」
田沼「 まさか、忘れてないよな….? 」
私「 ….覚えているけど 」
私( 私と田沼くんの見えている世界は違うから )
田沼「 何かできるかは置いといて、まずは話してみないか?」
田沼「 話さないと、何も分からないままだと思うんだ 」
私「 ….そんなに知りたいの?」
田沼「 興味本位じゃない、伊吹の力になりたい 」
私「 …. 」
美凰『 余計な手間を増やすな 』
私「 ….!」
美凰『 伊吹、見えぬ人間に話す必要など無い 』
美凰『 お前の悲しみも苦しみも分からぬヤツに何が分かるというんだ 』
私『 これは美凰が口を挟んでいい話じゃない 』
美凰『 私はお前よりも人間を見てきた 』
美凰『 己の欲に満ちた人間、悲しみの淵に追いやられた人間、そして口先だけの薄い言葉を綴り、結末に裏切る人間 』
美凰『 なんと酷い仕打ちをするのだろうな 』
私「 ….っ 」
私「 その言葉、貴方にだけは言われたくない….!」
田沼「 伊吹、どうしたんだ….?」
私「 …. 」
私は席を立ち、背後の影を睨む
私「 貴方は妖怪でも、その酷い仕打ちを何人もの人間にしてきた 」
私「 人間の一生は短いって誰よりも知っているくせに、」
私「 どうして….?何故裏切るようなことをっ 」
美凰『 …. 』
私「 信じた人間が悪いと言うなら、私は貴方の優しさを罪だと断言するよ 」
私「 弱い心に優しさが浸れば、誰だってそれが救いになってしまうから 」
私「 人間であっても、妖怪であっても 」
私「 私も、その一人だよ….っ 」
田沼「 もしかして、何かそこにいるのか?」
田沼「 伊吹は妖怪が見えるのか….? 」
美凰『 伊吹、止せ 』
***
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私「 短い間でしたが、お世話になりました 」
サトミ「 もうお別れなんて寂しいわね 」
サトミ「 またいつでも遊びに来てね、伊吹ちゃん 」
私「 はい、勿論です 」
サトミ「 要ちゃんも元気でね 」
田沼「 はい。また来ます 」
・
・
・
私「 送ってくれてありがとう 」
田沼「 次会うのは夏休み明けだな 」
私「 そうだね 」
田沼「 ….伊吹が気にする必要はないからな 」
田沼「 いつか、その時が来るまで待つから 」
私「 ….うん 」
田沼「 それじゃ 」
私「 またね 」
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***
美凰『 伊吹、止せ 』
私「 ….っ 」
言えるわけがない
この行為は妖が見えない “ 普通の人 ” をこちら側に巻き込み、下手をすれば命を落とすことに繋がる。
私が災いを持ち込むようなものだ。
それはきっと静司も許さないだろう
私「 ….卑怯者 / ボソッ 」
田沼「?」
私「 田沼くん、やっぱり言えないや 」
私「 ごめんね 」
田沼「 ….分かった 」
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私「 ….ただいま 」
私はボストンバッグを床に置き、質素なシングルベッドに身を投げる
ギシッと古い音を鳴らす寝具に全体重を預け、一つため息を吐いた
私( 心を強く持たないと….呑まれちゃう )
私( 泣くな、泣くな )
プルルル….
私「 ? 」
私「 はい、羽澄です 」
私「 あ、和田さん ….え?お盆ですか?」
私「 いえ特に予定は考えてなくて ….え?骨折?」
私「 それを先に言ってくださいよ。明日行きますから 」
私「 ….大丈夫です。では 」
私「 お盆、忘れてた 」
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次の日
私( ここかな….?)
私「 和田さん、入りますよ 」
和田「 伊吹、わざわざ悪かったね 」
私「 骨折なんて一体何をしてたんです?」
和田「 ….これを探していたんだ 」
私「 ….失礼します 」
私「!」
和田「 お盆の季節だからか ….昔、一度だけ写真を撮ったことを思い出してね 」
和田「 君に渡しておこうと思って 」
私「 この写真は和田さんのものです。貰えません 」
和田「 私が良いと言っているんだ。貰いなさい 」
私「 …. 」
和田「 本当は一緒に道春さんのところへ行こうと思ったのだが、医師から許可が降りなくてな 」
私「 そんな気にしないでください。私は大丈夫ですから 」
和田「 ….もし君に時間があるなら、行ってきてくれないか?」
私「 え?」
和田「 実はもう飛行機の手配が済んでいるんだ。私と君の分でね 」
和田「 お金の心配はしなくていい。誘いたいなら誰か誘ってもいいし、一人で行ってもいい 」
和田「 また来年なんて、君が言ってはいけないよ 」
私「 …. 」
和田「 場所は紙に書いておく。ちゃんと挨拶してきなさい 」
私「 それも “ 罪滅ぼし ” ですか?」
和田「 ただのお節介さ 」
私「 ….ありがとうございます 」
・
・
・
私「 そろそろ帰りますね 」
和田「 必要な準備はフミさんに渡しておくから身支度だけしておきなさい 」
私「 はい 」
私は和田さんへ頭を下げ、静かに戸を閉める
今度は3泊分の宿泊準備をしなくてはと考えるのと同時に私は先程貰った写真に目を移す。
和田さんと楽しそうに笑っている隣の男性。
__これは父、羽澄道春だろう
父との関わりが少なかった私はこの写真を見るまでハッキリとした顔を思い浮かべられなかった。
16年生きてきて、やっと知れた。
私「 ….確かに顔は整ってる、かも 」
俗に言う父親似であった。
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8月某日
私「 お見送りありがとうございます。フミさん 」
フミ「 私は伊吹様の顔が見れて嬉しい限りですよ。こちらは旦那からお預かりしていました旅費です 」
私「 ….こんなに使いませんよ 」
フミ「 お小遣いも含んでいるそうなので帰ってきてもこれは伊吹様がお使いになるように、と言伝を預かっています 」
私「 ありがとうございます….。助かります 」
フミ「 帰りは先程のロータリーでお待ちしております 」
フミ「 どうぞ、お気をつけて 」
私「 はい、行ってきます 」
フミさんが深くお辞儀をしている姿を見て、私は搭乗口へ急ぐ
チケットを1枚ゲート画面にかざし、指定の席へ座った。
私( そういえば、家に住みついていた妖怪がいたっけ )
私( まだ元気かな….?)
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next*