「なっ!?」
一応、仮の彼女ではあるけれど、一緒にお風呂なんて恥ずかし過ぎる。
「や、やだよっ! 一緒にお風呂だなんて、恥ずかしい!」
「いいじゃん、風呂くらい。今更裸見せたところで、恥ずかしいも何もねぇじゃん……」
「そ、そうかもしれないけど! でも違うの! お風呂は駄目! お先にどーぞ! タオルは洗面台の隣にあるチェストの一番上の段にあるから、好きなの使って!」
一之瀬のデリカシーの無い発言にちょっとムッとしてしまった私は彼に背を向けて先に入るよう言い放つと、ゴソゴソと動き始めたのでシャワーを浴びに行くのかと思いきや……
「怒るなよ、分かった、風呂は一人で入るからさ……もう少しだけ、ここでこうしてたい」
私の方へ身体を寄せてきた一之瀬は、後ろから抱き締めながら、耳元で囁くように言ってきた。
「――なぁ、一つ聞いていい?」
「……何?」
「これまでの男とさ……風呂、一緒に入ったりした?」
「しないよ、そんなの。言ったでしょ? お風呂は恥ずかしいって」
「そっか。ならいい……じゃあさ、俺らが正式に付き合う事になったら、一緒に入ってくれる?」
「だ、だからそれは恥ずかしいんだって……」
「――けどさ、風呂は他の男と入ってない事だろ? だから、それは俺が初めてになりたい。陽葵、結構色んな男と付き合ってきてるから俺が初めてになれる事……あんましねぇんだもん……」
「…………」
最後の方は拗ねた感じで言葉にしていて、それが何だか少し可愛く思えてくる。
「……分かった、いいよ」
「マジで!?」
「……うん」
正直、お風呂を一緒に入るのは抵抗があるけれど、でも、ハッキリと答えを出さない今の状況で一之瀬を不安にさせているのは事実な訳で、何でもかんでも『嫌だ』と答えるのは違うかなという思いと、一之瀬の希望を叶えてあげられるならという思いからオッケーを出すと、予想以上に喜んでくれたので恥ずかしいけど良かったなと思った。
私はあまり『初めて』には拘らないタイプなんだけど、一之瀬は結構拘るタイプのようで、そういうところも何だか可愛いと感じる辺り、私は相当一之瀬の事を好きなんだろう。
「陽葵、大好き」
「私も、好き……」
こんな風に『好き』と伝え合うと、当然それだけでは終わらないのは分かってた。
もういい加減シャワーを浴びて寝ないと明日に響くのは分かっているはずなのに、身体も心も、互いを求めてしまう。
「……っん……」
「……、陽葵、……もう一度、しよ?」
「……でも……」
「駄目? 俺、今はまだ陽葵を離したくねぇんだけど……」
そんな事を言われてしまうと、断れない。
本当は私だって、まだ一之瀬から離れたくないから。
「……もう一度だけね? 今度は、優しくしてね?」
「陽葵、ありがとう。勿論、優しくするから――」
「――ッ」
結局、欲求に負けた私たちは再び互いの唇を重ね合わせると、そこからスイッチが入ってしまった一之瀬によって彼のペースに飲まれていき――翌朝当然起きるのが遅くなってしまった私たちは遅刻ギリギリで出社をする事になるのだった。
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