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(何だか、暑い……頭がふわふわする……)
少しの暑さからふと目を覚ました円香は重い瞼をゆっくり開く。
「……ん……」
若干の頭痛を覚えつつ、完全に目が開いて彼女の目に映ったのは見知らぬ天井だった。
「え!?」
その事に驚いた円香が勢い良く身体を起こすと、更に驚きの光景を目にする事となる。
「な、何で!?」
それは、下着だけを纏った自身の姿だ。
「な、何で……服、着てないの?」
全く身に覚えのないこの状況に半ばパニックになるも、何とかして思い出そうとする。
(えっと、確か……合コンに参加して……間違って誰かのお酒を飲んじゃって……)
徐々に蘇る記憶。
(それから……外で、伏見さんに、声を掛けられて……)
朧気だけど、自分が眠る直前の状況を思い出した円香の表情は一気に青ざめていく。
「私、伏見さんに寄りかかって、そのまま寝たの!? そ、それじゃあまさか、伏見さんに、お、お持ち帰りされたって事?」
しかし、伊織に寄りかかって吐いてしまったという記憶だけはスッポリ抜け落ちているようで、眠ってしまった自分を彼が連れ帰ったと勘違いをしている円香。
(ふ、服……無い……っていうか、伏見さんは?)
辺りを見渡すも服が見つからず、伊織の姿も見当たらない事に不安を感じた円香は椅子の背もたれに掛かっていた伊織の物であろうグレーのニットカーディガンを拝借して身に纏い、寝室らしき部屋のドアノブに手を掛けてゆっくりドアを開くと、
「いや、笑い事じゃねぇから。本当に参ったよ」
リビングらしき部屋のソファーに腰掛け、誰かと電話で話している伊織の姿がそこにあった。
(伏見さん、居た。誰かと電話してるみたい……)
仕方がないので少し開いたドアの隙間からその様子を覗き見する円香。
すると、何やら不穏な会話が聞こえてくる。
「つーか、本当にツイてねぇよ。折角ターゲットに近付けたと思ったのによ、これじゃ振り出しだぜ」
(ターゲットに、近付けた?)
「ったく、もう一度奴の行動を洗い直さなきゃならねぇし、面倒だ。で、そっちはどうなんだよ? 奴のスマホとかパソコンから、何か情報掴めたのか?」
(え? 情報を、掴む? どうやって?)
こっそり聞き耳を立てる円香は会話の内容から聞いてはいけない話を聞いているのではと不安になるも気になってしまい、その場から動けずに居た。
一方の伊織はというと、実は円香が目を覚ました段階から既に気付いているにも関わらず電話での会話を止めないのは、ある理由からだった。
――それは今から約二時間程前の事。
『マジかよ、そりゃ笑えるな』
「いや、笑い事じゃねーよ。本当最悪だよ」
『で、そのゲロ吐いた女は何者なんだよ? まさか俺らの行動に気付いた相手の?』
「いや、それはねーと思う。まぁでも、俺も最初は警戒したんだよ、合コン来てんのに全く馴染まないとことかさ」
『で、実際は?』
「ありゃただ慣れてねぇだけだな。演技でも無さそうだったし」
『へぇ。じゃあ合コン初心者の子が間違って酒飲んで潰れて、お前にゲロ吐いって訳だ』
「ああ、そうなるな。ただ、アイツは急遽参加する事になったって言ってたから一応身辺調査はした方がいいかと思う。ああいう素人くせぇ奴がスパイって事も全く無くはないからな」
『ああ、確かにな。ま、相手女なんだし、女騙すの得意じゃん、伊織なら』
「人聞き悪い言い方すんなよ。俺はな、本来女なんて好かねぇんだよ」
『その割には、女の扱い上手いじゃん』
「演技だよ、演技」
『はは、そうだったな。ま、引き続き頼むよ。こっちはこっちで進めておくからさ』
「ああ、それじゃ、またな」
という雷斗との会話が行われていたのだが、実はこれは全て円香が起きる前の事。
そして、円香が起きた段階から行われていた電話での会話は全て伊織一人による芝居で、何故そのような芝居を続けているかというと、円香が何者なのか、電話での怪しげな会話を聞いてどういう反応をするか見る為のものだった。