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日が落ちてきて紅色の空が顔を見せひぐらしが鳴き出した夏のある日。その日はとても記憶に残っている。
その日私は友人と公園で遊んでおり、日が暮れ門限が近付いていたため自宅に帰ると友人に話して帰路に着く。いつも通りの道を歩いているが、どうにも気持ちがザワついたのを覚えてる。『嫌な予感』という言葉を使うにはきっとあの場面が適していたほど…。
自宅が見えてきた頃一人の男が家から慌てて出て行く姿が見えた。距離は離れていて顔までは確認できなかったが容姿はしっかり覚えている。黒い帽子を深く被り、紺色のシャツと在り来りなジーンズ。走り去る姿から運動靴を履いており、比較的フォームも崩れてなく大体年齢は20代から30手前くらいだ。そんな男がある家から慌てて出て行った。変だなとは思いつつも歩いていくと慌てていた男がどの家から出て行ったのかが判明した。
私の家から出て行っていたのだ。それが分かった途端私の感じた嫌な予感は的中したのを察し、すぐに走り出す。やったであろう犯人よりも家族の安否を確認するのが賢明だと思ったからだ。家に着き扉を開ける…。入ってすぐ左がリビングになっておりそこには赤い液体の上に寝転がる両親の姿。部屋は鉄の匂いが充満しており吐き気が込み上げてくるがそれ以上に目の前に倒れ込む両親の安否が大事だ。近くに行き体を揺さぶり声をかける。しかし返ってくる言葉は唸り声、『うぅ…』と苦しむその声だけが返る。
その後救急車や警察を呼び事態を公に公表するが、何故かこの事件はものの二週間程度でメディアは手を引いた。警察も犯人捜索には本腰を入れることは無かった。両親を失った私は親戚の家にと引き取られたが、そこでの扱いも散々なもので、『お荷物』とさえ言われるほどで恵まれた環境とは言えなかった。
そんな居心地の悪い親戚の家に居たくなくて、早いうちにバイトを始め最低限暮らせるほどの資金を集めて高校卒業後早々に家を出て、一人暮らしを始める。それからの収入はバイトもそうだが、あの事件によって開花した『霊感』なるものを使い小銭稼ぎもしていた。イタコという職があるのだが、これは霊を自身の体に宿して依頼主のご家族等に霊自らが残したい言葉を伝えるというもので、恐らく心霊番組で取り扱われたことがあるため知らない人はそんなに多くは無いと思うが、私はそれに近しい事をやってきた。
というのもイタコさんは自身の体に宿す、という手法だが私は俗に言う地縛霊なんかと対話しその言葉を伝える。分かりやすく言うならば『死者と生者の通訳』と言ったところ。霊を視認でき話せるという特権を活かした商売をやっていて、実際成果もちゃんと出ているのだ。
今の私はその霊と対話出来る特権を活かした探偵という名の何でも屋みたいな事をして、生活費を稼いでいたりする。もちろんこれを始めた理由はいつの日か私の両親を殺した犯人を見つけて捕まえるためだ。生者だけでなく死者からも情報を取れる私には警察なんかより情報収集能力に長けてる。まぁ、一長一短ではあるが……。
そんな個人経営をしてる私の事務所兼自宅の『さくら霊界探偵事務所』は私の他に協力者として一人外部の人間だが信頼してる人がいる。
ピピピピッ……ピピピピッ………
数世代前の私のスマホが鳴る。電話相手は『神崎』さんだ。
「もしもし、さくらです。」
「あっ!さくらさんお疲れ様です。今お時間大丈夫ですか?」
「はい大丈夫ですよ。もしかして調査の協力の話ですか?」
「話が早くて助かります!詳しい話は会ってお話しますので、いつものレストランでいいですかね?」
「はい。時間はいつ頃?」
「出来ればすぐお会いしたいんですが…」
「わかりました。すぐ準備して向かいますね。」
「ありがとうございます。では、先に向かってお待ちしてます。」
そういい彼は電話を切る。
今話していた彼こそが外部の唯一の協力者『神崎誠人』その人。私がとある依頼を受けた際警察にも相談していて、その事件の担当者が神崎さんだった。歴としては3・4年ほどと話していたが、一緒にいた先輩らしき人物からは期待の新人とまで言われてた優秀な人で、実際仕事も早く私が出る幕は最後の足りない情報を補填する程度だった。そんな彼だがなんとなく私がその依頼請け負った理由を聞いたところ、彼も私が経験したあの事件『桜門の殺人事件』について不満を持ってる人物の一人だったのだ。その話を聞いた時私はこの人になら話してもいいと思い、その事件の被害者の一人であると告白し犯人逮捕に協力させて欲しいと私の方からお願いした。神崎さんはその言葉聞いて少し驚いたあと、すぐにこちらからもお願いしたい、と話してくれて今に至る。
何故神崎さんが『桜門の殺人事件』を追ってるかはまだ聞けてはいないが、いずれこの事件の真相に近づく頃には聞けるといいな、と思いながら毎日過ごしている。
支度を整え事務所に鍵をし普段使うレストランにと向かう。外は嫌に暑く少し歩いただけで額から汗が垂れる。ハンカチで汗を拭いながらレストランに向かうその道中、ふと視界端に映った路地裏に目をやると一人の男がこちらを見ていた。その付近を歩く人達はその男に気がついていないところを見ると彼は『人ならざるもの』なんだと直ぐに理解し、私は視界を彼から外す。
『視える』ようになってから気がついた事だが、霊とは意外と日常に潜んでいるものだ。その大半が現世に何かしらの悔いがあり縛られてるものだったり、自身が死んだことに気が付かずあたかも『生者』のような行動を取り続ける死者もいる。が、共通して言えることは基本彼らが視えたとしても関わらないことが大事だ。特に現世に縛られてるやつは自分が死者であることを理解しており、故に人に見られないから視える人を探してる。捕まれば厄介事に巻き込まれるばかりだ。だから私は視えたとしても基本はシカトする。
それから数分後目的のレストランに着いて、神崎さんに連絡すると先に着いていると返答があり、そのまま店内に入る。するとこちらに気付いた一人の男が立ち上がり手招きをしてる。彼が神崎さんだ。そこまで歩き彼な対面になるよう席に座る。
「いやぁ、悪いね暑い中呼んじゃって。」
「いえ、私が生活できるのも神崎さんがお仕事を持ってきてくださるから生きれてるんですよ。」
「実際、さくらさんのその能力は僕としてはこれ以上ないほど調査の武器になるんで」
「私もそれのお陰で小銭稼ぎ出来てるからね。それで?今日も呼んだってことはお仕事なんですよね?」
「はい。ですが、今回の件はいつもと少し毛色が違います。」
「と、いうと?」
「…依頼主は『桜門の殺人事件』の被害者の一人です。」
「!!」
「僕達にとってもこの話は逃すことはできません。」
「具体的な内容は?」
「最終的には犯人を見つけて欲しいと言う話ですが、あらかじめそれは難しいとお話してあります。それとは別で、依頼主の息子さんの『最期』を知りたいそうで、僕にお話がありました。」
「息子さんの最期を知りたい?殺人事件ならその子は亡くなってるのは確定じゃ?」
「というのも、その方の息子さんの遺体は見つかってないんです。行方不明扱いなんですが昔この行方不明の件を調査していた資料を見つけまして、その内容が桜門の殺人事件と関連性が高く、また息子さんの部屋から見つかった日誌にもそれとない内容が散見されたと。 」
「なるほど……。」
「ご家族の方はみな息子さんがどっかに行くような子ではないと主張しており、行方不明で片付けていいものじゃないと…。
実際僕もその件を少し調べて桜門の殺人事件に関連性があったのを確認してます。だから依頼主さんは『桜門の殺人事件』の被害者の一人と言えます。」
「分かったわ。とりあえずその依頼は私も介入するとして、一度そのご家族と私自身もお話したい。」
「そういうと思いまして、既に許可も取ってます。あちらの日程に合わせるようになってまして、明日の午後三時頃にご自宅に向かうと話が着いてます。それより30分ほど前に僕が事務所前に車を出しますので、それで共に行きましょう。」
「ありがとうございます。」
「いえ、とんでもないです。同じ事件を追う数少ない仲間ですし、僕にできることがあれば何でもしますよ。」
「えぇ。頼りにしてます神崎さん。」
「では、今日はこれで…。と、あとこれも渡しておきます。」
そういい大きめの茶封筒を渡された。
「これは?」
「行方不明事件の資料と、僕が何とか見つけた桜門の殺人事件の資料のコピーです。僕なりに気になるところは資料とは別でワードでメモを残してます。時間あればそちらにも目を通しておいてください。」
「何から何でありがとうございます本当に」
そうしてその日は解散となり、私も帰路に着く。帰る際あの気になった路地裏の前を通ることになった。しかし、来る時に感じた霊特有の寒気のようなものは感じず、私と杞憂だったのでは、と思いそのまま事務所に帰宅する。
事務所の前に立ち鍵を開けて部屋に入る。そして電気をつけていつも座る席にと目を向けると行きに見たあの男が椅子に座っていた。
「!?
どうやって私の部屋に侵入した……。」
「………へぇ?ビビるでもなく通報でもなく、まさか声を掛けてくるなんて意外な行動だ」
「………やっぱり幽霊特有の透過でここに来たってことね。」
「なるほど。俺が死人ってのも気づいてるんだ嬢ちゃん。 」
「目的はなに?」
「あんた俺ら幽霊が視える人間でしかも、それを使って商売してんだろ?なら、俺からも依頼出させてもらおっかなって」
「はぁ?」
「俺さ、自分が何者か知らねぇんだよ。名前も何もかも。でも、覚えてんのは確実に俺は人を殺めた事のある殺人者ってやつなの。」
「そんな物騒な霊の依頼を受けろと?」
「俺自身こんな世界に囚われるのは嫌なんだけど、俺が忘れてる何かのせいで現世に縛られるならそれ取っ払いたくてさ。」
「残念だけど他を当たって。私は忙しい。」
「桜門の殺人事件を追ってるからか?それ調査に俺協力するよ?」
「あんたの助けなんて必要ない。面識も何も無い上に元殺人者なんて横にいて欲しくもないわ。」
「俺を起用する利点はある。幽体の俺なら、お前が行き来することの出来ない箇所に足を踏み入れることが可能。それだけでなく、物を探すことや読むことも出来るぜ?こうやってさ」
彼が指さした方向にある本が一つひとりでに動きだし、それは本棚から引き抜かれ彼の手元までふわふわと飛んでいく。そして、本が開かれてページがどんどんめくれていく。
「この本の112ページ。『そして偽と真は裏返る』て読めちゃうぜ?」
そのページを開きならがさくらの元まで飛ばす。彼の話した通りとある小説の一文丸々を彼は読めていた。
「どうだ?悪くない能力だろ?それに、俺も幽霊だから同じ霊と話せる。効率が良くないか?」
「………。本当に目的は自分を知りたいだけなの?」
「あぁ本当さ。俺が殺人を犯した理由を知りたいし、この世に留まる理由を知りたいだけだ。
人を殺すという選択を取ったのには必ずそれ相応の理由が眠ってるはず。おいそれと簡単に生命を痛めつけられるほど人は腐っちゃいねぇよ。ま、人殺してるやつの言葉に信憑性もクソもねぇがな!」
「……分かった。ただし、先に言っておく。あんたの事を調べるにしても優先度は低いと思って。私は私のやりたいことをやる。その為にアンタを利用させてもらうから。」
「いいぜそれで。俺もアンタを利用して自分を知ろうとしてるんだ。お互い様よ」
このひとつの事件と彼との出会いから運命の針は時を刻み始めた………。