無断で部屋に上がり込んだ男の幽霊が座っている椅子まで近づき、その椅子からどかせて神崎さんから受け取った資料を広げる。
軽くひとつひとつ目を通しながら元殺人者の幽霊に問いかける。
「そう言えばあんた名前は?」
「さぁ?名前すらも俺思い出せないんだよね」
「つっかえない幽霊ね」
「生前の自分覚えてる幽霊の方が珍しいんじゃねぇか?」
「逆よ逆。覚えてない方が珍しい。」
「ほぉ?」
「記憶を失ってるってことは、恐らく生前何かしら大きなショックがあり、それが死後も引きずってることが多いの。」
「て事は、俺は生前何かしらでショックを抱えて記憶を失ったと?」
「かもしれないし、あとは自己防衛の為に記憶にロックをかけてることもある。ま、確定はできないからあくまで予想の範囲はすぎないってこと。」
「なるほどなぁ…。」
「とりあえずあんた名前ないし適当に名前付けるね。死人だからそのままシニーで。」
「そんなペットに名前つけるみたいなテンションで名付けするんだ…。てか、元殺人者に対してキャッチーすぎるだろ名前。」
「あんたの為に脳のリソース割きたくないから。」
「おい…。」
「………。ふむ、確かに桜門の殺人事件と関連性は見られるな。」
「よく俺と話しながら整理出来たな。」
「ほとんどリソース割いてないからね」
「おい。」
「…丁度いいや。あんた本当に役立つか見たいからテストするわ 」
「はぁ?」
「とりあえずアンタもこの資料見て感想聞かせて。」
そう言い、こちらに来るよう手招きし資料を見せる。
「これみて俺も感想言えばいいんだな?」
「そ。役立つって話したならそれなりの何かを見たいわけ。」
「はいはい…。んじゃ軽く目を通すからその間お前さんは何してんの?」
「とりあえず私が見て気になったことを調べる。読み終えたら声掛けて?隣のデスクでパソコンいじってるから」
「あいあい」
その後さくらが見ていた資料を一から確認していく。
・調査ファイル01『浅川町の行方不明事件』
20○○年7月10日浅川町にて子供が家に帰らないと通報。当時8歳の『芥門 翔太』さんは、友人と遊びに行くと話し家を出て、それから門限の6時を過ぎても帰らず不安になった家族は、彼が話した遊び場まで様子を見に行くも人影はなし。また、その日遊んでいた翔太さんの友人にも話を聞くが、『6時になりそうだからもう帰るね!』と言い、それぞれ帰路に着いたとのこと。
当時の彼の様子に変化がないかを聞いたが、これといって不自然な態度はとっていなかったとの事。いつも通り明るく、友人同士のちょっとしたバカしあいなんかもしており、友人関係にヒビがあった訳でもない。また翔太さん自身が家族と上手くいっていない訳でもないのは確かだ。現に警察に調査依頼を申し出ており、その時の声と表情は嘘偽りはなかった。
その後翔太さんの家族やその友人と家族にも事情聴取をし、彼の行動範囲を絞ってみるも行先は近所の『公園』であったり『近くのコンビニ』や、少し離れた『地区センター』と『小さなゲームセンター』そして、町の名前になってる『浅川』という流れが穏やかで、底も浅い川くらいということが判明した。
調べた箇所それぞれに向かい、怪しいそうなところを探すも成果は出てこず、聞き込みをしても得られたものはなかった。これ以上の調査は『上の人間』から無駄と判断され、調査を中止。ご家族には『家出をしたのでしょう』という結論に行き着いたと説明。
ー神崎のメモー
・彼が訪れそうな場所の人間に聞き込みして成果ゼロは有り得るのか?
・また、当時行方不明となった日の行動を聞き出しその場に行く判断は無かったのか?
・追加資料(神崎調べ)
あまりにもおざなりな調査ファイルな為個人的に調べあげたところ、上記二つの疑問点は解消されなかったが、別の気になるものを発見した。それが『翔太くんの日誌』だ。どうやら、この調査に関与していた1人が家族とコンタクトを取り日誌の存在を嗅ぎ付けたらしい。が、日誌自体は預かることが出来ず、その場で見せてもらい彼が気になる部分のみを後日書き出したものが見つかった。彼が気にしてる部分を一つの資料として入れておく。
『6月7日はれ?
今日は雨がふってた。朝ははれてたのに、とっても気分が落ち込む。でも、帰りにカサが無い僕にカサをくれたおじさんにはかんしゃしてる。今度このカサを返そう』
『6月16日あめ
朝から雨がふってた。学校行く前から気分が下がったけど、みんなに会えたらどうでも良くなった!明日は苦手な算数のテスト。帰ってまたおべんきょうしないと』
『6月25日はれ
ちょっと前におじさんからかりたこのカサいつ返そう?あの日以来おじさん見なくなっちゃったから、かえそうにもかえせない。カサはかりものだし、お母さんには言えてない。いつかこっそりかえさないとなぁ』
『7月2日はれ
久しぶりのはれ!さいきんはくもりとかが多かったから外で思いっきり遊べた!それに、あのおじさん今日公園でたまたま会えたから、明日カサを返すんだ』
『7月9日はれ
夏休み入る前に、今日はきもだめし?ていうのをやって来た!夜は危ないからお昼から公園の暗い場所にみんなで行ってみた!変なことはなかったけど、そこから出た時あのおじさんに怖い顔で怒られた。もうあんなことはしないって心に決めた。』
日誌からは『おじさん』という人物がところどころ見られた。このおじさんという人物が行方不明事件に関係してる可能性は高そうだ。が、情報が全てゼロに等しい。あくまで日誌には『おじさん』としか書いてないため特徴らしい何かは記されてない。とりあえず何も無いよりかはマシということで、この資料も残しておく。
「読み終えたが、これでようやく行方不明事件の事を知ったわけで、この後桜門の殺人事件ってやつも読まないとか…」
「まだ資料全部読めてないの?おっそいわね」
「活字を読むのは苦手だったみたいだ俺は」
「…そう。ならとっとともう一つの資料も確認する事ね」
「手厳しい嬢ちゃんだな。」
「あんまり言いたくは無いけど、私はろくな人生送ってないからアンタが生前何歳だろうとこの姿勢は崩さないわよ?」
「そのくらいが丁度いいわ。変に女の部分が見える方が接しにくいからな。」
「ふん…。」
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