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「よしっ。成瀬さんが帰ってくるまでに掃除を終わらせちゃいましょう」
夏帆は腕まくりをして気合を入れた。掃除機、ワイパー、雑巾をかかえた夏帆は成瀬の部屋の前に立っていた。思い返せば、夏帆が父親以外の部屋に入るのはこれが初めてだ。男性ならではのベッドやパジャマが抜け殻になっているというのは想定内だが、男性雑誌やDVD、妖しいグッツでもあったらどうしようかと考えてしまっていた。
(私は掃除をするだけだから何を見ても知らないふりをするわ!)
謎の宣言をしながら夏帆はドアノブに手をかけ一気に入室した。そして目に飛び込んできた光景に目を見開いた。
「え……すごい……」
成瀬の部屋を見渡した夏帆は呆然と立ち尽くしてしまった。それはなぜって、
1、ベッドの足元には四隅がズレなく折りたたまれた掛物。
2、店の陳列棚に置かれている服のようにたたまれた寝巻。
3、拾うゴミが落ちてない。
4、折り畳みのデスクの上には化粧水、歯ブラシセット、小物たちが綺麗に一列に並んでいる。
5、ハンガーラックに掛けられた官服や作業着には皺ひとつない。
だからだ。
成瀬には出勤前に声をかけたので部屋の掃除をする時間はなかった。ということはこの状態が成瀬の平常運転ということだ。布団の掛物なんて旅館級のたたみ方だ。整理整頓好きの夏帆もさすがに普段からこの状態は保てない。
テーブルの横には持ち込んだアイロンや、その横には手で当ててアイロンができるパットまで用意されていた。成瀬がスマートに見えるのはいつも丁寧に整えているからだとわかった。
「私の出番……ないじゃないの」
夏帆は掃除機を抱えたまま動けなかった。
(イケメンで性格もよくて身の回りのことも自分で出来て。成瀬さん、パーフェクトヒューマン?)