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(散歩でもするか)
夜中にも関わらず不死川は草履に履き替え、家を出る。
暗い夜道を数分歩き、何も考えずに辿り着いたのは墓地だった。
「國近…」
亡くなった友の墓の前に立ち、呼びかける。
勿論、返事はない。
幽霊も神も信じてはいないが、ココに来れば少しは自分を見つめ直せる気がした。
「冨岡のバカが俺と居たいって言うんだ。俺の気も知らねェで、呑気な野郎だろ。アイツは喋るようになっても腹立つことばっかで馬が合わねェ」
言葉とは裏腹に不死川は眉を下げ笑う。
どんなに憎もうとしても、この数ヶ月の濃い思い出がそうはさせてくれない。
口に出せば出す程、もう自分が鬼殺隊の隊士ではなく、1人の青年として生きていることに気付かされる。
それでもまだ心の奥底で小さな自分が叫んでいるのを感じた。
(國近も玄弥も思い出になっていくのが怖い)
何もないところを1人で決めて歩かなければいけない恐怖にずっと囚われている。
國近の言葉を反復するだけじゃ、きっとこれからはやっていけない。
前へ進まなければいけないんだ。
「おはよう、不死川」
「おはようさん」
今日で会うのは最後と言われ、気が気ではない冨岡はいつもより早くに居間へ来る。
だが、散歩を終え帰ってきた不死川は昨日とは違い、スッキリとした顔立ちをしていた。
「今日どこの本屋行くんだァ?せっかく出掛けんだから遠出しねェ?昼飯は鰻なァ」
「鰻か、いい鰻屋を鱗滝さんから聞いたことがある。そこの近くの本屋へ行こう」
冨岡は気持ちを切り替える。
こうして関わり合えるのが今日で最後でも、そうじゃなくても不死川には楽しんで欲しかった。
「胡蝶の報告書みてぇだなァ」
「医学の専門用語はない分、胡蝶の報告書よりかは分かりやすいのではないだろうか」
お目当ての本を買う前に、2人は本屋を1周する。
話の最中気まずくなることはなく、思いのほかいつも通りだ。
「俺でも読めるやつあんのォ?」
「平仮名だけのものもあるが…気になる本があれば買うぞ」
気になる本。
今まで触れてこなかったものばかりで何から手をつけていいか分からない。
手紙すら書けない不死川には気になる本を見つけるのも一苦労した。
(手紙か)
そういえば竈門家からよく手紙を貰っている。
所々読めないが、理解は出来る文だっだ。
鬼殺隊の頃の玄弥との思い出や、苦労話、感謝に謝罪、丁寧な字でたくさん書いてくれている。
返事が出来ない代わりにこっそりおはぎを持って行ったり、冨岡におつかいとして頼んでいたが、自分で書いてみるのも手かもしれない。
「どうした不死川」
「……文字の練習がしてェ」
「文字ならこの本がいいだろう。自然に文章力も身につくはずだ」
冨岡が不死川に見せた本は少し難しそうな本である。
「もっと簡単なのはねェのかァ?」
「難しそうに見えてしまうが目を通せば案外知っている文字や言葉がある。これで慣らすのはどうだろうか」
「じゃあ、これでェ」
共に欲しい本が手に入った後、鰻屋へ立ち寄り昼飯を済ませ、街をぶらつく。
会話は今までにないほど和やかで、時間が過ぎるのはあっという間だ。
気づけば夕日は沈みかけている。
歩幅を合わせ歩いていた2人だが、ピタリと冨岡が立ち止まった。
もうすぐで不死川との別れがくる。
昨晩何度も考え、頭を冷やしたが受け止められない。
不死川と会えなくなるのは絶対に嫌だ。
駄々を捏ねた子供のように何度もその言葉が頭の中で反復する。
(何か…何か伝えなければ)
じっと待つ不死川と目を合わせ、口を開いた。
「俺はお前が居なくても何でもできる」
「ハア?!テメェこの期に及んで喧嘩売ってんのかァ?!」
「違う。そうでは無い」
伝え方を間違え、再び考える。
(不死川はどう言えば考え直してくれるだろうか。……隠してきたことを正直に言えばいいのか)
「左手で飯を食べるのも洗濯物を畳むのも慣れた。毎日ボタン付きの服を着ているが、ボタンが無く簡単に着れるものもある。飯の作り方も炭治郎に少し教えてもらった」
今まで不死川にしてもらってきていたことは全て、自分一人で出来たことだ。
「だから一人でも大丈夫だってかァ」
「最後まで聞け。何故俺が一人でしないか分かるか」