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#ラブコメ
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#ミステリー
創加
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空がオレンジ色に染まりはじめた黄昏時。 小学生の颯斗は、一人で土手を歩いていた。
風が草を優しく揺らし、川のせせらぎが静かに耳に届く。
と、その時だった。
少し先の河川敷で、真っ黒な何かが動いているのが見えた。
そいつは人間と似たようなシルエットをしていたが、頭には二本の角が、そして両肩からは翼が生えていた。
——悪魔だ。
颯斗は少しだけ迷ったものの、結局は好奇心に負け、土手を降りて行った。
悪魔はニヤニヤと笑いながら、右腕で空中を掻き回し、オレンジ色に輝く風をガラス瓶の中に押し込んでいた。
風を閉じ込めると、悪魔はすぐさま指をパチンと鳴らした。
すると瓶の口の部分に、ポン、という音と共に煙が生じ、今まで存在しなかったコルク栓が出現した。
瓶の中でゆらゆらと揺れる風は、まるで生きているようだった。
「それは何?」
颯斗が尋ねると、悪魔は愉快そうに言った。
「こいつは〝風の子ども〟だ。今さっき生まれたばかりだから、まだ空の色が抜けきっていないのさ」
「どうして瓶に入れるの?」
「どうしてって、檻に入れたんじゃあ隙間から逃げちまうだろ?色のついた風は、観賞用として人気がある。売り飛ばせばいい金になるんだ」
「でも、大人になったら透明になっちゃうんじゃない?」
フン、と鼻を鳴らして、悪魔が答えた。
「風ってのは、空を駆け回ることで成長するんだ。こいつはもう大人にゃなれねえよ」
悪魔の言葉に、颯斗の胸は締め付けられた。
風を閉じ込めるなんて、とても酷いことだと思った。
「あっ、あそこ!」
颯斗は川の方向を指差して叫んだ。
つられて、悪魔がそちらを見る。
その隙に、颯斗は瓶を奪い、地面に叩きつけた。
「ああっ、俺の風が!」
瓶が割れたことにより自由になったオレンジ色の風は、あっという間に空高く舞い上がり、空へと溶けた。
「このクソ餓鬼!何しやがる!」
悪魔の罵声を振り切るようにして、颯斗は土手を駆け上がった。
颯斗はクラスで一番足が速いのだ。
少ししてから振り返ると、悪魔は河川敷に立ったまま、じいっと颯斗のことを睨みつけていた。
翌朝。
颯斗は学校に行くため、街中を歩いていた。
空は快晴で、雲一つない。
突然、そよ風が吹いた。
その瞬間、颯斗の目の前に広がったのは、黄昏時の土手の風景だった。
颯斗は驚き、足を止めた。
戸惑いながら、周囲を見回す。
オレンジの空、草のさざめき、川のせせらぎ——これは、一体——
ガシャン!
——大きな音が響き渡り、颯斗はハッと正気を取り戻した。
そこは、先程まで歩いていたのと同じ通学路だった。
進行方向に、ビルの上の方から落下したと思われる、喫茶店の袖看板が転がっていた。
立ち止まっていなければ、頭に直撃していたかもしれない。
通行人が、悲鳴をあげたり、スマホで壊れた看板の写真を撮ったりする中、颯斗の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「くそっ!もう少しだったってのに!」
見ると、道路を挟んだ向こう側の歩道で、悪魔が地団駄を踏んでいた。
看板の落下は、どうやら悪魔の仕業らしい。
不思議なことに悪魔の姿や声は、颯斗しか気がついていないようだった。
「命拾いしたな、小僧!だが、次こそは——」
と、悪魔がそこまで言った時だ。
いきなり強い風が吹き荒れ、悪魔がよろめいた。
「うおっと——」
車道へふらふらと進み出た悪魔に、猛スピードのトラックがぶつかった。
「——うぎゃああああっ!?」
悪魔を轢いたトラックは、そのまま何事もなかったかのように走り去って行った。
道路には死体の代わりに、黒い砂山ができていた。
その砂も風に吹かれて、どこかへとさらわれていってしまう。
颯斗は考えた。
自分を立ち止まらせてくれたそよ風は、昨日助けた〝風の子ども〟にちがいない。
そしてさっきの強風。
あれはたぶん、お父さんかお母さんではないだろうか。
きっとそうだ——風の親子が、今度は僕を助けてくれたのだ。
もちろん、本当のところはわからない。
しかし。
「ありがとうね」
そう呟いた颯斗の前髪を、風がふわりと揺らした。
颯斗にはそれが、風が「どういたしまして」と言ったように思えた。
コメント
1件
すごく優しいお話だった…! 颯斗くんが風の子どもを助けたシーン、胸が熱くなったよ。悪魔がちょっと可愛く見えてくるのもずるい(笑)。最後の「ありがとうね」に風がふわりって返すところ、すごく好き。読後感がふわっと温かくて、また明日も頑張ろうって思えた。ありがとう、阿炎快空さん🌙