たった1人増えただけ、ただそれだけで状況は一転した。
それだけではない。みんなの連携力が格段と上がっている。
それに、若干心配の種だった結月も、思いのほか馴染んでいる様子だ。
一つ気がかりなのは、戦い方が以前見たときとは違っていること……なにかわけがあるのだろうか。
守結と桐吾と同じく、距離を測りながら反撃を狙う戦い方をしている。
「あの3人凄いね。息ぴったりって感じ。全然ヒヤヒヤしないで構えてられるよ」
「だね。あの感じなら回復もそこまで心配しないで安心できるけど、油断だけはしちゃダメだよ。前衛に集中し過ぎず、周りの警戒だよ」
「うん、そうだったね。しっかりしないとね!」
「いやー、それにしてもあの感じだと、私たちの仕事がないよねー。楽だからいいんだけどさー」
「まーあねぇー、私もそう思う」
たしかに、後衛火力である、彩夏と幸恵は、暇を持て余しているかもしれない。
前衛火力である3人は立ち位置を右に左に変え、ダメージをしっかりと与えて次々に討伐していく。
見ているだけでもかなりの爽快感がある。当の本人たちも顔をみればわかる。呼吸もそこまで乱れず余裕な表情をみせている。
同じく余裕を見せている後衛陣も、本当になにもしていないわけではなく、前衛陣の回避に合わせて魔法スキルを打ち込んでいる。
――この感じなら、準備万端といっていい。そろそろかな……。
「よし、一旦移動しよう!」
目の前のモンスターを討伐し終えて、僕は合図を出した。
ここら辺の地形は以前と同じ――ということはあの休憩できる場所もあるだろうから、そこまで移動――。
――予想は的中した。
目的の場所は、以前と同じ場所にあって、地形までも一緒だと確信できた。
ならば、ここにモンスターは出現してこないはず……休憩をしながら作戦会議ができる。
「ふぁー、動いた動いたー」
「うっひぁー、たっのしいーっ」
テンションが有頂天みたいな台詞を発しているけど、守結と結月は床の感触と温度を堪能している。桐吾も膝に手をついて呼吸を整えている。
「じゃあ、今から一旦休憩してソルジャーラットと戦おうか」
「よしきたっ! 俺の出番だな!」
「今回の戦いは、正直苦戦するとは考えにくい。でも、油断はできない」
そう、油断してはいけない。
前回の戦いも、ソルジャーラットを討伐することは成功した。
……だけど、あれは本当に勝ちといえるのだろうか。
油断はしなかった、敵の動きや習性などは事前情報通りだった。
……でも、それに頼り過ぎた。頼りすぎてしまった。
情報にない緊急事態への対処を焦った。
つまり本当のダンジョンだったら僕は――死んでいた。
「戦術的には、前回と変わらずでいこう。でも、今回は結月がいる。取り巻きの処理速度が格段と上がるから、ソルジャーラットに対する攻撃もスムーズになると思うんだ」
「そうだね、僕もそう思う」
「前回と同じってのはわかりやすいな。助かるぜ!」
「はいはーい! 私はわかりませんっ」
「だよね、じゃあ今から説明するね」
◇
「ねえねえ美咲、ちょっといいかな」
「どうしたの守結さん?」
守結は、美咲を連れてみんなの元から若干離れたところまで移動した。
「前回は……お礼がいえなかったから、今のうちにちゃんと伝えようと思って」
「え、え? 私、なにかしましたっけ?」
「うん、志信にいち早く回復させてくれたよね。ありがとうね――」
守結はそういうと、美咲に対して頭を下げた。
「そのことでしたか……いや、いやいや、頭を上げてよ! 当たり前のことだよ! だって私、プリーストだからっ!」
「――あっははっ、スッキリしたっ! ずっと、モヤモヤしてたというかー……しっかり伝えれてよかったっ」
真剣な表情で頭を下げたり、と思ったらガラッと笑顔になったりと忙しい表情の変化に、美咲は気持ちの整理がつかずに混乱している。
「それに、誰よりも早く駆け出したとかもー、幸恵がいってたようなー?」
「あ、いや、それはなんというか、その……体が勝手に動いたというか! なんというか……」
美咲の顔は首から耳たぶまで真っ赤に染まり、ぶんぶんと首と手を横に振り始めた。
「ごめんごめん、ちょっと意地悪な言い方だったね。美咲って、普段ちょっとクールっぽいけど、かっわいい~」
「か、からかわないでよー! もー!」
「よし、しーくんの話も終わったみたいだし、支援――よろしくねっ!」
守結は美咲に手を差し伸べた。
「お互いに頑張ろうね」
握手を交わした2人は、みんなの元に足を進めた。
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