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鍛錬は、午後四時に終わった。二人はその足で役所に向かい、武闘会への参加手続きをした。
シルバの予想通り、やる気の全然なさげな職員はリィファの事情を尋ねず、通り一遍の説明をするだけだった。入校の時期に関しては、武闘会後になるという話だった。
役所を辞した二人は、帰途に就いた。一度、通って道がわかったのか、リィファはシルバの右斜め前を行っていた。右足、左足、左足、右足の順で擺歩、扣歩を繰り返し、半円状にくるくると身体を回しながら。
リィファが左を向いた時、シルバは顔を眺めた。幼い印象だが集中で澄んだ表情をしていた。
(常に訓練を意識、か。良いじゃねえか。すぐ試したがる辺りは子供っぽいが、純粋なのは長所だな)
リィファの動きを注視しつつ、シルバは思索をしていた。
五秒ほど歩いていると、びりっとリィファの足下から小さく音がした。リィファは、「あっ」と口を開いてしゃがんだ。
「すみません、シルバ先生。わたし、靴を壊しちゃいました。ジュリアさんが、せっかく貸してくれたのに。どうしましょう」
申し訳なさそうに告白したリィファは、悲しげにシルバを見上げてくる。
(初めて名前を呼ばれたな。ちょっとは信頼されてんのか?)
シルバは、リィファの靴に視線を落とした。小さな茶色の革靴は、内側の先の部分が僅かに破れていた。
「死にそうな顔をすんな。ジュリアはアバウトだから、直して返せば許してくれる。……いや、違うな。『ごめんね、すぐ破れちゃう靴なんか貸しちゃって。怪我はなかった?』っつって、逆にお節介を焼かれると見た。変なところで気を揉むからな」
シルバが冷静に予想を告げると、リィファは納得するかのように小さく微笑んだ。
「シルバ先生とジュリアさんって、本当に仲良しですよね。こないだ出掛けた時もジュリアさんは、ずうっと先生の話をしてましたし。なんか羨ましいです。深い絆を感じて」
優しげなリィファの指摘に、シルバは意表を突かれた思いだった。
「六年以上の付き合いだからな。仲が良いかは知らんが、ジュリアについちゃあ色々理解してるつもりだよ」
苦し紛れに返事をする。だが、リィファは訳知り顔でシルバを暖かく見詰め続けている。
「靴屋に持ってって修理してもらおう。ちょうど職人街は、帰り道にあるから」むず痒い思いを抱きながら、シルバはリィファを追い越した。