勇斗と初めて会った時すぐに分かった。「あーアルファだ」って。
勇斗と初めて会ったのは俺が14歳の時。
勇斗は16歳で、太智は13歳。
第二の性の検査を受けるのは15歳。
あの時の勇斗はすでに検査を受けていて、でも、聞かなくてもわかるくらい勇斗には元からオーラがあった。
運動神経も良かったし、頭も悪くない。そして、なんといってもあの容姿。
まだまだ、これからって感じもあったけどあの時から勇斗は完全に化ける顔をしていた。
なのに、歌もダンスも下手で結構本気で「なんだこいつ。結局顔かよ」って思った時期もあった。
俺も15歳を迎えると第二の性について検査を受けた。
自分では「どうせ、ベータだろう」と決めつけてた。
「吉田くん、君はオメガだね」
「え?」
医者の話が耳に入ってこない。
俺が…オメガ…
いや、気づいていて気づかないふりをしていたのかもしれない。
どこかでわかってて。でも、認めたくなかった。
「じんとーどやたん?検査!もしかしてアルファやったりしてん!」
無邪気に聞いてくる太智を前にしてなんて言っていいかわからなかった。
太智なら第二の性なんかで人を判断するようなことはないって頭ではわかってるのに。
「じんと?」
14歳の純粋無垢な瞳を見ることができなくて俯いた。
「…じんとが言いたくないなら聞かない。でも、どんな仁人でも仁人は仁人だよ」
そうだよな。太智はそういう男だよ。
「オメガだったんだ。俺」
「…そか。ま、困ったことあれば僕を頼ってよ!ま、なんもわかんないけど」
そう言ってへへっと笑う太智に俺も笑う。
「頼りないなぁ~」
「頼りなくないよ!任せてよ!」
太智に元気づけられて気持ちを持ち直したけど、試練はそれだけじゃなかった。
アルファの勇斗とオメガの俺。
そんな二人が同じグループで活動ということに難色を示した大人たち。
「グループを解体するかどちらかが抜けるか」
一人呼び出され当時のマネージャーに言われた。
アルファ至上主義のこの世でオメガに選択権なんてなくて。
俺だけ呼び出された時点でわかってた俺に辞めて欲しいんだと。
でも、俺はM!LKってグループが好きで、他なんて考えられなくて、俯いて口を真一文字に結ぶことしか出来なくて。
そんな大人との張り詰めた部屋にノック音が響いた。
「入ってもいいっすか」
扉から顔を覗かせたのは勇斗と理事長で。
「仁人がいないなら俺はM!LKで活動しない。俺は今のM!LKが好きだから」
そう言い切ってしまえる勇斗が羨ましくて悔しかった。
「仁人、君さえよければ勇斗と契約を結ばない?」
「けいや…く?」
理事長の言葉に首を傾げた。
「そう。番とまではいかないけど、これから仁人もヒートがきたり勇斗はオメガの女優に狙われたりするかもしれない。そんな中助け合うっていう契約だ。勇斗は…」
「仁人ならいいよ。仁人、俺と契約しよう」
なにを言われているのか、その頃はわからなかった。
でも、M!LKを続けれるならと当時の俺は首を縦に振った。
今ならその契約がなんだったかなんてわかる。性欲処理。セフレ契約だ。
でも、勇斗はただそばにいるだけで何かをされたことなんて1度もなかった。ほんとに、ただ、一緒にいるだけ。
そんな勇斗との関係が変わり始めたのは柔太朗達が加入した年ぐらいからだったけか。
いつでもそばに居た勇斗に近づくなって怒られるようになった。理由なんて直ぐにわかった。
勇斗に「運命の番」が現れたんだって。
「オメガなん?」って聞いたわけじゃない。
でも、同族嫌悪かそばに居るとあまり好みじゃない香りに勇斗から放たれる甘い甘い香り。
それはそいつといる時にしか香らなくて。
俺と勇斗の間に愛だの恋だのはない。ただの契約だから「運命の番」が現れた勇斗にいつか俺は捨てられるんだって覚悟してた。
なのに、二十歳の誕生日に勇斗から贈られたチョーカー。
チョーカーを送られた時「あ、まだ勇斗のそばに居ていいんだ」って思えたのに、今はこれに縋ってないと立って居られないくらい勇斗との関係は希薄で。
頭ではわかってる。「勇斗を自由にしてあげないと」って。
俺と勇斗の間に愛だの恋だのはない。勇斗さよならだよ。
別れを告げる日は勇斗が撮影の為に5日間大阪に行く日に決めた。
勇斗は喜んで別れるだろうけど、俺には気持ちを整理する時間が必要だから。
『佐野さん、いままでありがとうございました。これからはただのメンバーに戻りましょ。本当に大切な人と幸せになってください』
打っては消して打っては消して、やっと伝えたいことを打ち終える。
これを送ってしまえば、勇斗とのこの関係は終わる。こんなにも寂しいのはなんでかな。
震える指で送信ボタンを押す。
ふっと息を吐き出せば、自分の体が熱くなっているのに気づく。
このタイミングでヒートか。
『多分、ヒートくるんでヒート休暇申請お願いします』
マネージャーに連絡を入れればすぐさま返って来る返信。
『わかりました。一応佐野さんに連絡入れときますね』
『いや、勇斗には自分で連絡するんで大丈夫です』
嘘をついた。勇斗に知られるわけにはいかない。
勇斗に連絡する気なんて毛頭ない。
さっき、さよならしたばかりなのだから。
『わかりました。ちゃんと家に帰って家の鍵締めてくださいね。食料必要であれば連絡してください。ドアノブにでもかけておきます。困ったことがあれば早めに連絡してください。いいですね?』
『わかってますって。じゃ、お願いします』
親でもそんな心配しないわと思いながらマネージャーの優しさに少しだけ癒される。
ヒートの症状が出る前にスーパーに寄り食料を買いだめる。
5日間は家から出ることはできないから。
買い物を終えて、自宅に向かっていたはずなのに気づけば勇斗のマンションの前で。
「なんでぇ…」
頭では帰らなきゃと思うのに体が言うことを聞かない。
「最後だし」「勇斗にバレなきゃいいか」「5日間勇斗いないし」
言い訳ばかり並べて合鍵で玄関を開ける。
家の中に入ればそこら中勇斗の匂いで体がより一層熱くなり、お腹の奥が疼く。
「ふっ…ぅっ、ん…」
吐くと息すらも甘さを纏う。
買い物したものをリビングに運ぼうとしていたのに気づけば寝室にいて、ベッドへ倒れこみすーっと息を吸い込めば勇斗の香りに包まれる。
「んぁ…あっ、ふぅ……ん」
完全にヒートが始まってしまった。
頭はぼーっとしてきて勇斗の匂いに包まれているだけで幸せで、お腹の奥が物欲しげに疼く。
「はゃ…と」
名前を声に出して呼んでみても返事のない静寂に寂しさを覚え、再度枕に顔を埋める。
でも、気づけば枕もすでに自分の香りが移ってしまい、勇斗の香りが薄い。
「これ…も、やだ」
枕を放り出し、クローゼットを開けば先ほどよりも濃く勇斗の香りが鼻腔を擽る。
「んふっ…はぁ」
自分が着ている服を脱ぎ捨てて、勇斗のお気に入りのパーカーに袖を通す。
勇斗が来てもでかめのパーカーは俺が着たらもも丈でショートワンピのようになる。
下はパンツだけを身に着けて、クローゼットから手当たり次第に衣服を取り出し、ベッドの上に並べていく。
「ん、いいな」
もりもりに盛られた勇斗の服の山に顔を埋める。
「んっ、ぁ、は、ゃと…すき」
口に出して気づく。好きだったんだって。
好きになっちゃったんだって。
誰よりもM!LKが大好きで、誰よりもM!LKを有名にしたくって、誰よりも努力家で、誰よりも無茶するそんな勇斗をいつの間にか好きになってたんだ。
でも、もう遅い。なんなら気づきたくなかったよ。
下半身はもはやぐじゅぐじゅで、下着の色も変わって「抱かれたい」としか考えられないのに、その相手は「勇斗がいい」なんてわがままが駆け巡る。
自分で慰めても一向に収まらない欲はただただ苦しくて。
「…ゃと……は、やと…はやと」
「どした?仁人」
「っぅえ…」
うわ言のように呼んでいた名前に返事が帰ってきて頭が真っ白になる。
振り返れば勇斗が居て気づけば勇斗に抱きついていた。
「仁人、巣作ったん?」
「…?」
わけもわからず見上げた勇斗の顔は苦しそうで、でも、嬉しそうで。
「無意識でこれかよ…」
苦虫を噛み潰したよう表情もかっこよくて、腰が砕けてその場にぺたんとへたれこむ。
「仁人、俺の事好きか?」
「すき……」
座りこんだ俺にしゃがんで目線を合わせた勇斗に聞かれる。
「…じゃない」
残り少ない理性を総動員して否定する。
だって、勇斗の運命の番は俺じゃない。
勇斗の運命の番は……柔太朗だろ。
「…チッ、巣作りまでしといて、ほんと、こいつ」
ふわっと勇斗に抱き上げられてベッドにおろされる。
「仁人が素直になるまで手出すつもりなかったけどやめたわ」
勇斗がなにか言ってるけど勇斗から放たれるフェロモンでもう理性もなにもかもない。
もう、これしか考えられない。
「はやと、だいて」
「_______」
コメント
2件
最高すぎますほんとにやばいです。ほんとにほんとにやばいです。ありがとうございます😭😭😭
やばい最高すぎる