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出勤中、車を運転しながら成瀬は考えていた。
”夏帆”と呼んでしまったこと、
”同棲”と宣言したこと、
夏帆の肩を抱き寄せたこと。
全てが咄嗟にでたのは事実だ。しかし決して演技ではなかった。感情に任せていたら自然とそうなった。あの不実な亮介の話を聞いていたら猛烈に腹が立った。そんな男に必死に立ち向かう夏帆を守りたいと強く思った。すべてがその結果だ。目の前の信号が赤に変わり、成瀬はブレーキを踏んで停止した。
今の気持ちを整理してみる。成瀬はかつては自分も持っていた感情を今は完全に取り戻していると確信していた。
夏帆の付き合っていた彼氏が目の前に現れた。この男が――と嫉妬に似た感情が沸き上がった。あの亮介のダメぶりを目の当たりにして、これ以上夏帆に近づくなと強く思った。そして気が付いたときには”大切な人を自分のものにしたい”と強く願い、夏帆を抱きしめたくなった。
だからあの時なんのためらいもなく”夏帆”と呼び、愛情があるからこそ”同棲”と言い、そして小さな肩をたまらず抱き寄せたのだろう。
信号が青に変わった。
成瀬はアクセルを踏み込んだ。基地まで続く海岸線を眺めながら成瀬は心をフラットにする。それでもやはり答えは一緒であった。
ふっと思わず口から洩れる。そして自分に向かって声をかけた。
「思っていたより深く、夏帆さんに落ちてるな」