テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,461
3
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――――「ああ――――――――――ッ!」
麗三は悲しみと怒りと、恐怖、絶望のあまり、自室で泣き叫んだ。
そして、高梨の手により電源を切られていたスマホにすぐさま電源を入れた。
なおちゃんから何十件もの着信履歴が残されている。
夜中の1時、やっとなおちゃんに電話を掛けた。
『麗三! 麗三っ?! 大丈夫か、麗三ッ……?!』
「なおちゃんっ、なおちゃんっ……」
涙でのどを、鼻を詰まらせながら……この悪夢を麗三はなおちゃんにすべて話した。
なおちゃんは『ちきしょうっ! 何て事だ!』と叫び……泣いていた。
そしてすぐに『今から行く。娘には上司に呼び出されたと言って、今夜は麗三のところに泊まるよ、いいかい?』
「うん……ぅぅ、ううー……ッ」
泣き止まない麗三。
『今すぐ行くよ!』
なおちゃんは電話を切り、40分もしない内に来てくれた。
「なおちゃんっ!」
「麗三っ……」
しばらく優しく麗三を抱きしめ髪の毛を撫でてやるなおちゃん。
「麗三、警察に高梨を突き出すためにも……まず、麗三の体の為に、産婦人科へかかるんだ、行くよ?」
「はい。でも……あたし、殺される! なおちゃん! 怖いです。怖い! 怖いよぉー! 嫌! 怖いっ!」
「麗三、わかった。まずは産婦人科へ行こう。それだけでも、オレからのお願いだ」
「……わかりました」
麗三となおちゃんは、産婦人科で詳細を説明した。麗三の体をいたわるために薬が処方された。それと、「万が一警察へ行く時の為に」と、ドクターが診断書を書いてくれた。
二人は麗三のマンションへ帰宅した。麗三は処方薬をすぐに服用した。
恐怖の嵐の中だが、麗三は考え続けている。
(もう、この仕事はあたし、できない)
麗三は誇りを持ち、一生懸命努力してきた。店の女の子達は優しい人ばかりだった。
(でも……あたしはこの先、どうやって暮らせば……)
けれども、こんな恐ろしさの中、嬢の仕事が無理なのはわかり切っている。この先がどうだとか、そんな事はあとから考えよう。兎に角辞める。
(あたしは……あたしは、葉也途の母親よ?! 自分に負けてたまるものですか! 暴力に屈しないわ。あたしが店を辞めるにしても、高梨は捕まるべきよ!)
なおちゃんに介抱されながら、なおちゃんに大切に扱われながら、行き着いた答えだ。
「なおちゃん、あたし今すぐ110番します」
「麗三」
しっかりとなおちゃんは麗三を抱き締めた。
麗三は震える指で、警察に電話を掛けた。そして詳しく事情を話した。
警察官が2名やって来た。1名は女性の警察官でなんだかホッとした。
警察署へ行く必要があり、麗三はなおちゃんに連れられ警察を訪れた。
犯人検挙の為に再度、警察指定の婦人科で検査を受けて欲しいと言われた。
「わかりました」
高梨には、女性として、人として惨めな思いをさせられた。でも、関わりたくはない。二度と顔も見たくない。
被害届は出さなかった。
だが、事件が重いものとして、警察は捜査をすぐに始めた。
なおちゃんは、ひと晩中麗三の髪の毛を撫で、黙ってただただ抱き締めてくれていた。
いつの間にか二人は眠っていて、明け方に麗三が目を覚ました。
「なおちゃん! なおちゃんっ、起きて、なおちゃん」
「ン……アァ~」
「なおちゃん、今日お仕事なんじゃないの?」
「うん……今日は麗三にどうしても話したい事があるから休むよ。リーダーの子に変わってもらうよ」
「そうなの……。なんだか、ごめんなさい」
「何言ってんだよ、こんな時に。良いの!」
「はい」
それから2時間ばかし、二人は再び眠った。
すっかり二人が目を覚ましたのは朝7時半。
麗三はさっそくなおちゃんの為に、朝ごはんの支度をしようとした。が、なおちゃんに止められた。
「オレがするよ。座ってな、麗三」
「あ、ありがとう」
見つめ合いながら、朝の淡い光の中……なおちゃんが準備してくれたトーストとスクランブルエッグをいただいた。
「わー! なおちゃんの淹れるコーヒー、格別だわ!」
「エヘヘ、だてにカフェの店長やってないからね」
「うん、うん」
麗三は……身体中が痛かった。乱暴を受けたせいで。
その心身が癒やされる……とってもおいしい朝ごはん。温かい気持ち。
二人がひと息ついていると、麗三のスマホがけたたましく鳴った。
警察からだ。
「高梨を逮捕しました。検査結果も合致しました。平塚さん、安心されて下さい」
スピカーフォンにしていたので、内容をなおちゃんも把握した。
「はい、お世話様です。わかりました」
ひとまず電話を切った。
「なおちゃん!」
「麗三、ひと安心だね。本当に、良かった。」
そしてうつむきがちななおちゃん。
「麗三、オレ……今日、麗三に話がある」
「はい……な~に?」
「あ、食べてからにしよ」
「はい、わかりました」
二人はキラキラした光の中、静かな朝食を終え、ソファーに移った。
「麗三……?」
なおちゃんはソフトにギュッ! と隣にいる麗三の腰を抱いた。
そして麗三のほうを向いて言った。
「結婚しよう」
「え?! ぁ……ハ、イ。でも、早季ちゃんの為にそれはできないわ」
「麗三……早季ね、実は『一人暮らしがしたい』って去年から言ってたの。それで、部屋が見つかったんだよ。それと……『パパにはお付き合いしている人がいる』とこの間話したんだ」
「え! 早季ちゃん大丈夫なの? 反応はどうだったの?」
「うん、それがね、こっちが拍子抜けするほど『パパの好きにやりなよ! 応援するよ!』だなんて、あっけらかんと言ったの」
「そうだったのね……」
「麗三……家はそんなに立派なお屋敷なんかじゃないけど、きてくれないか? 当然だけどオレ、麗三以外の女性は考えられない。ずっと一緒に居たいんだ。葉也途君、嫌がるかな……? 葉也途君の気持ちが大事だ」
「葉也途は、とても活発で自立しているわ。いつも『ママはママの生活をエンジョイして!』って言ってくれます。応援してくれるはずです」
「……ンー、でもオレ、焦り過ぎたな。やっぱ葉也途君の意向を聴いて……」
いきなり電話を始める麗三。
「もしもし? 葉也途? ママ、プロポーズされたの!」
『マジで!? おっめでと~。俺、嬉しいよっ、ママ! 幸せになって!』
スピーカーフォンにしたスマホから『イェ~ィ!』と喜ぶ息子の声。本当に明るくて、でき過ぎなぐらい心の深い子だ。
なおちゃんの瞳がウルウルしている。
……麗三も、涙が……涙が止まらない。
(25回結婚したあたしを信じてくれて、一途に想ってくれるなおちゃん)
「なおちゃん、あたしも、なおちゃん以外の男性は考えられません。プロポーズ、お受けします」
『ララ』として勤めていた『夢と黒猫』の店長には事件の翌日、すぐに事態を打ち明けた。
「何て事だ! ララちゃん、大丈夫か!? 大丈夫な訳がない。客と言えども赦せない!」
とっても心配する店長。
もう、続けられない。この恐怖。心と体の悲鳴を大切に聴いてやろう、と足を洗う事を麗三は店長に申し出た。
無論店長は引き留めはしなかった。
「ララちゃんの健康が一番大切だ。店の事は一切気にしないで!」と言ってくれた。
*
麗三となおちゃんは婚姻届けを提出するために、仲良く役所へ行った。
その際なぜだかわからぬが、麗三は本籍地の戸籍謄本を確認したくなった。
そこにはこれまでの全婚姻歴が載っている。自分でもなんでそんなものを見たくなったのかよくわからない。
1人……2人、11人……13人……17人…… あれ?
「なおちゃんっ!」
大声を上げる麗三。
何事が起きたのかと「なぁに?! どうしたのっ?」となおちゃん。
「あたしっ、24回しか結婚してなかった!」
なおちゃんは……そんな事は別に、そんなにこだわる、ビックリする事なのか?! キョトンとしている。
「キリが良いね! なおちゃんは25番目のだんなさん。最後のだんなさんっ!」
なおちゃんは……『25番目のだんなさん』に少し引っ掛かった。まるで『25番目に好きな人』みたいじゃないかと……。
でもそんなトボけたところも含め、子どもみたいな麗三の丸ごとがなおちゃんは好きなんだ。
結婚おめでとう! 麗三、なおちゃん。
*
人は毎日生まれ変わる。
朝がくる度生まれ変わる、いいえ。いいえ、1秒後だって新しい。
麗三は強気なドレスを脱ぎ捨て、チャペルの音を聴くよ。