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あぁ、好きになんてならなければ良かった。


ひと夏の恋心と後悔と。


───


「こっちこっち!」

なんて言って笑うのは私の好きな人。繋ぐ手と手は固く、私を導いた。

白いワンピースに艶やかな黒髪がたゆたう。

「今日はどこ行くの?」

「うーん……秘密かなぁ、」

そう言いつつ彼女は足を止めた。

「絶対に後悔させないから。だから──心配しないで着いてきてよ」

真剣な顔でそう言う彼女はどこかおかしくって。

「なにそれ、そんなこと言わなくても着いていくよ」なんて笑って返した。

彼女は私に微笑んでまた目的地へと足を運んでいく。



「じゃじゃーん!」

繋がれた手がはなされ、彼女は腕を広げてみせた。

「おぉ…!」

目前に広がったのは大海原。海鳥の鳴く声と潮風が頬をなでる。

「きれい…」

美しいものを見ると語彙力は低下する。だってそうなのだ。様々な青の混じり合った海。それと──にこりと微笑む彼女の姿に一瞬で目を奪われたから。

「喜んでもらえて良かったっ」

「うん、ありがとう」

私は彼女の手を握る。

「えへへぇ、」なんて笑う彼女が愛おしくて。


私は一線を越えてしまった。


大好きだったから──抑えが利かなくなって_キスをした。彼女は驚いたような顔をして、私のもとから逃げるように走っていった。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

いくら謝っても許されることはないなんてこと。分かってる。でも私は謝ることしかできなかった。

なんでキスしちゃったんだろう。あの思いも波にのみ込まれてしまえば良かったのに。

どうして─どうして女の子を好きになっちゃったのかなぁ。私が男だったら、良かったのに。気にせず恋が出来たのに。

彼女を失った悲しみと自分に対するどこにも行けないもやもやした気持ちで頭が痛い。

最悪だ最悪だ。私って本当に最悪だ。好きなこの気持ちさえも考えられない。もう嫌だ。

頬から涙が滑り落ちる。それは海水みたいにしょっぱくって、後悔と悲しみの味がした。

「ごめんね…」

もう一度、チャンスをください。次は絶対にこんなことで終わらせたりしないから。



もう少し、夢を見ていたかった




───


別に君からのキスが嫌なわけじゃなかった。私も同じ気持ちだったから。だから──怖かった。

もっと好きになるのが。怖くて怖くて、いつも好きな気持ちを忘れようとしてた。

でも無理だった。

忘れようとする度、愛する気持ちが大きくなって、好きがどんどん増えていって。

これ以上は望んでいなかった筈なのに。もっと君を求めてしまう。

これは君のためという言い訳にすぎない。本当は私のせいだから。

でもこの現状はもうどうにもできない。

「…どこで間違えたんだろう、」

男に生まれたら、君を最期まで幸せにできていたのかな。



君の全てが。本当に大好きだった。

ごめんね。

君と見た空と海が混じる。

空と海みたいな。そんな関係で、ずっと一緒に居たかった。



Fin__

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