久しぶりの外の世界は輝いていた
誰かの声がした
家の方向から聞こえる知らない少年の声
声変わりが始まったばかりのような不思議な気持ちになる声
確かに俺の名前を呼んだ
でももう構ってられなかった
雨の音だ、きっと聞き間違いだ
雨でぬかるんだ森は少年を疲弊させるに十分だった
上がった息を整えつつ晴れてきた空を見上げる
濡れた服が重い
「…居なくなったら少しは心配してくれるかなぁ………」
「そんな訳無いだろう」
「!?」
一人で居たつもりだった
さっきの声と同じ…でも誰だ?
「帰るぞ、ワース」
かえ、る、?
よく見れば彼のアザは見慣れた憎らしいものに酷似していた
敵だ、連れ戻そうとしている、
このまま帰れば無価値は永遠に外に出られなくなる
嫌だ
思えば初めて父に反抗した瞬間だった
泥はその意思ごと肯定し飲み干した
「!」
皮肉にも自分を理解出来るものは自分しか居ない事を知らぬ少年は
初めて誰かが共鳴してくれた喜びを泥に感じた
もう何もかもわからなかったけれど泥に沈み込む感覚に安堵を覚えた
優しく、しかし確実に彼を飲み込む泥はまるで意思を持っているようだった
「ワース!!今帰らないともっと酷い目に………!」
「誰か知らないけど父さんに言っといてよ」
「!」
「不出来な次男より優秀な長男に構え、って」
「ぁ………」
ずぷん、と沈んだ。
彼の言葉もまた、知らない少年…いや、実の兄を呪うのに十分だった。
思ったより泥の中は息がもたねえな
取り敢えず今後どうするか
仕事につかなければならない、が、
学歴の無い者は当然雇って貰えるはずがない
適当に中等部探すか
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