**恋してください華嶺さん**
私は華嶺まりあ。由緒ただしき家柄に生まれたけれど、中身は普通の女の子。毎日、決まりきった日常が繰り返される中で、周りの期待に応えようと頑張ってきたけど、心の中では常に「普通でいたい」と思っていた。
そんな私の日常に、ある日突然、五十嵐李斗が現れる。
李斗は問題児っぽい男子で、学校でもちょっとしたトラブルを起こすことが多い。髪の毛は無造作に乱れ、制服の着こなしもどこか気だるげで、まるでルールなんて守る気もないような雰囲気を醸し出している。でも、その反面、他人に対して気を使うことなく、何かあったらすぐに助けてくれる、そんな一面もあるのだ。
ある日の放課後。いつものように帰ろうとした私を、李斗が呼び止めた。
「なあ、華嶺。俺のこと、嫌い?」
その一言に、私は思わず固まってしまった。彼の言葉がどうしても頭に響いて離れない。私、そんなに冷たい態度を取っていたの?
「ううん、別に…」
と、返事をした瞬間、李斗がクスッと笑った。
「じゃあさ、俺が彼氏役をやってやるよ。お前、恋を学べよ。」
その言葉に驚きと戸惑いが入り混じった。恋…?私が、恋を学ぶ…?しかも、李斗が私の彼氏役だなんて…。こんなこと、普通は考えられない。でも、なぜか心のどこかでドキドキしている自分がいた。
私の反応を見て、李斗は少し照れた様子で言った。
「もちろん、俺のこと、好きにならなくてもいいんだ。でもお前ん家の祖父?が命令してきて。「お試し恋愛」でいいけどよ。」
私の祖父が言っているのはどうでもいい。え…?
「お試し恋愛」…?そんなもの、どうやって進めればいいのかさっぱりわからない。でも、どうせならこの機会に「恋」ってものを学んでみたい。普段、私には縁のないことだし、このままじゃ一生わからないままだろうと思ったから。
それに、李斗が意外と優しくて面倒見がいいことは、知っていた。だから、私が「恋」について知りたいと思っても、きっと李斗なら教えてくれるだろうと思ったのだ。
「じゃあ、ルールを決めようか?」
私はそう言って、少し真面目に考えた。李斗は少し面倒くさそうな顔をしたけれど、なんだかんだで付き合ってくれた。
「お試し恋愛のルールか…。毎日一緒に帰る、とかは…?」
次の日から、私たちは「お試し恋愛」を始めた。でも、最初は本当に何もわからなかった。李斗が突然、私の肩を触ったり、わざと近づいてきたりするたびに、私は思わずドキドキしてしまった。…だって!李斗が悪いのっ!
ただ、李斗はあまりにも照れくさい部分を見せないので、私もその反応にうまく対応できなかった。彼はいつも無愛想で、どこかぶっきらぼうに接してくる。でも、それが逆に私をさらにドキドキさせる。
「お前、ドキドキし過ぎ。」
李斗が時折、私の反応に驚きながらも言ってきた。私、そんなに顔に出ていたのかな?でも、ドキドキするのがわからない自分が、わかってきた気がした。
まだ全然、恋ってものを学んだとは言えないけれど、李斗との時間は確かに新しい世界を私に見せてくれていた。そして、私は少しずつ、恋に対する不安や疑問がなくなってきているような気がした。
「俺、まだお前のこと、ちゃんと好きになったわけじゃないからな。」
そんな李斗のつんとした一言が、逆に私の心をしっかりと掴んでいたのだった。