数時間経っても、まだ診療所に運び込まれる怪我人は続いた。
薬剤のつきた診療所では、もうユリの祈りだけが唯一の治療行為というしかないほど、絶望的な状況に陥っていた。
せめて、他の祈り師が王宮にいたら、ユリの負担も少しは経験されただろう。しかし王が出国中の現在、多くの関係者が同行していた。
経験の浅いユリだけが、この突発事態に対応できる、ただ一人の祈り師だった。
ユリは、見る目も明らかに、消耗していった。
運び込まれる瀕死の患者に祈りを続けながら、彼女自身が何度も意識を失いそうになった。
タクヤは尋常ではないユリの衰弱に気がつき、もう限界と察した。
この『死の部屋』からつれ出さなくてはならない。いくら祈りが必要とはいえ、ユリ自身が死んでしまっては、もともこもない。
患者がいったん途切れたところで、タクヤは「もう見てられない。そこの君、悪いけど手伝って」と近くにいた男に声をかけて、意識がもうろうとしているユリの両腕をささえて、半ば強引に外につれ出した。
ユリは一歩、外に出るなり、芝の上に崩れるように寝そべった。
ユリは、伏して、見た。
草の細い葉を。
はかない草の命をぼんやりと見つめて、自分の無力さを噛み締めた。