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アズマが仲間に加わることになった僕たちは、アズマの旅支度が済むまで待機することになった。
「ひーーまーーーーー!!」
さっきまで海岸で遊んでいたカナンは、痺れを切らして僕の前で渋い顔を浮かべる。
「暇って言われてもなぁ……」
「カナンも『ビュンッ!』ってやつやりたい!」
「ビュ……ビュンッ!ってやつ……?」
「神威のことじゃないですか?」
「あー、空間移動してるから、ビュンッ!か……。でも、そんな時間もないしなぁ……」
すると、徐にアゲルは手を広げる。
「 “光魔法 オーバー” 」
詠唱の途端、セーカもガロウも動かなくなった。
「え……対象の動きを三秒間止める魔法じゃないのか……?」
「言いましたよね、ヤマトの旅に同行することで、僕の魔法の制限が少しずつ解けていると。光魔法 オーバーの時間は三十分まで伸びました。行ってきたらどうですか? カナンちゃんとの時空旅行」
クスッと笑ってみせる。
飛び回っても疲れるだけなのに……。
すると、今度は僕の肩に手を置いて詠唱を唱えた。
「 “光魔法 スルース” 」
「なんだ……? それは交信魔法だよな……? でも、互いに同じことを念じ合わないと交信できないって言う……」
「近場で交わした交信であれば、合言葉を決めなくても遠方で交信が出来ます。危ない時にはお話ください」
「行く前提かよ……。しゃーない、ちょっと行ってくる。カナンー、どこ行きたいんだー?」
「カナンがヤマトたちと出会ったとこ!」
自然の国の森林街か……。
よし。
「カナン、そしたら脚に引っ付いててくれ」
カナンは真剣な顔で、ギュッと掴んだ。
「よし、じゃあ、ギュンッ!ってするからな!」
“仙術魔法 神威”
僕とカナンは、あっという間に自由の国 森林街へと辿り着いた。
(ここで飯食ってる時に、ひょっこり現れたカナンと出会ったんだよなぁ……。 最初、カナンは予知って言っていたけど、結局それから予知らしいことは何も言ってこないし、カナンの勘違いだったのかな……?)
《さあ、それはどうでしょう? 真相は、カナンちゃんにしか分かりませんね》
すると、僕の心を読んだかのようにアゲルの声が脳に響いた。
「な、なんだよ……。スルースは相手の心の声も読めるのかよ……」
《そうなんです。景色までは見れていませんが、無事に自然の国へは到着しましたか?》
「うん、問題ない。でもなんか、前より活発だな……」
少し買い食いをしながら、僕とカナンは荒野地帯の方も再び訪れた。
(ここで、荒野地帯 兵士長 グレイスに成り変わっていた風の神 ヒーラと戦って、初めて魔法を使ったんだよな……)
《そうですね、あの時はヒヤヒヤしましたね!》
「アゲルが『風の神を探してます!』とか、ド直球に言ってたからだろ!」
初めて使った魔法、風魔法 フラッシュ。
手から暴風を放ち、相手を吹き飛ばしたり、咄嗟の思い付きだったけど、地面に放出して自分を高速移動させる為にも使ったな。
《風魔法は、風神魔法も含め、移動魔法でしたね。戦闘において速度は大事なので、やはり最初に風の神 ヒーラに会っておいたのは正解でしたね》
風の神 ヒーラに与えられた風の加護による風神魔法 ウィンドストームは、足から風を吹き出し、目で示した場所まで高速移動する魔法。
(そう言えば、この世界で『加護』って言葉をよく聞くけど、七神も唯一神 バベルから加護を受けてて、その守護神も七神から加護を受けてて……僕もまた違った加護を受けてる。 その違いってなんなんだ……?)
《そうですね、端的に言えば『役割』が違います。唯一神 バベルから与えられた七神への加護は、国を作り、人民を守る為に必要な力なんです。だから、国を覆うほど膨大な魔法を七神の皆さんは扱えます。守護神の与えられる加護は、『七神の意志に沿う力』ですね》
「なるほどな……。だから、風の神の守護神 バルトスさんは水の防御魔法で、炎の神の守護神 ダンさんは巨大な隕石の岩魔法だったわけか。七神の性格で大きな差が出るなぁ……」
《今ヤマトが仰ったように、『風の加護』と言われてはいますが、バルトスさんが風神魔法を扱えないのは、厳密には『風の力』ではなく、『神の力』が与えられてるからなんです》
「じゃあ、僕が風神魔法とか、炎神魔法とか、それぞれの神の加護による魔法が使えるのはなんでなんだ?」
「異郷者であるヤマトには全属性が秘められているからです。考えてみてください。神の加護の魔法、とは言っても、それぞれの属性魔法を更に強化したような魔法で、七神や守護神の皆さんに比べたら少し見劣りする力ですよね》
「確かに、風魔法も速度が上がって、炎魔法も例えるなら切れ味が変わって、水魔法も操作性が変わったな」
《それこそが、ヤマトが異郷の星から来たことによる、ヤマトの『役割』が違うからなんです。発現する魔法も個々に違うように、ヤマトの発想力や潜在能力によって、属性魔法が移動魔法なのか、攻撃魔法なのか変わってきます》
暫くアゲルと交信しながら歩いていると、自然の国で内乱を起こした襲撃部隊長のランガンさんと、一緒に歩いて来たのは、森林街 兵士長、風の神 守護神のバルトスさんだった。
「あ! いつかの俺たちの邪魔をしたガキ……!」
「ヤマトさん、お久しぶりです」
「バルトス、お前の知り合いだったのか?」
「知り合い……そうだな。『風の神を見つけてきてくれた人』と言った方が早いかな」
すると、ランガンさんは迅速且つ、丁寧に頭を斜め九十度に下げた。
「そうだったのか……あの時は、本当にありがとう……!」
「え、えぇ……? 今、自然の国はどうなってるんですか……?」
「あなた方のお陰で、国民全員が「力を合わせていい国にしよう」って話にまとまることが出来たんだ」
「そ、そうだったんですね……!」
僕たちは、結局内乱が終わり、風の神 ヒーラが全員を治癒したところまでしかいなかった。
「それじゃあ、少しだったが、これから森林街と荒野地帯の重鎮会議があるんだ。失礼するよ」
そう言って、二人は去って行った。
「そう言えば、この世界の人ってみんな日本語を話してるけど、それも何かの魔法の効果なのか?」
《それは魔法とは違いますが、唯一神 バベルがこの世界を作った時に定めたこと。理のようなものですね》
「じゃあ、僕の言葉って……?」
《皆さんにはしっかり、この世界の言葉を流暢に喋っているように聞こえていますよ。逆に、ヤマトへは全員が流暢な日本語として聞こえているでしょう》
「じゃあ魔法って……」
《ヤマトが異世界を意識しすぎて、『魔法』という概念になっているだけで、こちらの世界では当たり前なものですからね》
「そういう仕組みだったのか……。だから仙人や仙術魔法ってのも、日本特有の言葉に変換されてたってことか」
《そうです。この世界の言葉や魔法の類は、全てヤマトの脳が近しい日本語に自動翻訳している、と言う解釈だと分かりやすいかもしれません》
まあ、だとしてもガロウさんは、『仙人』に置き換わる程の人物だった、と言うわけか……。
「あれ! カナンの破壊した岩!」
「本当だ! そのまま残ってるな!」
(初めてカナンの魔法を見た時は驚いたな……。 弓矢を放つと爆破するんだもんな……)
カナンは炎魔法の使い手で、弓を放ち、矢が着弾した場所を激しく爆破する魔法だった。
(そう言えばカナンは詠唱をしてないけど、これもアズマみたいな、その人の特異な魔力に寄るものなのか……?)
「いえ、カナンちゃんは口が回っていないだけで、心の中で詠唱しているはずです。ですので、魔法の名前はカナンちゃんしか分からないわけですね」
「確かに、僕も常に、口で必ず詠唱してるわけじゃないな。 心の中で唱えることの方がむしろ多いけど、この世界の人たちって、しっかり詠唱してる人が多いよな……)
《それは環境の問題です。シンプルに『周りがそうしているから自分もそうしている』と言うだけで、心の詠唱でも魔法の発動は誰でも出来ますよ。ただ、口で唱えた方が意識が全て魔法に向くので、集中力が必要な魔法は、口でしっかり詠唱した方がいいかも知れません」
荒野地帯はまだまだ寂れた姿だが、街人たちは活発に働いている様子が伺えた。
カナンの我儘には困ったけど、自然の国の復興が見られていい機会だったかもしれないな。
「カナンちゃんに感謝ですね」
「それじゃあカナン。そろそろ帰るぞー」
「ほーい」
そうして、カナンは僕の脚にしがみ付いた。
“仙術魔法 神威”
僕とカナンは、自由の国 沿岸沿い洞窟前に戻って来た。
僕たちが戻ると、アゲルの光魔法 オーバーはとっくに解かれており、セーカが怒った顔で詰めてきた。
「ねえ! 二人だけで旅して来たって聞いたよ! ズルい! なら私もゴーエン達に会いたい!」
既に事情を聞いたらしいセーカも、カナンのような我儘を僕にぶつけてくる。
「アゲル……まだ三十分も経ってないだろ……」
「すみません、光魔法 スルースとの同時使用だったので、光魔法 オーバーの時間が少なくなってしまったようですね……」
そう言うと頭を掻きながらヘラヘラ笑った。
「準備にはもう少し時間が掛かりそうですし、セーカさんも楽園の国に連れて行ってあげたらどうですか?」
「えぇ……」
「何よ! えぇ……って! 行きなさいよ!」
「分かったよ……」
そして、ウキウキとした表情を見せるセーカは、僕の腕を掴んだ。
「それじゃあ行くぞー」
“仙術魔法 神威”
僕らが辿り着いたのは、炎の神 ゴーエンの演説が印象的だったステージ前の港だった。
あぁ……、ここでゴーエンに無理やり喧嘩祭りの参加を言い渡されたんだよなぁ……。
「わあ! すごい! 本当に楽園の国まで一瞬で着いちゃった!」
セーカは喜びを隠そうともせず、街をぐるぐると眺めていた。
「あっれれ……? ヤマトくん?」
僕らの背後から突如話し掛けて来たこの声……。
(ヤバい……! 緊急事態だ……!!)
《ど、どうしたんですか……?》
その声の主は、
(龍族の一味のルークさんがいるんだよ!!)
楽園の国で最初に出会った龍族の一味。
龍族のことや様々なことを語り、僕の旅を更に危険なものだと悟らせた張本人だ。
「なんでルークさんが……、ゴーエンに『顔は覚えた、二度と来るな』って言われてたはずなのに……」
すると、ルークさんは運んでいた荷物を下ろし、僕らに近寄って来た。
「ああ、俺の顔は覚えられてなかったからね」
そうして、ヘラヘラと笑ってみせた。
「それに、覚えてない? 俺は、ヴォルフが暴走した際に、守護神の前で『楽園の国と良好な関係でありたい』と布石を打っておいた。だから手助けをしたんじゃないか」
喧嘩祭り準決勝戦、僕は炎の神 ゴーエンの一番弟子 グランさんに敗退し、その後、ヴォルフは暴走を始め、ルール違反をして守護神 ダンさんを負かし、それから暴走が止められなくなって大変な決勝戦を迎えたんだ。
「今も戦う意志はない。僕は商売人だからね。さ、労働に戻らないと怒られちゃうから、行くね!」
そう言うと、足早にルークさんは去って行った。
すぐに、暫く街の方に駆けて行っていたセーカが戻って来た。
セーカを見て逃げたのか……。
《大事は起こっていないようで安心しました。まあ、あの人も商売の為には、まだ僕らと戦闘にはなりたくないでしょう》
「さっきの金髪の人、知り合い?」
現場に居なかったセーカは知らないのだ。
「えーっとね……龍族の一味……」
「はぁ!? 龍族!? 急いでとっちめないと!」
すると、セーカは脚の装備をバチバチ光らせた。
「ちょ、ちょっと待って、セーカ! 龍族の一味ではあるんだけど、あの人は取り敢えず大丈夫なんだ!」
セーカを制した後、僕はルークさんのことを話した。
「なるほどね……。私の装備の雷魔法で飛べば一瞬で捕えられたのにな〜!」
「そう言えば、装備を介してみんな移動速度を早めてるけど、それは魔法ではないの?」
「そうね、これは魔力を放出させてるだけよ。アズマの治癒もそんな感じでしょ? まあ普通は、素手であんな魔力放出は出来ないんだけどね」
「そう言えば、セーカって両手両足に装備を付けてるけど、それも全部、アズマみたいに魔力放出させてるだけってこと?」
「そうね。私の場合、雷撃が暴発しちゃうからこう言う装備にしてるけど、私の魔法名は雷魔法 ビライトってちゃんと名前があるの。ずっとゴーエンと修行してたから素手の近距離戦闘が主軸だけど、もしかしたら武器を持ったらとんでもない魔法に変わるかも知れないわよ!」
「ほぉ? 武器を持たせたら結局、暴発させた小娘がよく言うぜ!」
そこに現れたのは、炎の神 ゴーエンさんとその守護神 ダンさんだった。
「わあ! ゴーエンにダン!」
「お前ら、自由の国へ行ってまだ二日しか経ってないけど、どうしてここにいるんだ……?」
目を丸くしているダンさんたちに、僕は新たな仙術魔法 神威についての説明をした。
「へ〜。神の私も知らないな。仙人ってのがいて、ソイツから七属性のどれでもない仙術魔法ってのを使えるようになったのか」
ゴーエンは普段はまともだが、ゴーエンの炎神魔法 シャイニング・ブロウは、海をパックリと割り、島を破壊してしまうほどの威力がある。
「ああっ! セーカ様! こんなに直ぐに出会えるなんて奇跡ですか! 運命ですか!!」
そこに現れたのは、自由の国へ向かう途中に寄った孤島の、崩落した遺跡にいた研究者だった。
「セーカ……様……?」
ドン引きした顔で研究者を見下すセーカ。
「ちょっとゴーエン! どうしてこんな奴、国に滞在させたままなのよ! さっさと追放してよ!」
「私も考えたんだ。狼村の小僧に祭りをめちゃくちゃにされて、今までは私やダンが国を守っていればいいと思っていた。でも、それだけじゃ守り切れないものもあるって気付いたんだ。だから、コイツはムカつくが、技術力は相当なものだし、研究者として無賃金で雇って、国のセキュリティの為に発明に励ませているんだぜ」
そうか……確かに、国の外で魔物の任務が入ったら、守護神のダンさんだけが出向いてい
たらしい。
最初は、すごい!と思ったけど、よくよく考えてみれば、ルークさんたちみたいな侵入者は入り放題だし、ダンさん一人じゃどうしても荷が重すぎる。
「それで、どんな発明をされる予定なんですか?」
「ああ、まずは、他の国みたいに、喧嘩祭りに出場できるくらいの実力者を門兵に雇って、国に入る者を取り締まることにしたんだ。発明に関してはまだ追々ではあるが、船も大改造するつもりだ」
そう言うと、ゴーエンはニッシッシと笑った。
でも、楽園の国が本当の意味で楽園に変わるまで、もうじきのように思えた。
「じゃあセーカ、そろそろ戻ろう」
「分かったわ! じゃあね、みんな!」
“仙術魔法 神威”
僕たちが戻ると、アズマとガロウさんは、既に洞窟前で待ってくれていた。
「すみません、お待たせしましたか……?」
「いや、今さっき出て来たところだ。それより、その様子だとセーカは楽しい旅ができたようだな」
満足気な顔に、アズマも微笑ましそうに見た。
《お疲れ様でした、ヤマト》
「もう頭の中で会話しなくていいだろ!!」
《いえ、水の神 ラーチと別れる時に話した内容、僕なりに考えてみたのですが……》
最初に自由の国へ行った時、国王 キングに偉そうな態度を取られ、国王が向かった先には、自由の国 水の神 守護神 ロロを含んだアイドルたちがいた。
しかし、あの時のロロは龍族の一味が幻影魔法により成り代わっており、龍の加護の力で、水の神であるラーチすらをも欺いていたのだ。
《最初、国王のキングさんが『ロロの魔法で外音制御や、演奏を聴かせている』と言っていました。改めてラーチに確認したら、本物の守護神であるロロさんも同じ能力を持っているとか》
「成り変わって、魔法もそっくりそのまま全国民を幻影で惑わしていた……」
《そう言うことになります……》
それから、龍族の一味でセーカの血の繋がらない兄、自由の国 博士長に成り済ましていたドレイクと出会って、デタラメだった『悪鬼討伐任務』に参加して、アズマや仙人 ガロウさんと出会ったんだ。
ドレイクも、雷魔法 ジャックによる洗脳で、僕も思い通りに操られてしまった。
みんなとの戦いになって、本当に申し訳なかった……。
《まあ、アレはヤマトだけのせいではないですよ》
「だから頭の中はもういいって!!」
そして、ガロウさんは僕らに近寄った。
「そろそろ、行こうか」
僕たちは揃って返事をした。
「はい!」
次の目的地は、岩の神がいる守護の国だ。