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「寝ちゃったか。ま、その方がちょうどいいな。それよりも伊織、メッセージ見たかな……さっきはまだ既読になって無かったけど……。まぁ、仮に見てなかったとしても、俺は実行するけどね」
一人そう呟く雷斗の言葉と表情は何やら意味あり気なものだった。
その頃伊織はというと、
「アイツ、どういうつもりなんだよ、こんなメッセージ送ってきやがって」
仕事を済ませ、事務所でひと眠りしていた伊織が目を覚まして雷斗からのメッセージに気付いて目を通したのだが、記されていた内容が納得いかないものだったのか酷く苛立っている。
雷斗が送ってきたメッセージは写真付きのもので、写真は砂浜で一人黄昏ていた円香の横顔。
そして本文には、『これからいつものホテルに彼女を連れいてく。伊織に少しでも気持ちが残ってるなら、来なよ。もう一切気持ちが無いって言い切れるなら、来なくていい。その時は、彼女は無理矢理にでも俺のモノにする。タイムリミットは20時』そう記されていた。
時計を見ると時刻は十八時半。
指定されたホテルはここから車で一時間も掛からない距離にある。
時間はまだあるからなのか、伊織はベッドの上から動く気配が無い。
それから十分程が経っただろうか。
「……気持ちなんて、残りまくってるに決まってるだろうが……アイツだって、それを分かってて、こんなん送ってきやがる……」
苦々しげな表情で呟いた伊織は突如ベッドから起き上がると、
「クソっ! だからアイツ、ムカつくんだよ」
そんな言葉を吐き捨てて乱暴にドアを開けて部屋を出て行った。
「…………んん……」
暫くして、眠ってしまっていた円香が目を覚ます。
重い瞼をゆっくり開き、円香の瞳に薄らと映ったのは見知らぬ天井。
「え?」
その光景には当然驚くだろう。だって、眠る前は確かに車の中に居たのだから。
「こ、ここは……? 私、どうして?」
イマイチ状況が飲み込めない円香が一人パニックになりかけていると、
「目、覚めたんだ?」
横から声を掛けられた円香がそちらへ視線を向けると、シャワーを浴び終えたばかりなのか、下はジーンズを穿いているも、上半身は裸で髪が濡れている雷斗の姿があった。
「は、早瀬さん!?」
「よく眠ってたからね、抱きかかえて連れて来ちゃった。ビックリしたよね? ごめんね」
驚き焦る円香をよそに、マイペースな雷斗は話を続けていく。
「あ、円香ちゃんもシャワー浴びる? 温まりたいなら浴槽にお湯張るけど?」
「え? い、いえ、その……大丈夫です。そ、それより、ここは一体……?」
「ああ、ここは俺が借りてるホテルの一室。仕事で使う用なんだよ」
「そ、そう……なんですね……。それで、私は何故ここに……?」
「何故って――」
円香は疑問に思った事を雷斗に問い掛けると、彼の口角が微かに上がって円香の座っているベッドに膝をつき、そして――ぐっと彼女の身体近くまで自身の身体を寄せて迫るような体勢になり、
「円香ちゃんと、もっと仲良くなりたいなぁって思ってるからだよ」
互いの鼻先が触れそうな程近くに顔を寄せた雷斗がそう口にした。
「え……」
それには円香も予想外だったのか、動く事すら出来ずに固まってしまう。
明らかに動揺している円香の頬に触れた雷斗が唇を近付けてキスをしようとすると、
「だ、駄目!!」
すんでのところで力いっぱい雷斗を押し退けた円香は顔を背けてそれを拒んで彼から逃れようとするけれど、
「きゃっ」
ベッドから降りようとした円香の身体を強引に押し倒した雷斗は彼女の上に跨り、冷めた瞳で見下ろしながら、
「駄目だよ、その気が無いなら、男と二人きりになんてなっちゃ。寝るのも無防備過ぎ。それじゃあ襲われても文句言えないと思うよ?」
口元だけが笑っていた。