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エルリット10歳です。
この世界に転生してから10年になりました。
赤ん坊の頃の記憶はほぼない……まぁそういうもんだよね。
オルフェン王国、辺境の村ラットン。
その隅にある孤児院、物心ついた頃には俺はそこにいた。
捨て子だったらしい・・・優遇されないにしても、もうちょっと普通の出生がよかったよ。
剣や魔法といったファンタジーな世界らしい、けど今のところそれらの恩恵を感じられない。
「もやしみたいな体、ボサボサの白くて長い髪……こんなの薄気味悪くて誰も里親になってくれないよ」
この10年、俺は前世の記憶を活かしてなんとかならないものかと試行錯誤はした。
「俺には射撃の才能がきっとあるんだろう、でも……」
そう、この世界には肝心の銃がない。
「ないなら作ればいい、そう思ってた時期が俺にもありました」
……銃の構造とかよくわからないので秒で挫折した。
「弓、そう弓矢ならこの才能を発揮できるんじゃ……」
子供なりにがんばって廃材で作った弓矢。
俺はワクワクしながら試し撃ちをしようとしたところに、ある話を聞いてしまった。
この世界にはエルフという種族がいて、弓矢はエルフの独壇場らしい。
なんでも風の流れを読むのだとか。
「俺にはそんなもの読めないしな……」
夕日の見える丘に、そっと弓矢を置いて俺は忘れることにした。
才能は活かせなくても俺には前世の知識がある。
なら別に射撃じゃなくても……。
例えば料理とか……うん、前世でもしたことないな。
日本独自の鍛冶技術とか……そんな知識があるわけもなく。
思えば前世でもこれといって何かを努力してきたわけじゃないしな…。
「なんもないじゃん……はぁ」
残された道があるとしたら、何度かこの村でも見かけたことがある……冒険者。
「その日暮らしみたいでヤダなぁ…」
とはいえ、孤児院を出て行った者のほとんどは、冒険者になるために大きな街へ向かっていった。
今から体力作りとか、筋トレとかできることをやっておこうかな。
「魔法とか覚えてみたいなぁ、それっぽい冒険者いたら聞いてみようかな」
でもこんな薄汚い格好じゃ相手にしてもらえないよね。
……水浴びしてこ。
◇ ◇ ◇ ◇
この村はあまり広くない。
つまり、必然的にこの村に1軒だけある宿に冒険者は訪れる。
あとは村にいる純朴な少年風に魔法のことを尋ねればいいわけだ。
「完璧な計画なのでは?」
宿の近くに潜み、冒険者が訪れるのを待つ。
中に入って行きたいが、この村では俺の顔は割れてしまっている。
孤児が何の用だと追い出されてしまうだろう。
「あっ、もし魔法使いが加齢臭漂うおっさんだったらどうしよう」
ただでさえ冒険者は汗臭いイメージがある。
そこに加齢臭まで加わったら話を聞くどころではない。
「そもそも誰か来るんだろうか……」
待つこと1時間、宿に変化はないが隣の雑貨屋から一人の女が出てきた。
真っ黒なローブ、やや紫がかった黒くて長い髪、無駄に開いた胸元、巨乳。
「ま、魔法使いだ……間違いなく魔法使いだ」
(あれ? でも店に入るとこ見かけなかったけどな…)
1時間以上前から雑貨屋にいたとか?
物好きだなぁ。
とにかく見た目はバッチリだ。
これで魔法使いじゃなかったらただの痴女だ。
よ、よし……声をかけてみよう。
「あ、あの……お姉さんは魔法使いですか?」
「……は?」
「俺エルリットっていいます。魔法に興味があって…その……」
「俺? ……悪いけどねお嬢ちゃん、私ヒマじゃないの」
そう言って去って行くお姉さん。
ひょっとして魔法使いじゃなかったのか?
「なんだ痴女のほうか」
「あぁん?」
は、般若が迫ってくる。
地獄耳かよ、ってそうじゃない、逃げないと!
しかし般若に回り込まれてしまった。
「誰が痴女だって?」
「今は般若です」
「般若……? あのね、お姉さんこれでもけっこう有名な魔法使いなの。あんまり失礼なこと言うと……」
「失礼なこと言うと?」
「お嬢ちゃんを魔道具の素材にしちゃうわよ」
「ま、魔道具? そんなのがあるの?」
「えっ? そこに食いつくの?」
魔法だけじゃなくて魔道具なんてものがあるのか。
これはなんとしても教えを請わねばなるまい。
「今までの非礼はお詫びします。俺に魔法や魔道具についてご教授いただけないでしょうか」
「な、なんか急に大人びた言葉遣いになったわね」
しまった、純朴な少年風の計画が……。
「でも悪いわね、さっきも言ったけどヒマじゃないの。せっかく手に入った素材がダメになっちゃうから、早く帰らないと……」
「どこに帰るんですか?」
「んっ」
お姉さんが指差した場所は遠くに見える森だった。
あそこはたしか……。
「絶対不可侵の森……?」
どう進んでも必ず入口に戻される。
魔物がいるのかどうかさえ不明な謎の森。
「魔女が住む森とも言われてるけど……入っても戻されるだけでは?」
「そりゃそういう術式を組んだからね」
「えっ? それってどういう……」
お姉さんの方を見ると、そこにはすでに誰もいなかった。
「…………俺お嬢ちゃんじゃないよ」