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ネシア@ 🐱🍁🐾 ←好き
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ゲスト様のコンテストに参加させてもらいます!
一応、漫画(女体化)も描くつもりなんで、気長に待ってていただけたら嬉しいです🤭
青桃
説明はめんどくさい人なんで、飛ばさせていただきます!!
※読んだら分かります
病院の天井って、どうしてこんなに白いんだろうなって、いつも思う。
白くて、何もなくて、ずっと見てると、自分まで空っぽになるみたいで。
「……ないこくん、調子どう?」
看護師さんがカーテンを少し開けて、俺の顔をのぞいた。
「まあ、普通っす」
本当は普通じゃない。全然普通じゃない。
体はだるいし、痛いし、眠れないし、吐き気もする。
でも、もう慣れた。慣れすぎて、これが普通になった。
俺、16歳。
難病持ち。高校はほとんど行けてない。
生活のほとんどは、この病院。
友達は最初はお見舞いに来てくれてたけど、だんだん来なくなった。
そりゃそうだよな。ずっと病院にいるやつと遊んでも楽しくないし。
スマホを見ても、みんなの写真は遊園地とか、カラオケとか、放課後とか。
俺の写真フォルダは、点滴スタンドと病室の天井ばっか。
「……はあ」
ため息をついたら、カーテンの向こうから声がした。
「ため息ついたら幸せ逃げるで?」
関西弁。
この病院で関西弁は一人しかいない。
「まろ」
カーテンがシャッて開いて、白衣の男が立ってた。
「誰がまろや。本名いふや言うてるやろ」
「でもみんなまろって呼んでるじゃん」
「それはお前が最初に呼び始めたからや」
そう。
この人、外科医。23歳。若いのにめちゃくちゃ腕がいいらしい。
でも俺にとっては、医者っていうより――
ちょっとうるさい兄ちゃん、みたいな人。
「今日、顔色悪いな」
「いつも悪いよ」
「まあせやな」
「否定してよ」
「嘘つかれへん性格やねん」
まろはそう言って、カルテを見ながら俺の点滴を確認する。
「痛みは?」
「ちょっと」
「ちょっとちゃうやろ」
「……ちょっと痛い」
「はい、強がり」
図星だった。
この人、すぐ見抜く。
俺が平気なフリしてるのも、痛いの我慢してるのも、怖いの隠してるのも。
「痛かったら痛い言え。俺医者やぞ」
「医者でも痛いのはどうにもならないでしょ」
「……まあ、全部は無理やな」
珍しく、まろはちょっと困った顔をした。
「でも、楽にすることはできる」
「……そっか」
まろは注射の準備をしながら、俺の顔を見た。
「ないこ」
「なに」
「つらいか?」
その言葉で、なんか急に喉が詰まった。
つらいに決まってる。
でも、つらいって言ったら、なんか負けたみたいで。
かわいそうな人って思われそうで。
「……別に」
「嘘やな」
「嘘じゃない」
「嘘や」
「……」
まろはため息をついた。
「16歳やろ。遊びたい年やろ。学校行きたい年やろ。
つらくないわけないやん」
「……」
「なんで我慢すんねん」
その言い方が、怒ってるみたいで、でも優しくて。
気づいたら、俺は言ってた。
「……だって、どうしようもないじゃん」
声が少し震えた。
「俺がつらいって言ったって、病気治るわけじゃないし」
「……」
「俺が泣いたって、何も変わらないし」
「……」
「だったら、我慢してた方がいいじゃん」
病室が静かになった。
点滴の機械のピッ、ピッって音だけが聞こえる。
まろは少し黙ってから、俺の頭を軽く叩いた。
「アホ」
「痛い」
「16歳が悟ったこと言うな」
「……」
「つらいときはな、つらい言うてええねん」
「……」
「しんどいときは、しんどい言うてええねん」
「……」
「我慢ばっかしてたら、壊れるで」
その言葉で、なんか、胸の奥がぐちゃぐちゃになった。
「……もうちょっと早く会いたかったな」
気づいたら、そんなこと言ってた。
「なんでや?」
「そしたら、もうちょっと人生楽しかったかも」
まろは一瞬、すごくびっくりした顔をした。
それから、少し笑った。
「今からでも遅ないやろ」
「遅いよ」
「遅ない」
「だって俺、病院から出られるかわかんないし」
「出れる」
「わかんない」
「出れる言うてるやろ」
「なんで言い切るの」
まろは少し黙ってから言った。
「俺が出したるからや」
「……」
「俺外科医やぞ。舐めんな」
その言い方がちょっとかっこつけてて、思わず笑った。
「なに笑ってんねん」
「いや、かっこつけてるなって」
「うるさいわ」
でも、そのとき思った。
この人がいるなら、ちょっとだけ頑張れるかもしれないって。
「ねえ、まろ」
「なんや」
「俺がもし元気になったらさ」
「うん」
「一緒に働いてよ」
「……は?」
「同じ病院で」
「なんでやねん」
「だって、まろと一緒なら、病院ちょっと楽しそうだし」
「お前、職業なめてへん?」
「なめてないよ」
「ほな何になるつもりやねん」
俺は少し考えてから言った。
「……医者」
まろは固まった。
「……は?」
「医者になる」
「お前」
「まろと一緒に働く」
「簡単に言うなや。医者なるんめちゃくちゃ大変やぞ」
「知ってる」
「勉強もえぐいし、大学も長いし、寝られへんし、責任重いし」
「それでも」
俺は言った。
「まろと同じ仕事したい」
まろはしばらく何も言わなかった。
それから、俺の頭をくしゃっと撫でた。
「……ほな、生きなあかんな」
「うん」
「絶対生きろ」
「うん」
「約束や」
「……うん」
そのとき、俺は初めて思った。
生きたいって。
この人と、同じ場所に立ちたいって。
白い天井を見ながら、俺は小さくつぶやいた。
「……つらいけど、ちょっと頑張る」
カーテンの向こうで、まろが言った。
「つらいね」
「……うん」
「でも、一緒に頑張ろな」
「……うん」
その日から、俺の目標は決まった。
外科医になる。
まろと一緒に働く。
そのために、生きる。
それが、俺の夢になった。
あれから、俺の生活は少し変わった。
相変わらず病院。相変わらず点滴。相変わらず痛い。
でも、前と違うことが一つだけあった。
目標ができた。
外科医になる。
まろと一緒に働く。
その目標ができてから、俺は毎日勉強するようになった。
ベッドの上で、参考書開いて、ノート書いて、眠くなって、痛くなって、休んで、また勉強して。
「……お前ほんまにやる気なんやな」
ある日、まろが呆れた顔で言った。
「やる気だよ」
「三日坊主や思ってたわ」
「ひどくない?」
「だってお前、前まで勉強とか嫌いやったやろ」
「嫌いだよ」
「ほななんでやってんねん」
俺はペンを止めて言った。
「まろと一緒に働くため」
まろは一瞬黙って、それから少し笑った。
「……アホやな」
「なんで」
「動機が俺って」
「いいじゃん別に」
「まあ……嬉しいけどな」
「嬉しいんだ」
「言わせんなや」
こういう時間が、俺は好きだった。
病院なのに、ちょっとだけ普通の生活みたいで。
でも、ずっと順調だったわけじゃない。
ある日、急に体調が悪くなった。
息が苦しくて、体が動かなくて、視界がぐらぐらして、
気づいたら、天井じゃなくて、手術室のライトが見えた。
周りがバタバタしてる音がして、誰かが俺の名前を呼んでた。
「ないこ!聞こえるか!」
まろの声だった。
「……まろ」
「大丈夫や。俺おる」
「……俺、死ぬ?」
「死なへん」
「ほんと」
「ほんまや」
でも、まろの声、少し震えてた。
「……まろ」
「なんや」
「俺さ」
「今しゃべんな」
「ちょっとだけ」
「……」
「まだ、一緒に働いてない」
「当たり前やろ」
「だから、まだ死ねない」
「……当たり前や」
「約束したもん」
「……ああ、約束したな」
そこで、俺の意識は一回途切れた。
次に目が覚めたとき、病室だった。
天井は、いつもの白い天井。
横を見ると、まろが椅子に座ったまま寝てた。
白衣のまま、腕組んで、壁にもたれて。
「……まろ」
小さい声で呼んだら、すぐ目を覚ました。
「……ないこ!」
「おはよ」
「アホ!心配させんな!」
「怒ってる?」
「当たり前やろ!」
でも、目がちょっと赤かった。
「……泣いた?」
「泣いてへん!」
「絶対泣いた」
「泣いてへん言うてるやろ」
「そっか」
俺は少し笑った。
「よかった」
「何がや」
「まろが泣いてくれる人で」
「……」
「俺が死んだら、ちょっとは悲しんでくれるんだなって」
次の瞬間、頭を軽く叩かれた。
「死ぬ前提で話すな」
「痛い」
「お前は死なへん」
「なんでそんな言い切るの」
「俺が許さんからや」
「……」
「お前は医者なるんやろ」
「……なる」
「ほな、生きろ」
「……うん」
それから、俺の治療は続いた。
手術もしたし、つらい治療もいっぱいあった。
何回ももう無理って思った。
でも、そのたびにまろが言った。
「つらいね」
その言葉、不思議だった。
頑張れじゃなくて、
大丈夫じゃなくて、
つらいね、って。
それだけなのに、なんか救われた。
つらいって、わかってくれてる人がいるって、こんなに楽なんだって思った。
それから何年も経った。
俺は生きた。
ちゃんと高校を卒業して、浪人もして、めちゃくちゃ勉強して、
医学部に入った。
大学の勉強は、本当に大変だった。
寝る時間もないし、覚えることは山みたいにあるし、実習もきついし、何回も心折れそうになった。
でも、そのたびに思い出した。
白い病室。
点滴。
痛み。
眠れない夜。
そして、いつも横にいた人。
――まろと一緒に働く。
その約束だけで、俺はここまで来た。
そして、さらに数年後。
俺は医者になった。
研修医になって、配属された病院。
外科の医局のドアを開けた。
「失礼します」
中にいた医者が振り向いた。
白衣。少し大人っぽくなった顔。でも変わらない関西弁。
「……ないこ?」
「久しぶり、まろ」
「お前……ほんまに来たんか」
「言ったじゃん。一緒に働くって」
まろはしばらく何も言わなかった。
それから、少し笑って言った。
「……アホやな。ほんまに医者なりよった」
「約束したから」
「覚えとったんか」
「当たり前でしょ」
まろは立ち上がって、俺の頭を昔みたいにくしゃっと撫でた。
「大きなったな」
「もう子供じゃないよ」
「俺の中ではずっと病室のガキや」
「ひどい」
「でも……」
まろは少しだけ優しい顔をして言った。
「よう頑張ったな」
その言葉を聞いた瞬間、なんか全部思い出した。
痛かったこと。
苦しかったこと。
怖かったこと。
眠れなかった夜。
死ぬかもしれないって思った日。
手術室のライト。
白い天井。
まろの声。
気づいたら、少し笑ってた。
「……まろ」
「なんや」
俺は言った。
ずっと言いたかった言葉。
でも、今まで言えなかった言葉。
「つらかったよ」
まろは少し黙って、それから静かに言った。
「……うん」
「でも、生きててよかった」
「……うん」
「約束守れた」
「……うん」
まろは少し笑って言った。
「ほな、これからは同僚やな」
「うん」
「甘やかさへんで」
「別にいいよ」
「外科、めちゃくちゃきついぞ」
「知ってる」
「寝られへんぞ」
「知ってる」
「怒鳴られるぞ」
「知ってる」
「それでも来たんやろ」
「うん」
俺は少し笑って言った。
「だって、まろと一緒に働きたかったから」
まろは呆れた顔をして、でも少し嬉しそうに笑った。
「……ほんま、アホやな」
そう言って、俺にメスの準備を渡した。
「ほな、外科医ないこ先生」
「はい、まろ先生」
「先生言うな気持ち悪い」
「じゃあ、まろ」
「それもやめろ」
俺は少し笑った。
白い病室にいた俺が、
今、白衣を着て、手術室の前に立ってる。
あの頃の俺に言ってやりたい。
ちゃんと未来は来るって。
つらいけど、終わらないって。
そして俺は、もう一度小さくつぶやいた。
「……つらかったよ‥笑」
コメント
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うわぁぁ、目から滝だ(((は?